第37話 世界が違えば流行も違う、でも同じモノもある

 最近光君の様子がおかしい。

 訓練場に来ないのは今まで通りだが、廊下ですれ違う際に女性を必ず連れており、楽しそうに話している。

 そこまでは今まで通りだったが、最近はその女性たちへのスキンシップが激しい気がする。

 ところ構わず腰に手をやって抱きしめたり、相手の頬にキスしたり、と公衆の面前だというのに平気でやっている。


「栄治さん。俺目覚めたんですよ。このままじゃいけないって。だから俺、本気出します」


 光君はダンジョンから帰ってきた翌日の朝、俺にそう宣言した。

 それからは光君は変わってしまった。特に女性関係がひどく激変した。

 夜な夜な女性を自分の部屋に招き入れている事を知っていたが、今までは手を出していないと自身で公言していた。

 しかし、俺に宣言をした翌日、光君はしっかりとした口調で、俺に自慢するようにこう言った。


「俺、童貞卒業しました。昨日の時点で3人切りです」


 どうやら本気を出すというのは、女性関係の事を指していたらしい。

 正直何故と思った。ダンジョンでの件は俺達全員ショックを受けた。しかし、凜々花さんや佳織ちゃんはその事をバネに今も魔法の練習を頑張っていると聞いた。

 俺は俺でレベルアップしたため、複数人との模擬戦でもようやく勝ち星が増え、今は軍隊を指揮する為の知識が欲しかったため、作戦指導部にて勉強をしている。

 それに比べて、何故光君は女遊びに走ったのか……理解に苦しむ。


 そのため俺は、光君に抱かれたという女性を割り出し、話を聞くことにした。

 光君が遊んでいる女性たちは何度か城内で見たことがあったので、直ぐに見つけることができた。


「君は無理やり光君とそういう関係に?それとも合意で?」

「いいえ。少し強引でしたが、彼に抱かれたのは私の意思です」


 始めて捕まえる事ができたメイドさんは、そんな回答をした。

 その後も光君が抱いたという女性に会うことができたが、全員が最初に言ったメイドさんと同じような事を言った。何人かはその時の光景を思い出したのか、恥ずかしそうに顔を赤らめている。どうやら本当に無理矢理ではなさそうだ。

 そのため、今度は直接光君に事の真相を聞くことにした。光君の部屋は俺の部屋の隣だ。なんとか光君が一人で光君の部屋に戻った事を確認し、今までの事を尋ねた。


「どうしてだ。どうしてそんな風に女遊びに手を出し始めたんだ?」

「だって俺、主人公ですから。召喚モノ小説や漫画、アニメでは主人公がハーレムを築くのは当然でしょ?」

「いやわかるよ? わかるけど、それって旅の最中とか、魔物の群れを倒してカッコいい姿を見せた後に気が付けばできているもんじゃないの?」

「たしかにそのパターンもありますね」

「しかもさ、そういうハーレムモノってさ、男の方からがめつく行くってパターンは、俺見たことないけど?」

「え? ハーレムモノって男も女もガツガツ行くものでしょ? なんですかそれ? 男は奥手じゃないとハーレムが築けないんですか?」


 どうやら、俺と光君とでは、見ていたジャンルが違うのかもしれない。そのため、改めて確認したところ、光君の世界では、異世界転生・召喚モノの作品の中でハーレム作品も多く、そのほとんどが男も女も肉食系である事がわかった。

 反対に、俺の世界のハーレムモノは、男が奥手であり、複数の女の子から言い寄られて、なかなか本命を決めれないような、ヤキモキする作品がほとんどだ。

 やはり、世界が違うと流行りの傾向まで違うのかとその時は思ってしまった。


「とういうわけで、俺は好き勝手にさせていただきますんで。すみませんが、もうすぐ女の子が来るんで出て行ってくださいね」


 そう言って光君はドアを閉めた。

 なるほど、世界が違うと考え方も違うのかと納得してしまったが、何故いきなりこんなことをし始めたのかを聞き忘れていた事の気が付いたのは、翌日の昼頃だった。

 その後は光君とも連絡が取れず、結局2か月間顔を合わせて挨拶をするだけで、真剣に話し合うことはできなかった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「してどうだ、ダンフォード騎士団長よ? 勇者一行は素直に頷きそうか?」


 皇太子であるファージン様が尋ねてきた。今この部屋には私と皇太子殿下以外には誰もいない。

 今回の話は王やウルスには絶対に聞かせたくない内容だからだ。


「は! 現在【闘神】光は女どもと遊び惚けており、あともう一息策を要せば簡単にこちら側に付くかと存じます。

 また、【賢者】正殿につきましては、あの件を承諾していただければ、こちら側に付くと申しております」

「そうかそうか。【闘神】と【賢者】はこちら側に付きそうか。他の者は?」

「どうやら【魔導士】殿は【賢者】殿に惹かれている様子。状況次第ではこちら側に引き込めるかと……」

「ほう……【魔導士】殿は【賢者】殿の事をどれだけ知っているのだ?」

「いえ、それほど知らないかと存じます。知っているのであれば、あのような小娘があの男に付いて行く訳ございますまい」

「それはそうだ。であれば、【魔導士】殿は難しいかもしれぬな」


 今現在、この国では2つの派閥が凌ぎを削っている。別にお互いを消すとか消さないの問題ではなく、別の問題への取り組み方に対する意見の相違だ。

 その内容は――


「何時頃になりそうだ?」

「――預言者の報告だと1年以内には確実かと……」

「1年か……早いな」

「ええ……もう4回は確認してもらいましたが、1年から延びることはありませんでした。もう少し存命していただきたかったのですが……」


 この国には預言者がいる。教会に秘匿されている魔法具の中に、未来を見ることができるアイテムがある。

 そのアイテムを使えるものは限られており、たまたま波長があった者が自動的に預言者となる仕組みだ。

 未だにどうして特定の人間しか使えないのかはわかっていない。魔力の波長なのか、それとも別の要因なのか。

 しかし、その力は侮りがたく、ほぼ全ての予言が実現されている事実がある。この度の勇者召喚もその一つだ。


「父上の死因はなんなのだ?」

「今は病気を患っているわけでありません。そうなると暗殺か、襲撃か、突然死かのいずれかになりましょうや」


 この事実を知っている者は、我々とご本人様である国王陛下、筆頭魔導士であるウルス、預言者と他数名しかいない。もちろん勇者一行にも知らせる事はない。


「であれば仕方がない。幸いわが国では後継者争いは起きぬ。私が皇太子として任命されているからな。問題はあの件だけだ」

「は! 早急に御味方を多く募り、必ずやそちらの方針にもっていけるよう努めさせていただきます」

「励めよ。ダンフォード」


 私は一礼した後、部屋を出た。そして我が部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、前方からさる御方がこちらに近づいてくるのがわかった。

 その御方は私のが見える範囲まで歩いてくると、私に気が付いたのか、笑顔を浮かべてこちらにやってきた。


「ダンフォード騎士団長。お久しぶりですわ」

「これはこれは姫様。わざわざ私めにお声を掛けていただき、ありがとうございます」


 その姫はレイシュ=ザン=ブライアンジュ様。先ほどお会いしていたファージン殿下の一人娘であった。


「大きく成られましたな――前回会った時が確か……1年程前でございましたかな?」

「ええ。前回の私の誕生日パーティー以来と思いますわ」

「そうでしたか……時が経つのは早いですな。まさかもう姫様がこんな立派な淑女になられていたとは」

「お上手ですわね、騎士団長様」


 そう言って姫様は口元に手を当てくすくすと笑い始めた。


「もうすぐ私の誕生日パーティーがまたありますの。また来ていただけますか?」

「ええもちろん。姫様がとうとう成人なされる16歳のパーティーです。是非とも参加させていただきますとも」

「ありがとうございますわ、騎士団長様」


 そう言って姫様はお供を連れて歩いて行った。もう成人なされるまで成長されたのか。

 私が最初に見た頃は5歳ぐらいだったので、まだまだお子様と思っていた姫が、いまや立派な大人の仲間入り。

 しかも大変美しく、【聖女】様である沙良様並みの美しさを持っている。これはファージン殿下も大変でしょうな。あの件といい、姫様の件といい。

 まだ婚約者は決まってないそうだから、かなり悩むでしょうな。

 間違っても召喚者である【闘神】光には会わせるわけにはいくまい。必ずあの男は姫様を欲しがることが目に浮かぶ。

 そう思った私は、今度こそ自分の部屋まで戻るのであった。

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