第57話 VS邪神軍④/軟体生物の厄介さ(前編)

 ――クラーケン――


 古今東西ありとあらゆる物語に出てくる海の魔物の代名詞。

 それは何所の世界でも変わらない特徴がある。非常に巨体であり、イカのような姿をしている。

 そのクラーケンは今、周りの魔物から水魔法を常にかけられている状態であった。

 まるで、その巨体を乾燥から守るように常に潤しているが如くであった。


「ていうかよ? お前なんかそこまで大きくないな? クラーケンと聞いたから、てっきり10メートル以上ある巨体かと思ったのに」


 そう、今のクラーケンは10メートルも満たない大きさであった。

 足の長さは一番長い足でようやく8メートルにいくかであり、これではただのダイオウイカと言われても仕方がないぐらいであった。


「ま、敵が弱いのであれば、それに越したことはないけどな! じゃあ早速死んどけ!」


 そう言って光は自身の拳に闘気を纏わせ、迫りくる触手を全て躱し、クラーケンの胴体部分にその拳を叩きつけた――


 ***


「っ! 手ごたえが無い! やっぱりイカって殴りにくいなこれ!」


 俺はいったんクラーケンから距離を取り、迫りくる6本の触手も全て払いのけ、今度は触手の付け根部分を殴りつけた。

 やはりそこを殴っても手ごたえが無く、いたずらに闘気を消費させただけになってしまった。


「っち――とりあえず、籠手じゃ倒すのが難しいな。どっかに剣とか槍とか落ちてないか?」


 俺は周りを少し見渡し、武器が落ちていないか探していたが、見つからない。

 その間もイカからの触手攻撃が止まらないが、俺は難なく避け、更にイカから距離を取った。


「くそ! ――仕方ねーな」


 俺は近くで戦っていた兵士の元に向かい、そいつが戦っていた魔物を瞬殺した。


「――闘神殿! ありがとうございます! 助かりました!」

「頼む! 武器を貸してくれ! あのイカを倒すには剣が必要なんだ!」

「なっ! ――畏まりました。私の武器を使ってください。私は後方に戻り、新たに武器を調達して参ります。何か他に必要な武器はございますか?」

「すまない! とりあえず頑丈で切れ味のある剣か槍であれば何でもいい! とりあえず借りるな!」

「ハッ! 私の武器を使い潰しても構いません。それでは戻ります」


 やっぱり最初の俺の突撃は間違いなかったな。俺の顔を知ってたみたいだしあの兵士――

 さて、必要な武器は手に入れた。後はあいつを切り倒すだけだ。

 俺はイカの方へ振り向き、剣を構えて駆け出した。


 イカは俺に気が付いたのか、再び俺に向かって触手を繰り出した。しかし、その数が今度は10本となっていた。


「何本増えても無駄だよ! オラ! 【微塵切り】だ!」


 実際には迫ってきた触手を切り捨てただけだが、俺は剣術スキル【微塵切り】を発動し、迫りくる触手を切りまくった。


 俺の職業【闘神】は、全ての武器が扱え、更に全ての武器のスキルを放つ事が出来る。

 そのため、今は剣を持っているので、剣術スキルを使い、目の前のイカを倒すために肉薄し、スキル名を叫んだ。


「死んどけ! 【アルテマブレイク】!」


 俺は剣術スキルでも威力が高いスキルを選び、イカに切りつけた。


 ――ギシュゥゥゥゥー!!――


 イカは俺のスキル技により、盛大に青い血を噴き出しながら、その場に倒れた。

 始めてイカの声を聞いたが、変な叫び声だな。

 俺はそんな事を考えて、剣に付いたイカの青い体液を振り払った。


「よし、クラーケン討伐完了。栄治さんと小音子ちゃんの方はどうなっているかな?」


 俺は2人が戦っている方向を見渡した。

 どうやら小音子ちゃんの方は戦闘が終わっており、栄治さん側はまだ戦闘中のようだ。


「流石小音子ちゃん。倒すの早すぎ――じゃあ栄治さんの援護に向かいましょうかね?」


 もう小音子ちゃんの強さには嫉妬も起きない。最初は起きていたが、今はそんな事気にしていない。

 何故なら、既に俺の知名度は右肩上りに昇っており、このまま活躍していれば、俺がMVP的なモノを取れるに決まっているのだから。


「さて、行くとしたいけど困ったな? 剣が少し曲がってる。このままだと折れるな」


 俺は先程クラーケンに大技スキルを普通の剣で放っていた。その衝撃により、今持っている剣が折れてしまいそうになっていた。

 そのため俺は、先ほどの兵士が新しい武器を持って来ると言っていたので、兵が来るまで少し休むことにした。

 俺は周りを見渡し、近くにいた兵士に話しかけた。


「済まない。大技を使ったため少し疲れた。回復の為に少し休むが、いいか?」

「――あなたは! ええ、もちろんです。クラーケンを倒したのですね! ありがとうございます!

 お安みでしたら問題ありません。ここら辺の魔物はクラーケンの死体に群がっていますので、我らも装備の交換等をしようと思っていたところです」

「わかった。ありがとう」


 確かに今魔物はクラーケンの死体に群がり、咀嚼のような音を出している。

 クラーケンに群がっている魔物を倒すことも考えたが、今まで休みなしで戦ってたんだ。少しは一息ついた方がいいのは確かかもしれない。

 そう思い、俺は兵と一緒に少し後方の陣に向かい、歩き出そうとした。

 しかし――


 ――ズズッーー


 確かに何かが這う音がした。どこもかしこも乱戦のため、気のせいかと思ったが――


 ――ズズッーー


 やはり這う音がする。俺はその場で立ち止まり、周りを見渡した。

 すると、クラーケンに群がっていた魔物が、自らの首を切り裂き、青い血を噴き上げて倒れて行った。

 しかも1体だけではなく何体もの魔物が、青い血を噴き出しながら死んでいった。


 ――シュルルルルルゥ――


 魔物達の死体の中央から、何か音がする。

 まるで、魔物達が噴出した血を吸っているような、そんな音だ。

 そして――


 ――ギシャァァァァァ!!――


 そんな声とともに、クラーケンは再び立ち上がった。

 しかもさっき倒したクラーケンより、かなりデカくなっている。

 目測ではあるが、10メートルを優に超え、15メートルぐらいあるんじゃないかと思う。


 しかもだ――周りの生き残っている魔物が、一斉に水魔法をクラーケンに放ち始めた。

 その水魔法を浴び、更にデカくなっていくクラーケン。

 気が付けば魔法を放っていた魔物は魔力切れの為なのか、魔法を放ち終わると先ほどの魔物達と同じように、自ら首を切り裂き、血を噴き出しながら死んでいった。


 クラーケンは、その魔物達の血を吸収し、更に大きくなっていった。

 どんどん大きくなったクラーケンは、およそ40メートル程の大きさになっていた。

 しかもイカの癖に、その足を10本ではなく30~40本にまで増やしていた。


 ――ギシャァァァァァ!!――


 知性があるのかわからないが、俺に対して十数本の足を延ばしてくるクラーケン。

 俺は持っている剣で何とか捌こうとするも、先ほどの触手よりも太く、更に速くなっており、捌ききれず触手に薙ぎ払われてしまった。


「ッグ! ちくしょ!」


 俺は何とか立ち上がり、態勢を立て直そうとするが、持っている剣が折れている事に気づいた。

 ヤバイと思った瞬間、再び太さが大の大人ぐらいにまで大きくなった触手が、俺の前に迫っていた。

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