第58話 VS邪神軍⑤/軟体生物の厄介さ(後編)
俺は何とか立ち上がり、迫りくる触手を跳んで避けた。
そのまま後退し、やつの触手が届かない範囲まで何とか逃げる事に成功した。
「畜生――あいつが大きくなった為か、周りの魔物達も結構減っているな――その変わりがあのイカか。こいつは俺とか栄治さんじゃないと太刀打ち出来ないぞ……」
俺は触手に吹き飛ばされてわかったが、触手の弾力性も先程の触手と全然違う。
恐らく普通の兵だと切る事も出来ないだろう。それぐらいの弾力性であった。
「厄介だな――山みたいにデカい胴体に人の身長並みに太い触手が40本か? それぐらいある。
しかも1本1本が柔らかく切りにくいし、速度も速い。さて、どう攻略するか……」
そう試行していると、先程武器を貸してくれた兵士が複数の武器を抱えてこちらに走ってきた。
「闘神殿! お待たせしました! とりあえずこの剣を!」
彼は複数ある武器をその場に下ろし、1本のロングソードを俺に渡してきた。
「とりあえず、持ってこれるだけ持ってきました! 槍が3本、剣が残り2本です! もっと必要になりますか?」
「すまん。恐らくもっと必要になると思うから、もう少し持ってきてくれないか?」
「ハッ、畏まりました! 他の者にも声を掛け、また戻ってきます!」
さて、何とか武器の確保に成功したので、改めてクラーケンを見てみる。
奴はその場から動いておらず、近づこうとする敵に対して触手を動かすだけだった。
「舐めやがって――でも今は動いていないが、動き出したらどんだけ被害が出てくるか……やっぱりこの場で倒さんとな」
少し気になって栄治さんの方を見ると、まだドラゴンと戦っているらしく、激しい土煙があちこちから上がっている。
どうやら小音子ちゃんは近くにいた栄治さんの方へ援護に向かったようだな。
「ていう事は、やっぱり俺一人でこいつの相手をしないとな――」
俺は置かれた武器の内、1本の槍を背中に、剣を1本腰に装着した。
そして、今持っている剣に闘気を這わせ、クラーケンに向き合った。
「よし、準備は出来た。今から第2ラウンドだ!」
俺はクラーケンに向けて走り出した。
それと同時にクラーケンは触手を繰り出してきた――数は6本。1本1本が人を簡単に殺せるぐらいの速度を出し、俺を潰そうと迫ってくる。
俺は今度はしくじらない様に、捌くのではなく1本1本を丁寧に切り裂き続けた。
しかし、残念ながらダメージを負っていないのか、クラーケンは気にせず新しい触手を繰り出してくる。
「クソッ! 切っても切ってもキリがない! しかも想像通り切った触手も新しく生えてくるしな――」
切っても切っても迫りくる触手。全く勢いは衰えず、俺は今足止めを食らっている。
奴を倒すには中に入らないといけないが、このままだとこっちが疲れてやられてしまう――
その時――
「闘神殿! 援護します!」
俺の戦いを遠巻きで見ていた兵士達が、抜剣しクラーケンに向けて突撃していった。
「ッ! バカヤロー! お前たちじゃ無理だ! 戻れ!」
案の定、クラーケンに突撃した兵達は、触手の一振りで吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた兵達は、運が悪い奴は頭から落ち、そのまま動かなくなり、それ以外の奴らも苦しんではいるが起き上がれない状態だ。
しかし、あいつらが突撃した際は、触手攻撃の勢いが少しだけ減ったのは事実だ。
「くそ――正直犠牲を出し続ければ、いずれは奴の胴体に届く。しかし……」
これ以上の犠牲をこの場で出した場合、俺の英雄としての名声もそこまで上がらない。だって俺を誉める声がその分減るからだ。
その時、さっき吹っ飛ばされた兵の1人が立ち上がった。
「――この化け物め……これでも……くらえ――」
その兵は、自分が持っていた槍をクラーケンにに投げつけた。
威力は弱く、あまり早くない速度でクラーケンに迫っていたが、クラーケンは簡単に払いのけ、そのままその兵を叩き潰し、その場にスプラッタの現場を作った。
しかし、俺はその光景を見て思いついた。
正直先ほどの光景を見て思ったのが、あいつは自動防御をしている可能性があると思った。
そのため、俺は腰に付けていた剣を取り出し、普通にクラーケンに向けて投げつけた。
案の定クラーケンはその件に反応し、さらに俺を叩き潰すために1本の触手を振るってきた。
俺はその触手を避け、背中の槍を投げた。もちろん奴はすぐさま反応し、その槍を振り払った。
「なるほどな――あいつは自分の領域に入ってくる異物を排除するタイプのボスか――となると……」
俺は遠巻きに見ている兵士達の元に行った。
俺の接近に気が付いた兵が、何事かと俺に要件を聞いてくる。
「頼みがある。あいつは飛んでくる剣や槍に反応して触手を振ってくる。
だから貴方達は奴にありったけの武器を少しづつ休まずに投げつけてほしい。
その隙に俺が奴の懐に飛び込み、奴を倒すから――」
その説明に納得したのか、周りの兵に指示を出し始めてくれた。
この作戦は、どれだけの武器をあいつに投げ続けれる事が出来るかにかかっている。
俺は更に一度に投げる量やタイミングを話し合い、持ち場に戻った。その際に今まで使っていた剣が少し曲がっていたので、別の剣に変えてもらい、更にもう1本追加し二刀流で行く事にした。
「さて、根競べだ。俺が先にお前の胴体に剣を入れるか、こっちの投げる武器が無くなるか、勝負だ!」
俺は駆け出した。もちろんクラーケンから触手が何本も俺に迫ってきたので、とりあえず切り捨てる。
少し遅れて約20本の剣や槍がクラーケンに向けて投げられた。
クラーケンはそれに反応し、飛んでくる武器を払い除ける。
多少の隙が出来たので、少しずつ進んで行く俺。
20、40、60と秒間3秒で投げられる武器を払って行くクラーケンはだが、その隙に俺はとうとうクラーケンの胴体まで10メートルのところまで辿り着いていた。
近づけば近づく程触手の動きが速くなり、本数も増えていく。
それを遠くからの援護攻撃で俺に来る触手攻撃の本数を減らし、あと少しで胴体を切れるところまでやって来れた。
しかし――
「闘神殿! 申し訳ない! あと20回程度しか投げる事が出来ない! 武器は集めているが時間が掛かっている!」
もう少しのタイミングでそんな報告が聞こえた。
残り20回という事は、残り時間が1分しかない――そう考えて、俺は剣を振るうスピードを上げた。
「オラオラオラオラ!! さっさとクタバレ!!」
残り時間が30秒――さらにスピードを上げる。
残り20秒――触手の付け根が見えた。
残り10秒――触手を付け根から切り裂き、胴体を切る為跳躍した。
そして――
「これで止めだ! 【ウルティメットスラッシャー】!」
俺は今剣術スキルで一番強いスキルを発動し、クラーケンを切り裂いた。
――ギシュゥゥゥゥー!!――
クラーケンの断末魔が聞こえる。しかし――
――パキッーー ――バキッーー
俺は手に持っている2本の剣が折れる音を聞いた。
どうやら触手を切り過ぎて、剣にダメージが溜まっていたらしい。
さらに威力の高いスキルを放ったのだ。量産型の普通の剣じゃ折れても仕方がない。
俺は手に持っている剣を捨て、予備で貰っていた剣を装備し、クラーケンを見た。
クラーケンは俺のスキルで腹から切り裂かれたためか、凄い勢いで青い血を噴き出しながら縮んでいる。
「ハァ……ハァ……やったのか?」
思わず出てしまった有名な言葉。それを意識した俺は咄嗟に口を手で塞ぎ、クラーケンを見る。
すると、クラーケンの大きさが15メートルぐらいの大きさぐらいまで縮んだ時に、やつは再び動き出した。
――ギシュゥゥゥゥー!!――
「まだ元気だったかイカ野郎! もうお前の攻略法はわかってんだよ!」
奴は再び触手を振り回すが、先ほどよりもスピードは遅く、簡単に避けれる。
しかも丁度いいタイミングで、最初に俺に武器を貸してくれた兵士が武器を抱えて戻ってきた。
「ナイスタイミング!」
俺は触手を避けながら戻り、武器を持ってきた兵士に事情を説明した。
「わかりました! ご武運を!」
兵達は改めて配置に付き、武器を投げつけた。それを振り払うクラーケン。
さっきよりも遥かに小さくなっているクラーケン。触手の数も15本程度に減っており、簡単にクラーケンの傍に移動出来た。
「今度こそ終わりだ! 【五月雨切り】!」
俺は高速で剣を振るう剣術スキルにて、クラーケンの体を切りまくった。
――ギシュゥゥゥゥー!!――
再び雄叫びを上げて倒れるクラーケン。
クラーケンの体から大量に流れる青い血。
クラーケンは更に小さくなり、とうとう5メートルぐらいの大きさまでに縮小した。
「やったのか?」
俺じゃない別の兵士からそんな声が聞こえる。
本来はフラグを疑うが、俺は手ごたえをしっかり感じたので、これだけは言える。
「ああ――クラーケンを倒したぞ」
「「「「「「「「「「――おおー!」」」」」」」」」」
俺がそう静かに宣言すると、周りの兵達は歓声の雄叫びを上げた。
しかもその雄叫びは俺達側だけでなく、栄治さん側からも聞こえてきた。
どうやら俺がクラーケンを倒したと同時に、ドラゴンを倒したらしい。
「はぁ~……疲れた……」
流石に今回ばかりは疲れた。この世界に来て初めての強敵戦だった。
俺は何とか自分に活を入れ、未だに喜んでいる兵士に近づき、一人一人の顔を見た。
「みんなありがとう! 貴方達のおかげでこのクラーケンを倒す事が出来た! もし貴方達がいなければ、倒すためにもっと多くの犠牲が出ていたと思う。
本当にありがとう。しかし、まだ戦争は終わってない! 少し休んで、準備が出来次第、まだ戦っている仲間の元に行き助けて欲しい」
俺がそう言うと、兵士達はクラーケンに投げつけた武器を拾い集めだした。
「闘神殿。此処で我々は態勢を整え、改めて戦いに参ります。闘神殿はどうされますか?」
「俺は仲間と合流し、更に来る魔物に備えて準備をします」
「了解しました。貴方と共に戦えて光栄でした!」
俺は何人かの兵士と握手し、栄治さんと小音子ちゃんの元へ向かって行った。
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