第28話 不殺の戦闘

 盗賊がまた出た。こっちは30人近くの団体なのに待ち伏せされていると報告があった。

 どうやら最近コッドの町は魔物群れを殲滅したため、景気がいいと周りに広まったらしい。

 その結果、商品を大量に持っている商人が沢山いるだろうと思い、盗賊たちもコッドの町の近くに網を張っていたそうな。


 結論から言うと、僕一人で50人の盗賊をボコボコにした。今回使った得物は棒である。

 ザックさんいわく「あれぐらいの人数を殺さずに無効化できる訓練だ。行ってこい」と無理やり前面に押し出された。

 盗賊も面食らっただろう。まさか僕一人が前に出てくるなんて思わなかっただろう。

 実際に「お前囮か? 可哀そうにな! じゃあ死ね!」と言われたので、振られて剣を軽く避け、2本の棒でボコボコに殴ってやった。すっきりした。


 一人をボコボコにしたらお仲間が怒りだし、僕に向かって矢を放ってきた。僕はその矢を左手で掴み、前にいた盗賊の足めがけて投げつけた。

 見事に刺さり、盗賊は悶絶している。すると今度は沢山の矢が降ってきた。僕は両手の2本の棒で当たりそうな矢のみを目で見て確認し叩き落した。

 何故か盗賊が僕を化け物でも見るかのような目で見ている。そっちから仕掛けてきてその表情って――ちょっとイラっと来たので適当に矢を拾い、数本足めがけて投げつけた。6本投げたがちゃんと6人の足に見事命中。

 どうやら僕は身体強化のおかげで、投げに関しては抜群のコントロールと速さを手に入れたみたいだ。還ったら近くの草野球チームに入ろうかな?


 その後、逃げようとした盗賊の集団にダッシュで背後に回り、驚いている人の足を再び破壊。棒で思いっきり脛を殴りつけた。

 そこからは僕の無双劇場で、全ての盗賊の足を壊すのに10分程度時間を使った。

 僕は急いで戻り、ザックさんに報告をした。


「終わりましたよ。酷くないですか? 僕一人に任せるなんて」

「だってお前、人間相手の一対多をあまり経験してないだろ? 魔物はともかく」

「いやそうですけど、前に出す前に説明ぐらいあってもいいじゃないですか」

「突然の実践でできないようじゃ死んでるぞ? ま、お前は傷一つなく課題をクリアしたんだ。今後はこんな無茶は言わんよ」


 そう言ってザックさんは僕の肩を叩いた。


「しかし減点だな」

「へ? 誰も殺してませんよ? なんで減点何ですか?」

「そりゃ足を狙うのはなかなかいい着眼点だが、誰があいつらを運ぶんだ?」

「あっ……考えてませんでした」


 今回生かした盗賊たちは強制労働の場所へ送るとの事だ。国境の町は近くに鉱山があり、いつでも人手が足りないとの事だ。そのため、次の国境の町に補充人員として襲ってきた盗賊を送ることにしていたのである。

 しかし、僕が徹底的に足を攻撃したことにより、全員歩くことが困難な状態になっている。


「もう少し考えて攻撃しろよ? 腹とか胸とか、いろいろ人間が苦しむ場所ってあるんだ。手加減と人体の構成を覚えたら、もう少し立ち回り方が変わるぞ?」

「はい、わかりました。精進させていただきます」


 次回からはもう少し手加減してお腹を狙おう。でもお腹を攻撃すると臓器を壊しそうで怖い。だから手加減の練習ももっと取り入れよう。


 悶絶している盗賊たちを起こし、無理やり歩かせる。彼らはここで今すぐ死ぬか、強制労働の場所で働き生きていくかの2択しかない。

 人の物を奪おうとしたり、そのために殺しまでしている連中だ。じゃあ反対に殺されてもおかしくないよね?僕は割とその辺はドライな思考でを持っているので、彼らをそう評した。


 その後はクルルさんが「大丈夫! 怪我してない!」と僕に抱き着いてきて、それを見た他の人達に冷やかしと殺意の目を向けられた以外は順調に進んだ。

 そりゃ振った人間が未だに好意を持っていて抱き着いてきたら、恨みや嫉みの目を向けられても仕方がないね。殺意だけはやめてほしい。


 そしてとうとう国境の町【デーマルク】に辿り着いた。

 ちなみによくある町の入り口で身分証明を提示する作業ってないみたいだ。町の入り口に兵士の詰め所はあるみたいだけど、提示を求めていたら時間も掛かるし、人件費や維持費等諸々の経費が掛かるため、無駄遣いの観点からそんなことはやっていないらしい。


 僕達はそのままギルドへ向かい、護衛依頼完了の報告をした。

 初めての依頼だったので、なんとか終わったことにホッとしたが、ギルドカード更新の際にちょっとしたハプニングが起きた。


「あの~僕のギルドランクがⅠからⅣになってるんですけ? これておかしくないですか?」


 今僕のギルドカードにはⅤの数字が記載されている。記憶が正しければ複数回の依頼を真面目に一定数こなすと、早くて半年でⅣ級になれると聞いていたんですけど――


「あ~それね。君大量の魔物と盗賊倒したでしょ? しかも上位の魔物を複数匹。だから特例としてランクを自動的にアップされます。まぁカード更新魔法具がそう判断したって事だから、そのまま受け止めておけばいいですよ」


 そうギルドのお兄ーさんは説明してくれた。

 この世界のギルドは基本魔法具で受領と完了、そして更新を一括で行っている。

 僕は護衛依頼の完了の報告をしただけだが、魔法具は自動的に僕の戦歴を読み取ったみたいだった。その結果大量の魔物分のポイントと、恐らく今回の盗賊を1人で倒した分のポイントが加算されたんだろうと思う。

 どんな技術でギルドカードが自動的に所有者の活躍を記録しているかはわからないけどね。


「よし、今回は本当に助かった。これは依頼料だ。色付けておいたぜ」

「ありがとうございます。うぉ、なかなかの重さで……」


 僕は依頼の成功報酬であるお金を受け取った。未だに紙幣ではなく硬貨で売買している世界のため、多額の報酬となると貰えるお金が重たくて困る。

 僕は特に中を確認せずに、報酬をカバンの中にある財布と混ぜ合わせた。


「おいおい、普通は依頼主の前でちゃんと支払われているか確認するだろう?」

「おっさんからの報酬だし。商人は信用が第一ですから、騙すことはないと思っていました。それに騙してないでしょ?」

「当たり前だ。報酬をケチっていたら大商人なんかになれるかってんだ」

 そう言っておっさんはニカっと笑った。


「じゃあ僕は今からクルルさんと合流して帝国を目指します。おっさん、本当にありがとうございました」

「またな坊主。俺も近々帝国に行く予定がある。縁があったらまた会えるだろうよ。んでもってこいつを持っていけ」


 おっさんは封書のような物を僕に渡してきた。


「それには俺にしか押せないサインが押されている書類が入っている。帝都にある俺に店に尋ねる時にそれを出せ。俺の知り合いとわかるから書類だから、それを見せれば俺が不在時でもサービスしてやるぞ」


 これはある意味株主優待券のような物だろうか?判断に迷うがありがたく頂戴することにした。


「ありがとうございます。それではお元気で。死なないようにしてくださいね」

「おう、お前も頑張れよ!」


 そう言っておっさんと分かれ、僕は町の中心である2体の人が握手をしている像の前にやってきた。

 この像はこの町のシンボルであり、この国と隣国が手を取り合って発展していこうという思いから作られたらしいと石碑に書いてある。

 ちなみに今では待ち合わせの定番スポットとなっているらしく、人と人を繋ぐって意味ではぴったりなモチーフだと思う。


 僕が像の前のベンチに座っていると、聞きなれた声が怒っている風にしゃべりながら聞こえてきた。


「だから待ち合わせだって! ナンパはお断り!」

「いや、俺この辺詳しいからさ、そんなやつほっといて行こうぜ」


 振り返るとクルルさんがナンパされながら僕に近づいてきた。


「お待たせナガヨシ。ごめんね? クランの皆にお別れの挨拶をしてたら遅れちゃった」

「いいえ、大丈夫だよ。じゃあ行こうか」


 僕とクルルさんはナンパを無視して歩き出した。


「ちょっと待て! 俺が先に――」

「あなた、今のやり取り見てました? 僕たちは知り合い。あなたは知らない人です。目の前に知り合いがいるのに何で知らない人に付いて行こうってなるんです?」

「うるせー! いいからお前はすっこんでろ!」


 話が通じない。みなももよくナンパをされていたけど、どうしてこうも自分本位にしか考えられない人が多いのか、理解に苦しむ。


「とりあえず――」

 そう言って僕は男の懐に飛び入り、顔のすぐ目の前で拳を寸止めにした。


「殴られます? ご希望なら殴りますけど、どうします?」


 そう言うと、男はスゴスゴと退散した。ナンパ初心者かな? あんな態度じゃ誰も引っかからないだろうに――


「ありがとねナガヨシ。助かったよ」

「どういたしまして。さて今度こそ行きましょうか」


 そうして僕たちは目的地であるラケーテン旅団がいる宿へ辿り着いた。たまたまロビーにザックさんとダンさん、ゴトーさんがいたので挨拶をした。


「皆さんお疲れ様です。しばらく厄介になりますね」

「お疲れ様です。ナガヨシともどもよろしくお願いしますね」

「おう、こっちこそよろしく頼むぞ」


 僕達は帝国に行く。しかし話を聞くとアマゾーさんも帝国に用があるらしいので、僕達も便乗して一緒に行くことになった。

 もちろんギルドを通して護衛依頼として帝国に入る予定だ。


「一応出発は4日後だ。それまでは自由にしてていいぞ。アマゾーさんも忙しいみたいだから挨拶とかいらないとさっき連絡が来たぞ」


 今おっさんやアマゾーさん、ラーテーンさんはこの町の支部に行き、在庫処分やいろいろな手続きで忙しいらしい。

 そのため、僕たちはしばらく時間が余ることになるので、この町を散策することにした。

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