第22話 模擬戦
祝勝会と葬別会が終了し、僕は宿屋のベットに戻った。それから数日間は痛みが完全には引かず、元の調子に戻るまで5日も掛かってしまった。
その間に放置されていた魔物も無事処分され、町の外は今まで通りの日常に戻った。しかし、町の中はとてつもない喧騒に包まれていた。
いきなり大量の素材が転がり込んで来たのである。ある武器屋は高位魔物の素材を使い、高性能な武器や防具を作成し、薬屋さんは大量に消えたポーションを作るために右往左往している。
魔法屋もいろいろ素材が増えたためか、魔道具を大量に作れるチャンスだと張り切ってお仕事に勤しんでいる。
僕の雇い主であるヤンホーさんも未だにこの町に滞在している。アマゾーさんやラーテーンさんも一緒にだ。
何故なら急に大量な売り物ができたのである。それを均等に分け、どこで売るのかをお互いが邪魔しあわないようにするために、いろいろお話合いが長くなっている状態だ。
ただもうすぐお話合いは終了すると教えられたので、もう2,3日で国境の町に再度出発できるだろうとのことだ。
その間に僕は武器屋から予備の剣と防具を無償でいただくことになった。
なんでも僕の活躍が町に広まっているらしく、今回のMVP的扱いになっているため、その恩返しとしていろいろ町の人からもらっている。
最初は遠慮したが、相手の気持ちだからと言われたら断らずに貰うようにしている。
薬屋さんからは各様々なポーションを、魔法屋さんからは携帯コンロや冷蔵器具、調理器具といったこちらの世界の家電的なアイテムを、食材屋からは半年以上美味しく食べれる保存食等を貰った。
ちなみに武器と防具は上位の魔物の素材を使っているらしく、お値段は一般市民が3年間は楽に暮らせるぐらいに値段がするらいい。気持ちだからありがたく頂戴しますけどね。
他にもラケーテン旅団や金精院の人達と一緒に訓練に参加させていただいた。
前回はあくまで初陣であり、剣も身体能力に合わせ我武者羅に振っていただけである。
そのため、ちゃんとした戦い方を学ぶため、いろんな人に交じってアドバイスをいただいたり、実際に模擬戦をしたりしてる。
しかし、問題も発生し、僕が持った木剣で何かを切ると、全て切断されてしまう。手加減等も試してみたけど、関係なく切断する。
いろいろ四苦八苦考えた末に見つけた結論としては、剣じゃなければ切断しない事がわかった。そのため、僕は模擬戦の際、皆さんが木剣を構えているに対して、僕だけ棒を構えていることになった。
「じゃあナガヨシ。今日もトゥーリと模擬戦だ。胸を借りたつもりで戦ってこい」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
僕は2本の棒を両手に持って構えた。僕の能力であれば剣を持つだけでなんでも切れる。
じゃあ1本だけじゃなく2本持てば攻撃回数が倍になり、殲滅力がアップする計算だ。
そのため、模擬戦を行う際は二刀流の人達と戦わせてもらっている事が多い。
「よし、今回も最初は俺か。また勝たせてもらうぜ!」
そう言ってトゥーリさん(マッチョな黒髪の男性)は2本の剣を構えた。
トゥーリさんが言った通り、僕の模擬戦の勝率は低い。物凄い身体強化を貰ったが、まだまだ無駄が多いらしく、ラケーテン旅団の人達あ金精院の人達から言わせれば「隙が多すぎる」そうだ。
そのため、現在の勝率は3割を切っている。
「よし、両者位置についたな――始め!」
「ハァ!」
その合図とともに僕は前に駆け出し、トゥーリさんの後ろに一瞬で移動した。
そのまま右の棒でトゥーリさんの頭を狙ったが、トゥーリさんが振り向きながら左手の木剣でガードし、流れる形で右の木剣で僕の左肩を薙ごうとしていた。
僕はそれを目で追えていたので、すぐにバックステップで躱し、再度距離を詰め寄り左の棒で胴薙ぎを狙った。
これもわかっていたのか、トゥーリさんは今度は両手の木剣で弾いた。そのせいで僕は体制を崩してしまい、何とか元の体制に戻ろうとしたが、トゥーリさんの右手の木剣が僕の顔の前に当てられた。
「はい、1本。まだまだだな。お前さん速度は速いがまだ慣れてなさすぎだ。自分の速度に振り回されてるぞ? 体制を崩したのがその証拠だ」
「はい……やられました……精進します……」
「俺はたしかにラケーテン旅団で1番の二刀流使いだが、俺に勝てないようであればザックさんやダンさん、ロックさんに勝てないぞ?」
そうなのである。今戦っているトゥーリさんはラケーテン旅団と金精院全てのメンバーで1番二刀流が凄い人でした。
その動きは参考になることが多く、一番多く模擬戦をしてもらっているが、未だに勝率は2割ってところだ。
でも模擬戦を繰り返すことにより、だいぶその動きを真似できるようになり、他の団員にはだいぶ勝てるようになってきた。
「もう1本お願いしていいですか?」
「おう、何度でも来い!」
そうしてトゥーリさんと合計4本の模擬戦を行い、今は何とか1勝だけしている。今回が最後の試合だ。
「それでは――始め!」
審判役の合図とともに再び僕は前に出た。今度はまず左の棒を逆手に持ち、横薙ぎをした。これはあっさりと躱されたが、さらに前に踏み込み、右の棒を振り上げた。
トゥーリさんは僕の棒を右側でガードしようとするが、僕は右手を止め、前に踏み込んでいた際に下におろされていた左手を上へすくい上げた。トゥーリさんさんの右手は大きく弾かれ、その隙を突きを、僕は両方とも上に上がっている棒を同時にトゥーリさんに叩きこんだ。
トゥーリさんも左手でガードしようとしたが、僕の速度の方が早く、両肩に触れる1cm上ぐらいに寸止めしていた。
「よし! 今回は僕の勝ちですね」
「――ったく、やっぱ早-な、マジで。そこら辺の雑魚ならもうお前に勝てねーぞ」
今日の戦績は5戦2勝と、僕としては十分な成績で終わった。まだ武器を持って1週間程度しか経っていないんだ。それなのにベテラン冒険者であるトゥーリさんに1本を複数回取れたんだ。十分な進歩であると思う。
一応僕よりも強い人がまだ沢山いるし、しかもその内数人はすぐこの旅団の中にいる。
ロックさんやダンさんには何とか打ち合いができているが、ザックさんには打ち合いもできずにいつも負けている。
一応前2人にはもうすぐ勝てる感じがするが、ザックさんにはまだまだ勝てる気がしない。
あの人経験則っていうのか、何となく僕が何処に打ち込むのかわかるみたいに反応される。
高速で動いてみて翻弄させようとしたが、全然乗ってくれないし、手数を増やしてみてもフェイントは見破られて本命だけ防がれて簡単に負けてしまう。
いくら異世界チートのような力を手に入れても、上には上がいるんだなと戒めになった気分だ。
その後も他の団員たちと模擬戦を繰り返した。トゥーリさん以外の人と戦った場合の勝率は8割をキープしている。
負けた理由は僕が想像した動きが予想以上に変な動きのせいでちぐはぐになり、その隙を突かれて負けていた。
「よし、今日はここまで! あとは好きにしろ、解散!」
ダンさんが号令を掛けると、団員たちはある人はくたびれながら、ある人は笑いながら解散していった。
さて、僕は何をしようかと考えていると、ダンさんから声がかかった。
「おいナガヨシ。武器屋のおやじが呼んでたぞ? 武器が完成したんじゃないのか?」
「そうですか。ありがとうございます。早速行ってきます」
僕は早速武器屋に向かうことにした。武器屋のおじさんから武器防具の無償提供の話を受けた際、いろいろ注文していたので、少し時間が掛かったみたいだった。
どんなものに仕上がったのか楽しみだったため、鼻歌交じりに武器屋に向かっていると、ステイシーさんとクルルさんに出くわした。
「あら? ナガヨシじゃない。どうしたの?」
「あ、ナガヨシ!やっほー!」
「こんにちはステイシーさん、クルルさん。えっとですね、今から武器屋に行くところなんですよ。おじさんに頼んでいた武器防具が完成したって報告がありましたので。お二人は?」
「今から買い物だよ? 消耗品とか装備品とかの買い出し。そうだ! ステイシーさん! 先に武器屋に行きましょう! ナガヨシの装備気になりますし!」
「ええ、そうね。ナガヨシ、ご一緒大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ。じゃあ行きましょうか」
そうして僕らは3人で武器屋に向かった。
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