第50話 100階層の秘密

「あれ? よくここまで来たね? 一人?」


 俺は今、ようやく100階層に辿り着いたと思ったら、目の前に小音子ちゃんがいた。

 やはりこの子は強い。レベルアップしてだいぶ強くなったと思っていたが、小音子ちゃんの姿を見た瞬間、その強さがわかってしまった。

 俺ではまだ勝てない。その事がわかってしまった。つまり、俺達召喚者の中で、小音子ちゃんが一番強いという事が今はっきりとわかってしまった。


「俺一人だ。小音子ちゃんはどうしてここにいるの?」

「暇つぶし」


 暇つぶしで俺達よりも先にこの場所に来て、暇つぶしで魔物達を狩り続ける。

 俺達と同じ召喚者なのに、なぜこんなにも違うのか、少し気になった。


「何時からここに来れたんだ?」

「この城に来てから割とすぐに――皆弱かったから遊べる場所を探してた」


 つまり、小音子ちゃんはこの世界に来て強くなったのではなく、最初から強かったって事なのかな?


「よくこの短時間でここまで来れた。最初は4人で必死だったのに――どうして?」


 小音子ちゃんが質問してきた。何故1人でここまで来れたのか。

 確かに俺にもわからない事がある。1人で来た理由は最初は強さを求めて来た。その次はレベルアップの秘密を知りたくてここまで目指した。

 ――そして気が付けば100階層まで来ていた。


「俺の職業【勇者】のおかげかな? どうやら敵を倒す度にレベルが上がって強くなるっていう能力らしい」

「ふーん……そうなんだ……」


 質問の回答をしたが、小音子ちゃんは興味がないのか、生返事をしてそっぽを向いた。


「――じゃあ君はもしかしたら私の求めている人になれるかもしれない……」

「え? どういう事?」

「今は教えない。そのまま強くなってくれればいい」


 なんだかよくわからないが、小音子ちゃんからは少し俺に親しみの感じが増えた気がする。


「いい事教えてあげる。この100階層は魔物は自然発生しない――この装置を使う」


 小音子ちゃんは謎の魔法陣が彫られてある装置の前に移動し、手をかざした。


「自分の手をかざすと、自分に合った魔物が出てくる」


 装置が少し青く光ったと思うと、目の前から魔物が3体現れた。

 その魔物は全て鬼型の魔物であり、俺が倒したオーガとは比べられない程の力を感じた。

 恐らく1体であれば倒せると思うが、3体同時となると恐らく負ける。


 それを小音子ちゃんは何でもない様に魔物達に真ん中に移動し、戦闘を開始した。


 2体の鬼が拳を繰り出す。しかも早い。2本の腕を交互に出しているが、ところどころフェイントも交ぜている。

 俺が受けた場合は、盾でいなして隙をついて剣で攻撃をするというパターンだと思うが、恐らくこの鬼たちには通用しない。

 拳の大きさと速さと力の感じから、俺が盾で受け止めた場合、俺の腕が折れる事が想像できた。


 小音子ちゃんはその2体の鬼の拳を紙一重で避け続けている。

 しかも残りの鬼の内、1体は魔法使いタイプであり、手の平に赤い魔力が溜まっている事がわかる。

 小音子ちゃんの隙を突き、何時でも魔法を放てる準備が出来ているのだろう。


 合計4本の拳を躱し続けていたが、ついに体勢を崩した。その隙を逃さず、魔法使いタイプの鬼が魔法を放った。

 炎の魔法が小音子ちゃんに迫るが、小音子ちゃんはその魔法を1度見て、ゆっくりとした動作で避け、そのまま流れるように魔法使いタイプの鬼の傍まで移動し、攻撃を始めた。


 前回も小音子ちゃんの攻撃を見ていたが、その時は一瞬の出来事だったので、よくわからないまま戦闘が終わっていた。

 しかし、今回は小音子ちゃんの動きが見える。あまりにも綺麗な動きだった。

 魔法使いの鬼の傍まで移動したかと思うと、そのまま棒を振った。鬼はその棒を右手で防いだが、そのまま小音子ちゃんのは鬼の体を蹴って空中に上がり、今度は頭に棒を叩きつけた。


 魔法使いの鬼は倒れたが、残りの2体の鬼が小音子ちゃんの目前まで移動していた。

 再び2体の鬼が拳を繰り出したが、小音子ちゃんは1体の右膝に棒を当て大勢を崩し、頭が下がったところに再び棒を叩きつけた。

 残りに1体も同じように大勢を崩し、簡単に頭を潰して戦闘は終了した。


「――ふぅ……こんな感じで戦える。強くなりたいなら、しばらくここを使ったら?」


 小音子ちゃんはそう言って、踵を返した。どうやら地上に戻るらしい。


「頑張って、勇者様……応援してる」


 小音子ちゃんは少し微笑んで地上へ戻っていった。

 初めて見たな、小音子ちゃんの笑顔。


 誰もいなくなった100階層のこの広場。俺は小音子ちゃんから教えてもらった通りに装置を操り、レベル上げをすることにした。

 俺に合った魔物が出てくるというが、レベルアップしていくと恐らく魔物の種類も変わっていくだろう。

 そしてその魔物が新たな魔法やスキルを持っている場合、俺は今よりもっと強くなる筈だ。

 まだまだ強くなる――そして俺が世界を救う――光君でもない、この俺が救うんだ――そんな思いが俺を突き動かしていた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 栄治が100階層まで来た。まさかこの短期間で1人でここに来るとは思わなかった。

 前回会ったときはたしか71階層だった気がする。

 あの人型の魔物がいた階層だったかな?


 佳織や凜々花はあの魔物を私が倒した後、妙に距離感を感じた。

 もしかしてあの人型を簡単に倒したからかな?

 あの魔物は動きが遅いから、誰でも簡単に倒せると思ったけど?

 やっぱり魔法使いの2人には難しかったのかな?


 光については見ていないので何とも言えない。

 噂に聞くと、訓練をサボって遊んでいるらしい。

 まるで私の家の兄達みたいだ。口だけは立派なのに実力が伴わない。そんな感じだと思う。


 そして栄治。彼は立派だ。しっかりと訓練をしており、とうとう1人で100階層まで来れた。

 だから教えてあげた。もっと強くなる方法を。

 彼が強く成れば、もしかしたら私を超えてくれるかもしれない。


 そして私より強くなったら――彼と結婚をする。


 私より強くなれる人って、今のところ栄治しかいないし、見た目は普通だらか問題ないし、この世界は祖父もいないから誰にも邪魔されない。

 ただ少し気になる事がある――


「栄治の目――焦ってる? イライラしてる? 凄く怖い目をしていた。大丈夫かな?」


 私より強く成ればどうでもいいんだけど、何故かその目が凄く気になった。

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