第18話 勇者一行、自身を知り訓練に励む①

 城に来て1日経った。今俺たちは全員ウルスさんの案内で城の訓練場みたいな場所にきた。

 あれからしばらくいろいろと話し合い、お互いの疑問点や不安を出し合った。

 驚いたことに沙良さんと小音子ちゃん以外は何らかの異世界転生モノや召喚モノを見ていたらしく、今後の生活や戦闘についての不安点が多く出てきた。

 そのため、まずは戦闘について不安点を解消することにした。


「さて、勇者様方。皆様は争いのない世界からこちらに来たと仰られました。その際に職業も授かったと。

 まずは自身が手に入れた力がどういうものかを確認しましょうか。その力がわかり次第、力に合った訓練を行いましょう」


 そうウルスさんに提案され、まずは光から職業の確認を行うことにした。


「職業【闘神】、資料によればありとあらゆる武器を扱うことができ、その体に闘気を這わせ敵を打ち倒すとあります」


 その説明を受けて、光君は「やったぜ! 大当たりの能力じゃねーか!」と喜んでいた。

 たしかに説明を聞く限りじゃ武器を持つだけで扱い方がわかるんじゃ訓練も体を鍛えるだけでいいのかもしれない。

 同じことを思ったのか、光ははしゃぎながら言った。


「武器を持つだけで戦えるんだったら特に訓練する必要がないじゃん! やっぱり俺は選ばれた人間じゃん!」

「でも光君、体を鍛えるとさらに強くなるんじゃないかな? 一応訓練はしといた方がいいぜ?」

「あぁ~……はいはい。ちょっと怠いですけど頑張りますよ――」


 なんだかやる気のない返事が聞こえるが、気持ちはわかる。

 既にすごい力があるんだったらもう訓練なんて必要ないと思うもんな。

 大体の異世界モノもすでに最強の力を手に入れて、異世界無双とかして楽しい暮らしをしているものが多いもんね。


 次に確認したのは佳織ちゃんと正さん、凜々花さんの職業であった。


「職業【魔導士】、この世界にある全ての魔法を扱うことができる職業。その人の才能にも影響がありますが、訓練次第では攻撃魔法から回復魔法、生活魔法や建築、製造、支援、付与といったあらゆるジャンルの魔法を操ることが可能です」


 佳織ちゃんの職業【魔導士】はよくある魔法使いのポジションみたいだ。しかも攻撃から回復と幅広く活用ができ、パーティーには必須の人材と思う。


「職業【賢者】、この職業は【魔導士】と同じで魔法に特化した職業でもありますが、その本質は考える者。この世界の魔法は【賢者】が作ったと言われています。ただどうやって魔法を作っているのかは資料がないためわかりません。そのため今は魔法職の一種となっております」


 正さんの職業【賢者】よくあるゲームの賢者のような役割と魔法を作り出す役割があるのか。魔法を作り出す方法は不明ということだが、それは後で検証しよう。


「職業【精霊術師】、この世界には精霊がいたる所にいると言われ、その精霊の力を使って魔法を繰り出す職業です」


 この【精霊術師】もよくゲームで聞いたことがある。しかし【魔導士】や【賢者】と何が違うのだろうか?


「ウルスさんすみません。あたしの職業の【精霊術師】と【魔導士】と【賢者】って何が違うかわかりますか?」


 佳織ちゃんや正さんも疑問に思っていたのか、便乗して質問しだした。

 ウルスさんの説明を要約すると、【魔導士】と【賢者】は自分の体内にある魔力を使って魔法を使い、【精霊術師】は世界の精霊を使って魔法ができるため、自分の魔力はあまり必要ないとのことだ。

 精霊を使役する際に少しの魔力を渡し、協力を仰いで魔法を使うようだ。そのため、自分の魔力が無くなると戦うことができない【魔導士】や【賢者】とは違い、長期戦に向いているそうだ。

 ただし、魔法の威力は【魔導士】や【賢者】の方が強いため、状況を判断してそれぞれの役割を与える必要があるみたいだ。


 次の職業について確認しようとしたが――


「他の方々の職業についてですが、申し訳ありませんが資料がなく、どのような力があるかわかりません」


 どうやら俺の職業である【勇者】、沙良さんの職業【聖女】、小音子ちゃんの【戦乙女】の職業は内容不明らしい。


「ねえねえウルスさん! 本当に【勇者】って職業はわからないの? 【勇者】だよ【勇者】。何か物語とかで勇者の話とかこの世界にはないの?」


 光君がそう質問した。魔王がいるんだったら勇者もいると思うんだけど――


「はい。確かに物語等で勇者は何度も出てきたことはあります。しかし、その……【勇者】とは職業ではなく、偉大な功績を残した者を指す称号の様なものです。

 例えば【戦士】が勇者になったり、【魔導士】がその魔法で多くの魔物を倒し勇者と呼ばれたこともあります。そのため、【勇者】という職業は聞いたことがないのです」


 なるほど。勇者とはこの世界では偉大な功績を残した者を指す言葉なのか。

 そうなると困った。職業がわからないとどのような訓練を行えばいいのかわからないじゃないか……

 そう思っていると、光君が俺の肩に手を置き話しかけてきた。


「大丈夫ですよ栄治さん! この俺が皆を守りますんで! なんたって【闘神】ですからね俺! どんな敵が来ても俺の相手じゃないですよ!」


 なんだかむかつく笑顔を向けながら勝ち誇った表情を浮かべていた。

 確かに俺の能力は詳細がわからないから、しばらくは戦い方を確認し、訓練する必要がある。その間は他の皆に助けてもらう必要があるがなんだろう――釈然としない。

 俺は【勇者】なのになんだか出遅れた感じがする。


「うーん……私の【聖女】と小音子ちゃんの【戦乙女】もわからないんじゃ仕方がないわね……ウルスさん。何か聖女が出るお話や戦乙女が出るお話とか知らないかしら?」

 そう沙良さんが切り出した。確かに聖女とか戦乙女が出てくる話とかはあると思うんだけど――


「聖女に関しては勇者と同じ様な感じです。【魔導士】の女性が人々に幸福を与えている話や、貧しい人にお金や食料を渡す【商人】のお話とか色々あります」

 どうやら聖女も勇者と同じ、功績や初号の類のようだ。そうなるとどのような能力があるか見当もつかない。


「戦乙女に関しましては殆ど謎です。確か以前見た古い文献だったと思いますが、神の使いに戦乙女という言葉が出ていたような……申し訳ない。少し調べてみます」


 よくあるゲームやアニメの話では戦闘系の職業だった気がする。美人な女性が剣や槍を使ってすごいアクションをしているイメージがある。

 でも小音子ちゃんは申し訳ないが身長は小さくスタイルも凄いとはいえない。武道経験ありと聞いたがそんなに強そうにも見えない。

 とりあえず俺達と一緒に訓練するしかないな。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「(まさか栄治さんが【勇者】なのに戦闘力が未知数だなんて……しかも訓練状態を見る限り、一般の兵士並みの強さみたいだしな。

 これは俺の時代がもうすぐ来るな! さっさと初陣を済ませて俺の活躍をみんなに知らしめさせないとな!)」


 ウルスさんの職業説明の後、さっそく訓練に入った。

 とはいっても魔法を使う佳織ちゃん、凜々花さん、正さんは魔法を覚えるため座学をする場所まで移動した。

 そのため、今戦闘訓練を行っているのは俺と栄治さん、小音子ちゃんが参加している。

 ちなみに沙良さんは少しだけ武器を手に取り振ってみたが全然筋がなく、魔法職の方へと移動してもらった。

 その際沙良さんは少しだけホッとした表情を浮かべていたが、その表情もまた美しかった。なんだか儚い――尊い――守ってあげたくなる――そんなエフェクトが周りに出ているような気がした。


 ちなみに俺はやっぱり強かった。何人か城でも強い人と戦ってみたが、誰も相手になれず俺は無傷で全勝した。

 今持っている籠手を試した。剣も試したし、槍も扱ってみた。斧やハンマー、その他に見たことも聞いたこともない武器を扱ってみたが、ウルスさんが言ってた通り何にも問題なく、そして違和感なく扱うことができた。

 しかもこの場には数人美人の女騎士風の人もいたことだし、きっと今後は俺の事を尊敬の目で見てくれるに違いない。

 そしてその尊敬の目は何時かは好意の目に変わりそして……


「(案外チョロいな、ハーレムを作るっていうのは。やっぱり異世界では強い男がモテる! 定番だな!

 栄治さんごめんね? このまま俺が主役をいただくことになるね! 今からが俺の異世界ハーレム物語の始まりだ!)」


 ちなみに、小音子ちゃんはお腹が空いてるとか言って少しだけ訓練に参加したが、すぐにバテてその場で眠ってしまった。

 そのため、俺の活躍を全然見ていなかったので、次回に他の女性陣が集まった時に改めて俺の力を見せることにしよう。


 反対に栄治さんはというと、俺と同じように強いと言われている人と戦ったが手も足も出ず、無様に何度も地に這いつくばっていた。

 相手の騎士のような人が剣を振り上げたと同時に盾を構えたが、そのまま吹き飛ばされたり、栄治さんが剣を振っても簡単に避けられたり受け止められたり、そしてすぐ反撃を食らって吹き飛んでいく。

 普通【勇者】って強いと思っていたんだけど、想像以上に弱かった。そのため、今はこの城の兵士を鍛える際の基礎訓練を1からやっている。


 こんなのが俺たちのリーダーで大丈夫か? 今すぐでも俺に変わった方がいいんじゃないか? そう考えたが止めた。

 今変わったら、もし今後栄治さんが【勇者】の力に目覚め、強くなった場合結局交代させられるかもしれないし。

 それにここまで弱い姿だと、他の女性陣が見ても惚れられることはないはずだ。

 そうなると強い俺に視線と期待、そして信頼が集まるはず。

 やっぱり栄治さんは俺のために呼ばれた踏み台系勇者に間違いないとこの時確信した。

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