第24話 片思いって相手を思っている時や揺さぶられている時が一番楽しい、そして辛い

 武器屋を出た後、ナガヨシと別れて私はステイシーさんと一緒に食料の調達のため、食材通りに来ていた。

 ナガヨシってなんであんな色の装備を選んだんだろう?そんな事を笑いながら考えてたら、ステイシーさんに話を振られた。


「面白かったわね、ナガヨシの装備。なかなかお目にかかれるモノじゃなかったわね」

「本当ですよもう。なんで全身赤? 正直中のコーディネートが変だと相当ダサい恰好になりますよね?」


 そんなナガヨシを話の肴に食材屋でいろいろ保存食等を買い込んだ。

 もうすぐこの町を出ると思うので、いつでも出れる準備をしておくに越したことはないのだ。

 食材屋で必要なモノの買い出しが終わり、私達の止まっている宿へ荷物を送ってもらうようにお願いし、いざ帰ろうとしたときにまたステイシーさんに話を振られた。


「ねぇクルル。ナガヨシの服買いに行かない?」

「えぇ!? ステイシーさん、どうしましたか? いきなりナガヨシの服を買いに行こうなんて――」


 私はステイシーさんの言葉を聞き、何故か動揺してしまった。

 まさかステイシーさんってナガヨシみたいな人がタイプなの?意外だ――もっとザックさんのような顔立ちがよくて筋肉もあって、ザ・男前! みたいな人がタイプと思っていた。

 それにステイシーさんがナガヨシを気に入ったのなら、私勝ち目無いじゃん――って今のはナシ!


「プレゼントよ。クルルあなたナガヨシに助けられたんでしょ? だったらお礼を込めてプレゼントの1つや2つ渡しても問題ないでしょ?」

「あ~……そうですね。お礼のプレゼントですね。はい、大丈夫です……」

 なんだ、そういうことか――焦って損した――って焦ってないし!


 そんなオロオロした私の様子を見て、ステイシーさんは優雅に微笑んだ。

 正直ステイシーさんは反則だと思う。何? あの胸? 谷間をこれでもかと強調するデザインの服を着て、それでいて下品に見えない。

 むしろどっかの貴族じゃないかってぐらい気品さがあった。なんで冒険者なんてやってるんだろうこの人?


「クルル安心して。ナガヨシは私なんかより、あなたを多く見てたわよ? あなたってホントに綺麗な足してるもんね。その美脚にナガヨシは釘付けだったんじゃないかしら?」


 そんなこと言われても、私の足なんて普通の足だし――動きやすい恰好が好きだからミニスカートや短パンをよく履いているけど特に意識したことないし――

 ていうよりも、足の綺麗さだってステイシーさんには遠く及ぶわけがないと思ってるし――


「彼すごく人気よ? 強いし、優しいし、気づかいができるのが最大のポイントよね? ちょっとナヨっとしてるけど、それがギャップがあって良いって他の子たちが言ってたわ」


 余計な情報をステイシーさんは悪気もなく教えてくれる。そりゃね、誰から見て優良物件の場合は注目されるよね。

 あの魔物を凄まじさ、普段は世間知らずのところが垣間見える際の母性をくすぐる感じ、そして乱暴の喋り方じゃなく聞く人をリラックスさせる声。

 さらに今回の件で報奨金も凄いらしくお金も持っている。なに? この物件。いろいろステータス持ちすぎ――

 そんなんだから私達金精院の以外の冒険者からも熱い視線を送られるのよ! しかも本人気づいているっぽいし――


「だからね? 少しでもリードするためにプレゼントとか送るってわけよ。これってシンプルだけど効果的よ? プレゼントを貰って喜ばない男がいたら、そいつは多分女に興味がない男だけよ」


 百戦錬磨っぽいステイシーさんが力説する。確かに私達はチームを組んでいた訳だし、何度も助けてもらったし、そのお礼をするぐらい問題ないよね?

 気になるからとかじゃなくてお礼よ! お礼。うん、問題ないね!


「じゃあどうしましょう? また武器屋に行って服を見繕ってもらいましょうか? それとも雑貨屋に行って無難な服を買いましょうか?」


 通常服を買うときは2種類の店に分けられる。私達冒険者向きには武器屋に、一般の人には雑貨屋で服が売られている。

 一応貴族や大商人行きつけの大きな服の専門店もあるけど、こんな町にはないし、あったとしてもとんでもない金額が掛かるから論外。


「そうね……一応冒険者だし、武器屋で丈夫で無難な服を買いましょうか? また戻る羽目になるど大丈夫?」

「大丈夫です! 早速戻りましょう! まったく、センスがない人ってこれだから――服装からも凄味が出るっていうのも教えないとね……」


 そう言って私達は武器屋に戻った。そしておじさんにナガヨシの服について相談し、似合いそうなのを何着か出してもらった。

 あとから聞いた話では、私は凄いウキウキした様子で服を真剣に選んでいたらしい。思い出しただけでも凄い恥ずかしい。

「これはお礼だから! 特に他意はないんですぅ!」と言っても二人とも微笑ましい笑顔を見せるだけで全然信用してくれないし――

 とりあえず服を何着か購入し、恥ずかしい気持ちを隠しながら店を出た。恐らく顔を真っ赤にしながら――喜んでくれるかな?


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次の日、私はナガヨシを探した。今日は気温が高かったので肩が出る白の服装に昨日とは違う青いミニスカートを着用している。いわゆる勝負服だ。

 なんの勝負をするのか自分でもわかっていないけど、何となく今日は勝負に出ないといけない日だと思い、一番気にっている服をチョイスした。

 そして今日は髪を下ろしている。何時もはポニーテールにしているが、なんとなく髪を下ろした方がいいと思った。暑いのに――


 なんだか周りから見られているような気がするが無視! 金精院のメンバーが私をからかいに来ているがこれも無視!

 ステイシーさんなんて物凄い笑顔を向けている気がするが会釈だけして退散。早くナガヨシに会いに行こう。


 ――髪は……大丈夫、くせ毛や寝相の後はないし、服装は問題ない。汚れとかもないし、乱れてもいない綺麗なままだ。

 途中男の人から声を掛けられて気がするが無視。ラケーテン旅団のメンバーだった気もするが、遊びのお誘いは断固拒否です。

 何時もより早歩きになった気もするが、とにかくナガヨシが止まっている宿について。

 受付でナガヨシはいるか確認すようとしたところ、上からナガヨシが下りてきた。


「あれ? クルル? おはよう。髪下ろしたんだ。似合ってるね」


 素で女性を誉める――すごく嬉しいけどなんだか慣れてない?


「うん、おはようナガヨシ! なんか今日はそんな気分なの!」

 そう言って私は、自慢の髪を右手で靡かせた。


 その後、ナガヨシがご飯がまだとのことなので、二人でどこかで食べようと提案した。

 ナガヨシは快く快諾してくれたので、すぐ近くにある喫茶店に移動した。


「ナガヨシは何食べる?」

「う~ん――僕はこの肉サンドにするよ。クルルは?」

「私はこの季節限定ケークにする! 今の時期ってここらへんじゃベリー系が美味しいって聞いてるからソレにする!」


 注文をしてから料理が来るまでしばらくかかるので、私は早速プレゼントを渡すことにした。


「ナガヨシ」

「はい? なんでしょう?」

「はいコレ。プレゼントだよ!」


 私は勢いよく服が入っている袋をナガヨシに手渡した。

 ナガヨシは驚いた顔をしている。なんだかその顔を見ただけでもうれしい気持ちになった。


「え? プレゼント? 僕何かしましたっけ?」

「ふふふ~ん! コレはあの時助けてもらった事と、キャシーの仇を取ってくれた事に対するお礼だよ! 遠慮なく受け取ってね!」


 そう言うと、ナガヨシは袋を開け中身を確認しだした。


「あ、服だ。しかも5着も――いいの?」

「だってナガヨシ。あの装備のを今後常に着るんであれば、中の服装は大事だよ? 弱いと思われる人って身だしなみが微妙な人が多くって、ちゃんとした服も買え揃えないのかって見られるんだから」

「へー……そうなんですね」

「そうそう。だからある程度カッコいい服とか、ちゃんとした組み合わせとかしてないと、田舎者とか冒険者なり立てとか万年低ランクとかに見られるんだからね」


 私は冒険者にとって服装の重要性を説いた。確かに着れたらなんでもいいって人もいるが、護衛任務で契約をする際、変な服とか安っぽい服を着ていると、契約主が不安に思うこともあるしね。

 ナガヨシは強いんだから、しっかりした服装をしてもらわないと――


「ありがとう。正直僕って服を選ぶセンスがあんまりないんで、本当に助かったよ」

「ふふ~ん! 私に感謝しないさいしなさい! 沢山しなさい! 一応ステイシーさんとかにも選んでもらったから、変なものはないはずよ」


 一応ステイシーさんの名前を出してみたが、特に変化はなかった。ということはステイシーさんが気になる線はないってことかな? よかった――何がよかったの?


 しばらく服の説明とかをしていたら料理が届いたので、一旦服をしまって料理を食べることにした。

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