第38話 予言魔法具【ベオエルフトラ】
その日私は、自分の好奇心に勝てず、その魔法具を使ってしまった。
予言魔法具【ベオエルフトラ】
この魔法具に選ばれた預言者と呼ばれる人以外は使うことができない魔法具。
何故選ばれた人しか使うことができないのかはいまだに解明されていないようだけど、この魔法具は教会で管理されている魔法具だ。
だから【聖女】である私が、この魔法具の存在を知るのも時間の問題だった。
これは運命だったと思う。もしもこの魔法具の存在を知らず、またはこの時に私が好奇心を出さなかった場合、私も、そしてこの子も死んでいただろう――
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私がその魔法具を知ったのは、私が堕とした教会の関係者からもたらされた情報だった。
その日も私は、教会内にある私専用の部屋で、堕とした男の内の1人を呼び出し、甘いひと時を過ごしていた。
「沙良様、知っていますか? この国には預言者という方がいらっしゃるんですよ。もう会われましたか?」
預言者?まぁ勇者召喚とかがある世界だ。預言者がいてもおかしくないわね。
「私は会ったことがありませんが、預言者になるためには魔法具に直接選ばれなければならないそうです」
教会に保管されている魔法具の中には、用途不明なアイテムや、解析が完了していないアイテムが沢山ある。
私の仕事は教会内に保管されているアイテムの使い方を調べたり、より深く解析をしたりしている。
いろいろなアイテムを見てきたが、その予言ができるアイテムというのは初めて聞いた。
「沙良様は女神様の使徒のような存在です。もしかしたらその魔法具もご使用できるかと思いまして……」
なるほど。確かに教会に保管されているアイテムは、今のところ全部使うことができている。
もしかしたら私も預言者になれるかもしれないわね。
「その予言の魔法具ですが、今まで一度も預言を外したことがないそうですよ?」
ということは、そのアイテムは未来を見ることができる魔法具なのかもしれないわね。
確かナガヨシ君? だったかな? その子が元の世界に帰還できると言っていたから、そのアイテムで帰還方法を探せるかもしれないわね。
もしもこの世界に飽きて、元の世界に還りたくなったら、帰還方法ぐらいは知っておいた方がいいわね。
「もし興味があれば、私から責任者に言っておきましょうか? 沙良様が調べるとなりますと、喜んで協力してくれると思いますので」
そうね。お願いしようかしら。
「わかりました。では伝えておきますね」
そう言った彼の口に、お礼のキスをした。
***
数日後、私は預言の魔法具が保管されている部屋へと通された。
その場所は窓一つない部屋であり、明かりが仄かに付いているが、全体的に薄暗い部屋だった。
その部屋の中央にポツンと一つ、例の魔法具らしきアイテムがある。
よく占い師が使っているような水晶のような物だった。
「さて、まずは私に使えるかしら?」
このアイテムの使い方は簡単。持ってみて光れば使用可能と認められるらしい。
そのため、私は躊躇せずその水晶玉を手に持った。
すると、勢いよく水晶が光りだした。
「とりあえず、私は使用が認められたみたいね」
さて、問題はここからだ。この魔法具は1度使うためには大量の魔力が必要らしい。
私の場合は普通の人よりも多く魔力を持っているため、長い時間、または鮮明に預言を確認できると思うけど、同じ人が複数回使うことができず、1度使うと1年間は使用できなくなるらしい。
「私が知りたいのは、ここから私は還れるのかと、これからの生き方の方針を教えてほしいんだけど……」
そう呟くと、再び水晶が光りだした。その光は先ほどの比ではなく、当たり一面を照らしたかと思うと、私の意識は遠くに行くような感覚に襲われた。
***
『俺は絶対に勇者に――英雄になるんだ! 栄治さんでも正さんでもない! この俺が英雄だ!』
『僕はね? 何時だってこの感情を抑えきれなかったんだ……ここは異世界だ。元の世界とは違う。なら自分の感情に素直になって行動してもいいだろ? 光さんがそうだったように。そして栄治さん、君も僕と同じ気持ちだろ?』
『長慶さん。私は貴方よりも年下の、ただの高校生です。それでも、貴方の事が好きなんです。お願いです。還るまででいいので、一緒に居させて下さい……』
『さようなら。貴方の事は少しだけ認めていたわ。でも私より弱いから……じゃあね』
『俺は! 世界を救う! 例えどんな事が起きても! 絶対に世界を救うんだ! だから沙良! 俺のそばにずっといてくれ。力を貸してくれ!』
『あたしは……どうしたらいいの? 誰に付いて行けばいいの? ねぇ……教えてよ栄治君!』
『お願い……この子だけは……この子だけは助けたいの……助けて、長慶君――』
『還る方法がわかった。後は勇者君を倒すだけだ……それで還れる』
***
「――なんなの? 今の映像は・・・」
私はいきなりいろいろな情報を見せられて、その場で座り込んでしまった。
もう水晶からは光は出ていない。恐らく今の光景が預言なんだろうと思う。でも――
「最後の人は長慶君だったとして……最後の映像は――私?」
どうして私は長慶君に助けを求めたのだろう? それにこの子って誰の事なの? 私と長慶君、あと何故か私の隣に小音子ちゃんがいた気がするけど、本当に訳が分からない。
何故私は自分の事だけを教えてもらいたかったのに、召喚された皆の映像を見せられたのかしら……
一応還れる方法がある事はわかったけど、なんで栄治君と長慶君が戦うことになったの?
「これは誰かに相談した方がいいのかしら……」
どうしたらいいかわからず、とりあえず魔法具を元の場所に置き、この部屋を出た。
一応責任者には預言の魔法具は使えることができたが、よくわからない映像が見えた事だけを伝えた。
すぐにでも詳細を聞かれそうだったけど、疲れたので後日に報告することで納得してもらった。
私はずっと気になっていた……私が庇っていたあの子について……何故かこの事は忘れてはいけない、そんな漠然とした思いが私を支配していた。
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以上で第2章終了です。よろしければここまでの評価・感想を頂ければ幸いです。
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