第19話 勇者一行、自身を知り訓練に励む②
「つまり、魔法というものは術者のイメージが大切となります。イメージが上手くいかないといくら呪文を唱えてもうまく発動せず、逆にイメージが上手くできれば呪文を言わなくても魔法は発動します。
ちなみに私も無音唱で魔法を使えますが、音唱した方が威力が上がるイメージを持っているため、基本的に音唱します」
ウルスさんがこの世界の魔法についてをわかりやすく説明してくれた。
今ここにいるメンバーは私こと正、佳織さん、凜々花さん、沙良さんの4人だ。
沙良さんはどうやら武器を使った争いは苦手らしく、魔法が扱えないかを確認したいようだ。
ざっくり魔法といっても沢山の種類があるらしく、私たちがゲームとかでよく聞く攻撃魔法でも複数の属性が、それに回復魔法や支援魔法、付与魔法といった最近流行りの魔法もあれば、建築系の魔法、農場系の魔法、料理に適した魔法など、すでに体系できあがっているようだった。
佳織さんや凜々花さんは一生懸命にウルスさんの話を理解しようと神経に聞いており、沙良さんもわかりやすい説明に関心をしている。
「では、早速ですがまずは魔力を感じましょう。魔力を感じることができなければ、いくら職業が魔法使い寄りであっても魔法を使うことはできませんからね」
そう言ってウルスさんは私たちの前に来て右手を差し出した。
「一人ずつ私の右手を握ってください。今から私が皆様に魔力を流します。その魔力を感じ取ることができれば、後は自然と自分の魔力を感じることができるようになり、自ずと魔法を発動できるようになります。沙良様も一緒に試してみましょう」
とりあえず最年長である私から試すことにした。ウルスさんの右手を掴むと、何やら温かいような、形容しがたい感覚が私の体を駆け巡った。
それと同時に、不思議と先ほど説明された魔法について何故だか理解できてしまった。
ウルスさんの右手を離し、今ふと浮かんだ魔法を想像してみた。といってもよくある魔力玉を宙に浮かせる事だ。属性とかは一切考えないでとりあえず魔力玉を想像し、自身の右手に魔力らしき力の開放をイメージした。
すると想像通り白い魔力玉のようなものが私の右手に3個ほど宙に浮かんだ。本当に魔法ができたという感動よりも、本当に魔法ができたという驚きの方が増していた。
私が魔法を使った光景を見た凜々花さんが、少し興奮気味にウルスさんの右手を掴んだ。手を離した後、私と同じように魔法を使おうとしている。しかし――
「申し訳ない、凜々花殿。精霊魔法を使う場合は、後で詳しく説明しますが、精霊にお願いする必要があります。そのため、あなたが感じた魔力を精霊に与えることをイメージすることが先になります」
そう説明を受けた凜々花さんは、ニコニコしながら「お願ーい。来て来てー」と言っている。
その間に次は佳織さんがウルスさんの右手を握った。佳織さんは手を離した後、少し目を瞑ったかと思いきや、私と同じように魔力玉を体の周りに発現させた。
自分で魔法が扱えたからか、佳織さんは次々と魔力玉を宙に浮かす。その際に白色以外にも赤や青、緑といった色の魔法球を浮かせている。
どうやらそれぞれの色が属性魔法の様で、火の力や水の力を感じ取れる。
最後に沙良さんが試してみた。恐る恐るといった感じにウルスさんの右手を握ったが、すぐに反応があった。どうやら彼女も魔力を感じ取れるようになったらしい。
少し嬉しそうに私や佳織さんと同じように魔力玉を発現させた。どうやら【聖女】の職業は魔法が使える類の職業のようだ。
「では皆様、次は自身が何が得意かを確認する必要があります。どんな属性が得意なのか、攻撃寄りなのか回復寄りなのか支援寄りなのか、そんな感じで自分が何が得意なのかを魔法を使って感じ取ってください」
そう言われたので、なんとなく魔法を想像してみた。私が思い浮かべたモノは糸や鎖といった束縛するイメージ。そのイメージに促されるように気がつけば糸状の魔力を手から出していた。
佳織さんを見ると両手をコップの様な形に保ち、そこから水を出したと思えば少しずつ氷に変えているようだった。
凜々花さんは精霊へのお願いが終わったのか、周りに花吹雪を舞わせていた。
最後に沙良さんですが、体から優しい光が出ている。その姿からまるで絵画から出てきた聖母の様な美しい姿がそこにあった。
「なるほど――皆様の得意がわかりました。正さんは糸を出しましたので、恐らく支援系の呪文を、佳織さんは水属性が得意であり、恐らく攻撃魔法が得意なのでしょう。
凜々花さんは植物系の精霊に主に好かれており、沙良さんは光属性の魔法が得意と推測されます。
得意分野や属性につきましては、最初に思い浮かべたものが多く当てはまります。恐らく無意識の内に自分にあったものが想像されると昔から言われています」
そうなると、私は無意識の内に束縛したい欲求が現れたのかと自分の事が心配になった。他の人達は属性が出ているのに、私だけ属性ではなく糸。
そんな心配をしていたためか、ウルスさんが私に向かってアドバイスをくれた。
「支援系が得意な人達は糸や玉を最初に出すと言われています。恐らく糸を使って味方を手繰り寄せるとか玉に支援の力を注入して当てるとか、いろいろ言われています。支援系は属性と違って目に見えにくいので判断が難しいのですが、恐らく間違いないでしょう」
そう言われてホッとした。私が変な趣味を持っていると思われるのは嫌ですからね。
「では皆様。次はそれぞれ魔法の練習をと言いたいですが、その前に伝えないといけない事があります」
ウルスさんは先ほどよりも真剣な表情をして私たちを見た。
「私達魔法使いは魔法を使う人間です。その魔法は人の命を簡単に奪えます。そして、戦闘時は私たちの魔法が第1の矢となり、多くの敵を葬ります。魔法はその時その時で適切な魔法を使う必要もあります。
そのため、私たちは冷静な判断力が必要となります。たった1匹の魔物に大規模な魔法を使うわけにも行きません。乱戦で長期戦とわかっているのに最初から大規模な魔法を使って魔力を無くすことをしてもいけません。
例え目の前で危機的状況化になったとしても、例え親しい人が人質になったとしても、的確な魔法を放つ必要があります。
いいですか?どんなに知識を詰め込んでも、沢山の魔法を覚えても、使いこなせなければ意味がないのです。
貴方たちが最初に覚えないといけない事、そして忘れてはいけない事は冷静になること。冷静で居続けること。それを忘れないでください」
ウルスさんの教えは私達の心に響いた。
異世界召喚。私も何度か見たことがあるが、主人公が凄い魔法使いになり多くの魔物を倒したり、国を救っているお話は沢山ある。
物語は読者に楽しませるためや、主人公に感情移入して爽快感を得るために強さやカッコよさを強調させたりしている。
そのため、今ウルスさんが言っていた冷静な判断力等を身に着けるというのは想像すらしていなかった。
他の女性陣も戸惑っているのか、オロオロしている。
「大丈夫です。この国では魔法使いを育成する機関もあります。そこでしっかりと訓練すれば、皆様ですと私並みの魔法使いにすぐになれますよ」
ということは今後はその専用機関で訓練を行うことになりそうですね。そちらの方が専門的な訓練ができそうでよかったです。
私たちは魔法の素人。ウルスさんに常に教えてもらえたらいいのですが、筆頭魔術師と言われ王様の傍にいたということは、恐らく忙しい身。今後は私たちの教育から離れる可能性が高いでしょう。であれば、専門的な教師がいる環境で学んだ方が早く身に着く。
私は今後の展開を思い浮かべながら、私ができる魔法についていろいろ想像を膨らまし続けるのであった。
--------------------------------------------------------------------------------------
「勇者一行が来て早2週間か。ウルス、様子はどうだ」
「はっ、闘神である光殿は相変わらずの強さを誇っており、もう誰も何も教えることはありません。ただやはり魔法適正はないようです。
反対に栄治殿は最初は不安でしたが、兵達が教える事を素直に吸収し今でも実力をメキメキと向上させております。今では上位陣に食らいつけるぐらいまでの強さになっておりますな。
魔法使い組である正殿、佳織殿、凜々花殿は現在学園で魔法を学んでおり、こちらも実力を上げているそうです」
私は我が王に現在の勇者一行についての報告をしている。
光殿は言った通りもう誰も相手にできない強さを持っており、あの力を見ると本当に魔王を倒してくれると期待を寄せれる。
しかし、自分が強いと自覚し誰も相手にできなくなってからはよくトラブルを起こしていた。
兵たちに尊大な態度を求めたり、女性兵やメイドに無理やり声を掛けるなの、少し困った者である。
しかも声を掛けられた女性の多くは強い彼に好意的に受け止めており、既婚者や婚約者がいる者たちですら彼を拒まないでいるらしい。
栄治殿は最初の訓練時は心配したが、今では普通の兵士では相手にならないぐらい強くなった。やはり異世界から召喚された者はこの世界の人間といろいろと違うのだろう。
しかも兵士たちとの仲もよく、実力もみるみる向上しているため彼も女性人気が高い。光殿は男性からはあまり受けがよくないみたいだが、栄治殿が間に入ってくれて何とか回している状態だ。
魔法使い組は本当に短期間で魔法を覚えていき、威力や速度だけで言えばもう私以上の実力がある。
後は数度実践を行い、冷静な判断力を身につければ訓練は終了となるだろう。
そして問題なのは――
「沙良殿は凄まじいな、ウルスよ」
「ええ。まさかあれ程の逸材だったとは――【聖女】とはとんでもないものですね」
沙良殿は今、神殿にいる。魔法を覚えた際、沙良殿は淡い光を発していた。その光は我々のよく知る光属性の光ではなく、神殿に保管されている神器から感じる魔力と発せられる光に似ていた。
そこで大司教に確認してもらったところ、女神アテナネーゼ様に近い力を感じると言われ、沙良殿は女神様の使いであるということになり、寝泊まりするとき以外は神殿でアネナネーゼ様の事を調べている。
その結果、奇跡の様な魔法を使い、通常の回復魔法では完治不可能な病気の改善や、天候を変える魔法、瞬間移動魔法等のアテナネーゼ様が使ったとされる魔法の再現をしてしまった。
そのため、今では女神の再来と言われ、すでに司祭の地位まで与えると法皇がお触れを出している状態である。
多少皆様方癖があるが、全員が優秀な人間であり、このまま順当に行けばもうすぐ初陣を行い、その後の魔王討伐までの計画も早くに実行できそうであった。
「そして最後に小音子殿についてだが、本当なのかね?ウルスよ。わしは未だに信じられないのじゃが……」
「残念ながら本当です陛下――小音子殿――あれは異常です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます