間章① みなもとの出会い(よくある恋愛小説の序章的な出会い方)

みなもとの出会いは、ごくごく普通な出会い方だと思う。

 大まかな流れで言うと、出会い、仲良くなり、告白し結婚。そして今やみなもは妊娠しており、あと3か月程度で出産予定だ。

 ちなみに出会いから結婚まで約6年掛かっている。出会ったのは僕が13歳の中学1年の時、みなもは1つ上の中学2年生の時だった。

 結婚するころには僕は19歳、みなもは20歳になっていた。


 確かに世間一般的に言えばかなりの早婚であり、妊娠、そして出産だと思う。

 しかも僕は訳あって最終学歴が中卒であり、普通ならみなもとの結婚なんて夢のまた夢だったと思う。


 僕は微睡の中でみなもとの出会いを思い出していた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 あれは僕が中学に入学した直後の事だった。


「おい長慶。2年にすっげー美人がいるって知ってるか?」


 そう僕に声を掛けたのは小学校時代からの友人であり、今も少し交流がある高町久秀(たかまちひさひで)の声だった。

 あの頃の僕はどこにでもいる普通の学生だったが、まだ異性に対して興味はさほど持っておらず、ましては自分とは違う学年の女子になんて興味を持つ筈がないと思っていた。


「なんでもすでに50人以上の男子から告白されていて未だにOKが出てないんだって! いやーまさか本当にいるんだな。アイドルみたいな人って――」


 その後も久秀以外からもその謎の美人先輩の噂が僕の元まで届いた。

 名前は月代みなも。今時名前がひらがななんて珍しいと思ったが、それもまた可愛くていいと久秀が言っていた。

 成績は普通より上、むしろ上から数えた方が早いとのこと。運動神経もまあまあで、話を聞く限りじゃ普通の人って印象だった。

 流石にテンプレの如く全てにおいて優秀な超絶美少女とまではいかないみたいだが、むしろそのせいで親しみを感じられ、話しかけられるということみたいだ。


「もう俺達中学に入って1カ月。GWも終え中学にも慣れて来たし、ここは1発年上の女子と仲良くなりたいと思って何が悪い! いや悪くないね!」


 どうやら久秀は僕より早熟のようだ。いまいち共感を覚えることができない。

 正直異性を追っかけるよりも勉強していたいし、内職の仕事してお金を貯めていたいと思う。

 ちなみの僕は小学5年生頃からクラウドソーシングを活用してお仕事をしてたりする。

 そのため、この年にしては自分で使えるお金は多い方だ。ま、事情により使える余裕なんて全然なかったんだけどね。


 そんなある日、会わないと思っていたみなもと出会う日がやってきた。

 それは夏休みに入る前の最後の期末テスト終了後。やっと勉強という重圧から解放された久秀にカラオケに誘われた。

 僕としても試験中と最後の日はお仕事はお休みの日と決めていたので、快く了承した。

 久秀の他にも男友達3人、同じクラスの女子4人の計9人でカラオケに向かった。


 あっという間に18時を過ぎ、そろそろ帰る時間となったので部屋を出て帰ろうとすると、店のレジにて揉め事が起きている音が聞こえた。

 そこには見るからにチャラそうな大学生ぽい男の人が4人と、高校生ぐらいの女の人3人が言い合いをしているようだった。


「だからさー、俺らと遊ぼって。ここの金はこっちで出すからさ。ね? 楽しもうよ」

「いやだからあたし達はもう帰るんです。それにあたしたち中学生ですから。あまり年上の男の人と遊ぶなんてとんでもない! ね? 皆もそうでしょう?」

「うんうん。それに門限とかあるし、早く帰りたいんです」


 女性陣はどうやら僕達と同じ中学生でしたか。大人っぽい私服を着ていたせいでまさか中学生とは思わなかった。

 女性って怖いね。着てる服とかで印象が物凄く変わるから。


「またまたー。中学生とか冗談でしょ? そんな恰好をして中学生って。何? 最近の女の子ってこうも発育がいいの? すごいね」

「本当本当。だったらさ、尚更俺らと遊ばない? お兄-さん達が大人の遊びってやつを教えてやるよ」

「そうそう。特にそっちの彼女。マジ可愛いね。なに? モデルとかアイドルとかそっち目指してるの?」


 男たちが1人の女性に目を付けた。僕もつられてそちらを見たが、そこにはまるで女神がいた。

 綺麗な肩までの長さの黒髪。しかもキューティクルというのか髪が艶々に輝いて見える。薄く化粧をしているのか頬が少しピンク色になっており、目は現在怯えた表所をしているが、元が大きいとわかるぐらいしっかりした目筋をしていた。

 身長は恐らく僕よりも5cmぐらい大きく、服装は白を基本とした腕周りが透けてみえるタイプの服に、黒い生地で白い花が乗っているスカート。

 本当に中学生なのかと疑わしくなるぐらい大人びた女性がそこにはいた。


「みなも。無視していいからね。とりあえずあたしたちは帰りますので、そこでいてくれません? 本当にしつこいですよ」


 あの女神様はみなもというらしい。はて? どこかで聞いたことがあるような?


「おい、長慶。あれって噂の月代みなも先輩じゃね?」

 そう久秀が小声で言ってきた。


 なるほど、確かにあれだけ美しい人であれば男が群がるのも不思議ではない。実際に今大学生ぐらいのチャラ男が虫のごとく寄っているし。


「どうする? 終わるまで待つか?」「いや助けないのかよ」「相手は大人だし、危なくね?」

 我が友人たちである男諸君はどうしたらいいのか小声で相談しており、

「可哀そうだけど、こっちに飛び火してもね――」「あれだけ可愛いんじゃ仕方ないよね」「ていうか早く終わってほしいんだけど」

 女性陣は我関せずを決めたようだ。


 何故かトラブルだろうか店員は今レジにはいない。そのため、目の前で起きているトラベルを解消できる人がいない。

 何時になったら終わるんだと内心愚痴を言っていると、不意にあの女神から視線を感じた。

 彼女、みなも先輩は僕達に対して頭を下げていた。それも何度も。恐らくこの状況を作ってしまい、巻き込んでしまってごめんなさいっといったところか。

 でも僕以外は気が付いていないのか、男連中はまだ何か言い合っているし、女性陣は女性陣で楽しそうにお喋りをし出していた。


 なんだか全然解決しそうにないため、僕は一瞬考えた。どうしたらこの状況を解決できるかを――

 そこで周りを見ても助けれるような人もいない事だし、僕はとりあえず今考えたことを実行し始めた。


「あれ? お姉ーちゃん? お姉ーちゃんもカラオケに来てたんだ。友達と遊びに行くって聞いたけど、まさか同じ店で会うなんてね」

 そう言って僕はみなもの傍にやってきた。


 突然の僕の登場に、チャラ男だけでなく、みなもの友達たちも一瞬驚き僕を疑うような目で見ていた。

 そんな視線をもろともせず、僕は続けて即興で考えたアドリブの続きをすることにした。


「もうすぐ門限だから早く帰らないとまたかーさんに怒られるよ。前回僕が怒られているとろこ見てたでしょ? また怒られるのは嫌だし、姉ーちゃんが怒られてる姿を見るのも嫌だから早く帰るよ?」


 そう言ってみなもの手を取って握った。一瞬驚いたが、みなもは僕の考えを察してか、アドリブに付き合ってくれた。


「なーくん? なーくんもここに来てたんだ? 偶然だね」

 なーくんって――僕の名前なんて知らないはずなのになーくんって……そんな驚いている僕を後目にそのままアドリブを続けた。


「というわけでごめんなさい。まさか家族がここにいるなんて。門限の時間もあるから、私たちはここで帰らせていただきますね?」


 そうみなもが言うと、流石に家族というワードがまずいと思ったのか、チャラ男達は舌打ちしてカラオケルームへ消えていった。

 その光景を見ていた僕の友達たちは、アドリブ中は何も言わずに固まって僕を見ていたが、チャラ男がいなくなって再起動し、僕に詰め寄ってきた。


「お前みなも先輩の弟だったのか?」「だから噂を聞いても興味がなかったんだな。身内だし」「でも名前違くね?」

 といろいろ言っているが、とりあえず今は放置。いつチャラ男がこっちに来てしまうかわからないため、店を出るまでは姉弟を演じる事にした。


「また面倒くさい人達が来るかもしれないから、その話は後でね」

 そう言うと、今まで疑いの目を向けていたみなもの友達たちも僕の本当の目的に気が付き、協力してもらえるようになった。


 5分ぐらい経過しただろうか、ようやく店員が戻ってきて清算を済ますことができた。

 店から出てすぐに、友達たちに即興アドリブで切り抜けた事を伝えた。その事を伝えると女子たちはしきりに感心し僕を誉め、男子達はその手があったかと地団太を踏んでいた。


「ところで君は何時までみなもの手を握ってるのかな?」

 そう言われ僕は自分の手を見た。そこには確かに僕以外の温もりがあり、その温もりの原因はみなもであることはすぐにわかった。しかし――


「何故でしょう? 離したくありません」

「あれ? 奇遇だね? 私もなんだか離したくないんだよね? この手」


 何故か二人の意見はシンクロした。そのせいで男性陣からは「羨ましい!」と怒鳴られ、女性陣からは黄色い歓声を受けることになった。


 僕達はしばらく手を繋いだままみんなと歩いた。男性陣はみなも以外にも可愛い年上の女子が傍にいるためか、積極的に話しかけて、その姿はまるで構ってほしい犬みたいだと思ったので、思った事を口にしたら「誰が犬か!」と怒られた。

 女性陣も先輩方と楽しそうにお話を繰り広げており、もうとても早く仲良くなっていた。恐るべし女子のコミュ力――

 そして僕はというと、みなもに疑問をぶつけていた。


「ねぇ先輩? なんで僕の事『なーくん』って言ったんですか? まだ名前教えていませんよね?」

「あ、そうだね。君名前は?」

「石田長慶です」

「長慶君か。今日はほんとにありがとね。名前についてなんだけど、気を悪くしたらごめんね?」

「いえ、名前が『な』から始まるので別にいいですけど、なんで『な』が付くとわかったんですか?」

「えっとね、他意はないの。ただね、その――怒らない?」

 みなもはかわいらしく首を傾げながら僕の様子を窺うようであった。


「はい、怒りませんので理由が知りたいです」

「実はね。私趣味で変わったものを集めてるんだ。その中の一つにすっごく長慶君に似たモノがあって、その名前が『なーくん』っていうの。だから思わずね? その名前を言ってしまったわけです」


 なるほど、僕に似た置物があり、その名前がたまたま『まーくん』なのか――


「ちなみにどんなものですか? その置物って?」

「埴輪だよ?」

 僕に似た埴輪って――え? 僕って埴輪似の顔をしてるってこと?


 こうして僕とみなものファーストコンタクトは終わった。その後、何故かみなもと付き合うようになり、学校でみなもや、みなもの友達から話しかけられるようになり、男たちからの嫉妬の視線が増えていくのであった。


 ちなみに、後日埴輪の『なーくん』を見せてもらったが、全然似ていなかったので、かなりホッとした。

 でもこれが僕に似てたって、みなもはどんな見方をしているのか、逆に気になってしまった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

以上で第1章終了です。よろしければここまでの評価・感想を頂ければ幸いです。

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