第23話 不殺の棒、必殺の剣、センスのない装備

 武器屋に辿り着いたが、僕は疲れ果てていた。それもそのはず、僕は今両手に花の状態である。

 右手におりますのは金精院のリーダー、ステイシーさん。長いエメラルド色の髪を靡かせている美女であり、最大の特徴は胸がデカく露出もなかなか凄い。

 左手におりますのは青いポニーテールが似合うクルルさん。今日は戦闘服ではなく私服のため、スレンダーなラインがくっきりと見える。しかも今日はミニスカートのため、細い生足がエロスをそそる。

 ちなみに僕は生足フェチのため、よくみなもと外に出かけても、ついつい他の女性の足に目が行ってしまい、後で怒られたりしている。

 だから現在もクルルさんの足をたまに長時間見ていて道を間違えそうになったりした。


 そんな麗しの女性が2人も傍にいて、周りの目はどう思うのか。もちろん嫉妬の目である。

 クルルさんは物凄く親しげに僕に話しかけ、しかも体を何度も密着させてくる。

 ステイシーさんはお喋りをしながらもたまに僕の頭を撫でたりしてくる。

 そのせいで周りの視線が本当に怖い。元の世界でみなもと歩いている時も嫉妬の視線を感じてたことはあるが、今回は2倍である。


「大丈夫? えらい疲れてるけど?」

「大丈夫だよステイシーさん。ナガヨシは役得をしたから疲れてるんで気にしなくていいですよ? ね、ナガヨシ?」

「はい……少しは耐性があるのでもう大丈夫です」


 店に入ると沢山の武器と防具が並んでいた。そいてカウンターには武器屋のおっさんが待ち構えていた。


「すみませーん。ナガヨシです。装備の確認に来ました」

「おう、待ってたぜ。早速だが確認してくれ。嬢ちゃん達は後で相手になるがいいか?」

「大丈夫です。ナガヨシの装備も気になりますしね」

「うんうん。ナガヨシってどんな装備を注文したの?」


 おじさんはカウンターに武器と防具を置きだした。メイン武器は全部4つ。剣が2本と棒が2本。

 剣は正直どんな切れ味でも切れてしまうので、とりあえず頑丈な剣をお願いした。長さは1本はどこにでもあるようなロングソード。もう1本はそれより短めの剣を用意してもらった。

 棒については非殺傷用の武器である。剣を持っていると必ず切れてしまうので、荒事が起き、殺してはいけない場面で活用する予定だ。


「へぇ~。棒って今模擬戦でも使ってる武器でしょ? 気に入った?」

「いや、ある程度使い慣れた武器っていえば棒だからね。これなら無暗に切れずに済むしね」

「なるほど。よく考えてるわね。えらいえらい」


 何故かステイシーさんに撫でられた。クルルさんは笑っているが、おやじは少し羨ましいそうな眼でこちらを見ている。


「じゃあ武器については問題ないか? 重さとか握った感触とか重心の位置とかどうだ?」

「う~ん――うん。全部問題ないですね。さすがおやじさん。いい仕事してるね」

「当たり前だ。この道40年の大ベテランだぞ? 使用者の身体つきを見るだけで大抵の事はわかるわ」


 流石は匠だ。やっぱり一つを極めた人ってかっこいいね。


「今回の騒動で手に入った上位魔物の爪や牙や骨を使って剣と棒を作ったぞ。要望ではとにかく頑丈さを希望だったんで、剣の素材は上位ライガー系の牙と爪を、棒にはアーマーライノやギガントタートルの素材と希少な鉱石を合成して作っている。そうやすやすと折れることはないぞ」


 おやじさんは自信満々に自慢してきた。確かに持った感じはフィットして違和感がなく、軽く床を叩いてみたが、頑丈そうな感触が伝わってきた。


「じゃあ次に防具だ。確か素早く動く必要があるから軽めの装備がいいと言っていたな。まずはこれからだ」


 そう言っておじさんはカウンターに防具一式を並べた。

 とはいっても、今回お願いした防具は鎧系統の防具ではなく、服飾系統の防具である。

 僕の戦闘スタイルは速度重視の手数多めな戦闘になるため、基本は避ける。しかし、魔法攻撃や遠距離攻撃の対策がいまいちなため、おやじさんが対策できるように魔法が掛かっている防具服を作ってくれた。

 まずは赤いロングコート。これには矢避けの魔法と、耐魔の魔法が組み込まれている。過信はできないがこれにより遠距離の対策がある程度取れたことになる。

 次に赤い手袋。こちらにも先ほどの2つの魔法が組まれており、コートを一緒に身に着けると相乗効果が期待できるという。

 そして靴。これも赤い。効果は前途と同じ。

 最後にインナー。これだけは黒かった。服の中に着るインナーは最後の砦として、多くの冒険者は特殊な金属繊維のインナーを着ているという。これがあるだけで生存率が多いにい違うとのことなので、複数枚いただいた。


「しっかし、なんで全部赤なんだ? 返り血を目立たなくするためか?」

「えっ? この色ってナガヨシチョイスなの? 趣味悪くない? 全部赤って?」

「しかもこれを着ていたら町とかでは目立つわね? 他のとかは注文してないの?」


 いや、早い=赤いという謎の方程式が僕の頭にあるので、赤は外せない。それにコートの下の服やズボンは日替わりなので、そんなに悪くないと思うんだけどなぁ?

 早速着替えてみた。今日は黒の服に黒のパンツを履いていた。それに赤のコートと赤の手袋と赤の靴を装着して――


「うわ、微妙……なんていうかもう少し身長が高い人が身に着けてたらかっこいいと思うけど、ナガヨシだと微妙……」

 クルルが辛口評価をしてくる。


 僕の身長は172cmのため、確かにもう5cmぐらいは欲しかったと思うけど、もう成長期が終わっているのでしょうがないじゃん。


「これに腰に剣を左右に1本づつ、背中に棒を2本装備して――似合わないわね」

 ステイシーさんも首を傾げている。


 店の端に全身鏡があったので確認してみた――え? かっこよくないかな? どっかで見たことがあるキャラクターたちの一部を適当に繋ぎ合わせた感があるけど、問題ないと思うけどなぁ?

 おやじさんも女性陣の味方をしているし――いいもん。僕が強くなってこの姿がかっこいいと言われるようになってやるもん。

 そう僕が不貞腐れていながらも、その他の消耗品やステイシーさん達の消耗品を購入し武器屋を去るのであった。


 もう今日は予定がないため、宿泊先に戻るだけであるが、さっきまでは嫉妬の視線が占めていたが、今度は奇妙なモノを見る目が多く混じっていたので、結局帰りも気疲れするはめになった。


 宿に辿り着き、装備品を脱いでいると、ヤンホーさんが訪ねてきた。


「おう、ダサい装備を用意したらしいな」

「ダサくないですぅ! 皆さんがこの良さを分かってないだけですぅ!」

「そう不貞腐れるな。業務連絡だ。明後日にこの町を出て国境の町に向かう。それまでに準備しとけよ」

「わかりました」


 とうとう話し合いも終わり、この町ともおさらばすることになるみたいだ。

 最初の町でまさかこんな大事件に巻き込まれるなんて、本当に異世界って何が起きるかわかないね。


「じゃあ残りの時間とか有効に使えよ。なんだったらクルルの嬢ちゃんをデートに誘ってみたらどうだ? 脈ありだと思うぞ?」


 何故かこの5日間、僕とクルルをくっつけようとして全員からからかわれる。

 ヤンホーさんもそのゲームに便乗して僕にそう提案しているのだと思うが――


「あの~? ヤンホーさんって俺の事情知ってますよね?」

「おう、俺とアマゾーとラーテーン、それからこの町のギルド長は知っているぞ」


 ギルド長が知っているのは、事件の際僕の事をどう説明するか迷っていると、ヤンホーさんが勝手に喋っていた。

 曰く、ギルドに味方を増やした方が、情報が集まり次第すぐに教えてくれるようにするための人脈作りのためだ。


「僕既婚者でもうすぐ1児のパパです」

「――は?」

「だからすでに結婚済みです。だからクルルさんとは付き合えませんよ?」


 ヤンホーさんは固まっていた。何故だろう? この世界の婚姻関係も僕の世界とあまり変わらないようなので、僕の歳で結婚しててもおかしくないと思っているんだけど?

 しばらくしてヤンホーさんは再起動した。


「あ~……そうなのか、それは済まん事したな。周りに言っておくか?」

「いえ、僕は記憶喪失となっていますので、嫁がいたとか言っても信じられないですよね?」

「だろうな。恐らく妄想として処理されるな」

「だから今まで通りで大丈夫です。仮にクルルさんが僕を思っていても、僕はその思いに応えることはありませんので」

「――なぁ、ナガヨシ。お前の第1目標っているのは……」

「はい。一刻も早く魔王を倒した後、家に還って嫁と産まれてくる子どもの顔を見る事です」


 そう言うと、ヤンホーさんは謝ってきて、もうこの話題はしない事を約束しました。

 その後も少し雑談をして、ヤンホーさんが帰ると、僕はそのままベットに横になった。

 今日で召喚されて1週間経つ。残りは2年と11か月3週間しかない。装備も新調したし、明後日には国境まで行けるんだと思い、僕はそのまま眠りについた。

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