第17話 勇者一行、異世界を知る

「栄治さん、見てください! 本物の城ですよ城! 本当に異世界なんですねココ!」

 凜々花さんが興奮気味に俺の肩を叩きながら反対の手で前方を指差した。


 祠にて長慶君と別れた後、俺達7人はすぐにブライアンジュ城に向かった。

 城門に辿り着くと、すでに俺(栄治)達が来ることがわかっていたのか兵士の様な人たちの他に、偉い人が着るような服を着た人たちも何人かいた。

 一瞬王様かと思ったが、ここは外だ。王様がこんな城門まで来るなんてないと思っていたが――


「おお、ようやく来なさったか、勇者様御一行。私はこの国の王であるアウドムラ=ザン=ブライアンジュと申す。本当によく来てくださった」


 なんと、一番偉そうな服を着た人は本当に一番偉い人だった!

 でも普通王様って椅子に座って待ってるってイメージなのになんで外にいるんだ?

 そう面食らっていたのが伝わったのか、王様から改めて話しかけられた。


「ほっほっほっ。驚いているようじゃの。普通わしのような身分が無暗に外で待つなんてありえん事じゃ。

 しかしの、女神アネナネーゼ様から神託が来ての。異界よりこの世界を救う勇者一行がこの地に召喚され、この城を訪ねるとの」


 どうやら女神様は本当にこの国の王様に俺たちの事を伝えていたようだ。

 周りから俺たちに向けられている目線は、なんだか敬う様な視線に感じる。

 その後、挨拶もそこそこに城の中に案内された。ちなみに国からは王様の他に第1皇子であり皇太子のファージン、筆頭魔術師のウルス、騎士団長のダンフォードと紹介された。


「栄治さん。王様とウルスさん? からは年寄りのためか歓迎の気配が感じますが、皇太子と騎士団長からはなんか歓迎以外の気配が感じられません?」

 光君が小声で僕に囁いてきた。

 なんだか含みのある視線を感じる気がしていたが、光君も感じていたらしい。

 俺は光君とそんな話を少し喋りながら王様達の後に着いていくと、恐らく玉座の間だと思われる場所に辿り着いた。

 初めて玉座の間を見たが、あまりにも広く、いったい何人の人が入れるのか見当もつかないぐらい広い場所だったので、少し感動している。

 光や他の皆も同じ気持ちなのか、入った途端ため息を吐き、周りを見回している。


「ほっほっほっ。玉座の間は初めてかね?」

 王様が優しく語りかけてきた。


「はい。というよりもお城に入ること事態が初めてのため、少し興奮しています」

 俺はなんとか当たり障りのない回答をした。

 実際今は驚きの連続である。祠を出てすぐに西洋式の城が見えた。元の世界ではヨーロッパの世界遺産や一部の遊園地に作られた城しかない。

 それも本物の城だ。テレビでしか見たことがない俺にとっては、今立っているこのブライアンジュ城を見た時が一番異世界に召喚されたんだと実感したので、凜々花さんがはしゃいでいなければ俺がはしゃいでいたかもしれない。


 王様はゆったりと玉座に座った。右側には皇太子が立っており、反対側には筆頭魔術師のウルスさんと騎士団長のダンフォードさんが立っていた。


「さて、改めてこの度はこの世界の危機を救うため、こちらに来てくださり本当にありがとう」

 そう言って王様は頭を下げた。


「陛下! 王である貴方が頭を無暗に下げるなどお止めください!」

 皇太子はその行為を見て注意を促している。そして何故か騎士団長から睨みの視線を感じた。

 まるで「何我々のトップに頭下げさせてんだよ!」と言っているみたいだ。かなり理不尽じゃね?


「栄治さん。やっぱりここもテンプレが来ましたね」

 光君は若干嬉しそうに小さく囁いた。


 先ほど光君と話していたが、異世界召喚モノの物語において、召喚者の地位というものがある。

 基本的に異世界召喚モノは舞台背景が中世的なものが多い。その際によく見られるのが生活の不便さと身分差だ。

 生活の不便さを嘆く主人公は自分の知識を生かし、生活を豊かにする話が多いが、身分差については話が両極端だと思っている。

 最初からフレンドリーで身分差なんて気にしない話と、すごく気にして異世界から来た人間でも自国の王を最上級で敬う様に、貴族を敬う様にと言ってくる物語だ。

 今回はどうやら王様はフレンドリーの様だが、その他に人間、特に皇太子と騎士団長はその辺をかなり気にしているみたいだ。

 そのため俺は、あらかじめ用意していた言葉で言葉を発した。


「大変申し訳ありませんが発言させていただきます。我々はこの世界から異なる世界から召喚されました。

 全員に確認させていただきましたが、我々がいた世界は王のような方がいますが、我々の様な一般人でも友好的に接してきており、大変尊敬に値する人でした。

 しかし、この王のような方以外は全て平民であり、貴族とか身分差とか実質存在しない世界からこの地に呼ばれたのです。

 そのため、身分の差というものに大変疎く、そちらの考えとは異なる考え方や思考をしてしまうでしょう。

 申し訳ございませんが、その辺をどうかご容赦いただければ幸いです」


 こんな言い回しで良かったのだろうか? 漫画とかアニメではこんな言い方をしていた気がする。

 俺の言い回しが問題ないのか他の皆の態度を見て判断しようとしたところ、佳織ちゃんと凜々花さんから「おおー」という言葉と尊敬の目を、沙良さんと正さんからはビックリしたような視線を、光君からは向こうの王様達には見えないように親指を立ててニカっと笑っていた。

 王様達は逆に、王様と筆頭魔術師のウルスさんからは何やら納得の表情が窺え、皇太子と騎士団長からは驚愕の表情が窺えた。


「何? 貴様らの世界は貴族がいないのか!? どうやって政治を回しているんだ? 何故回れているんだ?」

「なるほど……それが異世界ですか……やはり我々の常識が当てはまらない世界から来たようですな、陛下」

「そうよな。世界は広いと言うが、まさか貴族がいない世界等あるとはのう……」


 皇太子はどうやら俺たちの世界(厳密に言えば違うが)の在り方が想像できないのか「意味がわからん」と呟いて、再びブツブツ小声で何か言いながら考え込んでいるようだった。ついでに騎士団長も何かブツブツ言っているようだ。

 反対に王様とウルスさんは俺の説明を受け入れ、感心したような表情をしている。


 その後、俺たちの世界とこちらの世界の認識合わせを少しした。

 俺達の世界は共通して魔法が無いこと、その代わり化学が発展し、俺たちの国の人口は(他の人達の世界で1000万人ぐらいの誤差があったが)1億人以上いること、全員教育機関を義務で通っており、読み書き計算はもちろんもっと高度な教育も誰でも受けれること、政治は国民の代表がやる民主主義であること、やろうと思えば世界の反対側にいる人たちを一瞬で大量に殺せる武器があること、魔物はおらず争いごとも一部の地域でしか起きていない事を話した。


 反対にこちらの世界では、魔物が蔓延っており何時でも争いが起きていること、魔王が現れ魔物の活動が一層激しくなっていること、魔法があること、魔法は一部の限られて人間しか使えず、魔法が使えるだけで国に好待遇で迎え入れられていること、宗教は1つしかなく、全員がアテナネーゼを敬っている事を教えてもらった。


 王様とウルスさんは俺たちの世界の話を聞くたびに驚きと興奮、好奇心を隠そうとせず面白そうに聞いている。

 皇太子と騎士団長は逆に理解ができないのか、聞くたびにう~んと唸り、異質なモノを見る目を向けてくる。


「なるほどのう。大変面白かったぞ、栄治殿。本当に世界は広い。お主たちのような世界があるとわかっただけで、まだまだ人には無限の可能性があると思わせてくれた。女神アテナネーゼ様よ。この者たちをわしの元へ連れてきてくれたことに大いに感謝する」

 そう言って王様は祷りのポーズなのか、拝むような手の形をしてお頭を下げた。その際手の形は両手の平を合わせるのでなく、三角形を作るような形をしていた。世界が違えば宗教も違う。祈りや感謝のポーズも全然違うんだと改めて見せつけられたと思った。


「すまんの。召喚されて疲れているだろうに、こんな老いぼれと長々と話に付き合ってくれてありがとう。

 ウルス、勇者様一行を部屋へ案内を頼む。いろいろと後は頼んだぞ」

「わかりました陛下。ささ、私に着いてきてください。皆様が寝泊まりできる部屋まで案内いたします」


 そう言ってウルスさんは俺たちの前に来て部屋へ案内するために俺たちを外に促した。

 ちらっと王様達の様子を見てみると、王様は満足した表情を、皇太子と騎士団長は二人で何やら小声で相談しているようだった。


「じゃあ行きますよ。着いてきてください」


 俺達はウルスさんの案内に従って玉座の間を出たのであった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私(佳織)はウルスさんや栄治さん、光さんの後で沙良さんと凜々花さん、小音子ちゃんと話しながら歩いていた。

 正直異世界なんて何かの冗談かと思っていた。私もよく息抜きに漫画とか小説とかを見てたりしていたので、異世界転生や転移モノも何度か見たことがあるけど、私がそれに巻き込まれるなんて想像すらしていなかった。

 しかも、私がよく読んでいたものは聖女として国のために召喚されたり、気が付けば異世界にいて現地の人と恋に落ちるといったラブコメものが多く、魔王を倒してなんてジャンルはあまり見たことがないジャンルでした。


「勇者御一行の皆様。こちらがあなた方が寝泊まりできるフロアとなります。右手側が男性用、左手側が女性用の部屋となっております」


 いつの間にか目的地に着いていたみたいだった。そこはまるでホテルの廊下の様な場所であり、言われた通り左側を見ると何部屋かの扉が見えた。

 私がもしかしたらの疑問を浮かべていると、凜々花さんがウルスさんに質問をしていた。


「もしかして個室ですか?」

「ええ、基本的に個室ですが、皆さま1か所に集まって寝床を共有してもかまいません。こちらのフロアは勇者様一行の専用フロアになっておりますので、ご自由にお使いください」


 ウルスさんの言葉に私達女性陣は手を取り合って喜んだ。

 何故なら1人では心細い。いきなり何も知らない、わからない世界に放り出され生活しろと言われても無理すぎる――

 だから凜々花さんと沙良さん、あと小音子ちゃんとお話をしてできれば慣れるまで寝る時も一緒がいいねと話し合っていたの。


「じゃあ私たちはしばらくは1つの部屋で共同生活させてもらうわ。後で個室になっていくってありかしら?」

 沙良さんが代表してウルスさんに質問した。


「ええ、問題ありません。このフロアにある部屋であればお好きにご利用していいですよ。今後は武器や防具、消耗品に生活用品が増えるでしょ。いずれかの部屋は物置として使えばよろしいでしょう」


 男性陣はどうやら全員個室として利用するみたい。それから男性陣は男性用の部屋を一つ一つ確認し、栄治さんと光さんが部屋の広さや施設に驚きの声を上げながら、それぞれの部屋をあっという間に決めてしまった。


「じゃああたしたちも部屋を見ましょう。4人でしばらく生活するんです。広い部屋がいいですよね」

「そうね。ベットの数って足りるのかしら?それとも移動できるのからしら?」

「今聞いてた方がいいですよね? すみませーん。一つの部屋にベットを4つ入れることはできますか?」


 たしかにベットの問題は早めに解決しておきたいよね。私もベットで寝たいし。とよく見ると、小音子ちゃんがうとうとしている。眠いのかな?だったら早く決めないと――


「ベットの移動は可能ですよ。よろしければ先に部屋を決めていただければ後程メイドにでも運ばせますよ」


 メイドさんって本当にいるんだ。やっぱり世界が違うなー。栄治さんや光さんもメイドって言葉に反応して何やら二人でごにょごにょ言っているし。

 そうこうしているうちにいろいろ部屋を見て回り、一番広そうでありベッドを4つ置いても問題なさそうな部屋を寝室として確保し、念のため1人で利用できる部屋をそれぞれが確保した。

 いくら同性でもプライベートは分けていたい時もあるので、部屋が沢山あって大助かりだ。


「でわ皆様。後程夕食をお持ちするように伝えます。本日はお疲れでしょうからそのままお休みくださいませ。また明日の朝私がお伺いします。そこで今後の予定を立てましょう」

 そう言って一礼をした後、ウルスさんは帰っていった。ウルスさんが帰っていくと同時にメイドさんの群れが雪崩れ込み、私たちが寝室と決めた部屋にベッドをあっという間にセッティング後、何事もなかったように帰っていった。

 あまりの早業に私たちは目が点になりながらも作業風景を見ており、やっぱりプロって凄いんだと実感してしまった。


「さて、ここまでの経緯からちょっとミーティングをしたい。1時間後――そうだな……あの部屋、かなり広いスペースと人数分座れる椅子があったからそこに集合してほしい。いいかな?」


 栄治さんが手元にスマートフォンを取り出しそう提案してきた。一応この世界に飛ばされた後もスマホは手元にあった。でも、召喚された時間から全く時間が動いていない。だから栄治さんは時計アプリを起動させ、1時間にタイマーをセットしてみると、カウントは始まったので、中のデータは壊れていないんだと少しホッとした。

 でも私としてはもうお風呂に入って眠りたいと思っていたんだけど、今後の事のお話合いは必要とわかっているのでなんとか頷いた。


 その後まずは私が個人で使える部屋を確認した。この部屋にはシングルベットと化粧机の他に謎の個室がある。その個室には木のバケツと柔らかいタオルがあり、なんだろうと疑問に思った。

 後で知ったんだけど、どうやらその個室はトイレであり、あのバケツにしたあとメイドさんを呼び捨ててもらうという代物だった。

 もしかしたらこのトイレ事情が一番堪えたかもしれない異世界事情でした。そのため、他の女性陣と話し合い、どうにかしてトイレ事情を改善しようと企む私なのでした。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 1時間後、栄治さんが指定した部屋に皆が集まった。その前に佳織ちゃんが何やら思い悩んでいるようだけど大丈夫だろうか?やっぱり急な召喚だもんね。不安が急に湧いてくる事は仕方がないよね。

 あたし(凜々花)と同じように佳織ちゃんの異変に気が付いたのか、沙良さんが佳織ちゃんの頭を撫で始めた。こうしてみると本当に沙良さんは美人だ。同じ女性なのにその色香でやられてしまいそうになる。まさに聖女様って感じの人とあたしは思った。

 でも何故か小音子ちゃんまで佳織ちゃんの頭を撫で始めたのは何でだろう?

 だいぶ落ち着いたのか、佳織ちゃんは意を決したような表情で私達女性陣に聞こえるぐらいの音量でボソッと喋った。


「……後で集まってトイレ事情の話し合いをしましょう……どこですればいいでしょうかね……」


 その言葉にあたしと沙良さん、小音子ちゃんは真顔になってしまった。

 異世界のトイレ、あとお風呂事情って……異世界ものであまり表現されていないが、確かに一刻も早く確認しなければならない事情のようだった。


「さて、みんなが揃ったようなのでミーティングを始めよう。今後の事についてだ」


 そう栄治君が切り出した。栄治君は本当にかっこいい。私の大学でもかっこいい人はいたが、栄治君クラスのイケメンはなかなかお目に掛かれないレベルのイケメンだと思う。

 そんなイケメンとこれから一緒に生活していくなんて、異世界召喚も少しはプラスに働いていると私はこの時思っていた。


「今後はこの城で厄介になるけど、最初の謁見の時にわかったことは身分制度があること、王様とウルスさんはこちらに友好的だけど、皇太子と騎士団長はまだよくわかっていないこと、生活の文明に乖離がありすぎて戸惑うこと、とりあえず以上かな?他に何か思い当たるものある?」


 たしかに王様達はともかく、皇太子達はまるであたしたちを田舎からきた田舎者がこの城にやってきたみたいな視線だった気がする。

 他にも栄治さんが言ったように生活文化の違いとか全然違うから、さっき佳織ちゃんが言っていたとおりトイレとかお風呂とかどうなっているのかも気になる。


「とりあえず皇太子達は放置で。どうなるかわからないからな。もしかしたら訓練とかで騎士団長には世話になるかもしれないけど、人となりはその時に判断しよう。ところで生活文化の違いについて意見ある?恐らく現代とかなり違い過ぎるから今のうちに思いつく限りを上げていきたんだけど?」


 そう栄治さんが切り出すと、あたしを含めた女性陣が一斉に手を上げて発言した。

 とりあえず今わかっている事は、

 ・トイレ、お風呂事情

 ・お金の問題

 ・ご飯の質、量(素材は何? 得体のしれない肉? 米はある? 調味料とか何があるの? 等)

 ・娯楽について

 であった。


 一つずつ整理する必要があるが、トイレやお風呂に関してはあたしたち女性陣で何とかしようと思うし、お金やご飯、娯楽については明日ウルスさんに聞いてみることで意見は一致した。

 やはり異世界って不便! 携帯は今やネットに繋がってないから更新等見れないし、本とかあるかもしれないけど文字読めるのかしら? 読めるんならいいけど読めないなら勉強しなきゃいけないし、お願いだからそこらへんは女神様の力でどうにかしてほしい。そうあたしは切に願った。


「次に、恐らく明日から始まる訓練についてなんだけど……」


 その言葉で場の空気が少し冷えた。そう、今回の異世界召喚はゆるふわ生活系や生産系の異世界モノではなく、戦闘モノの物語なのだ。

 そのため死なないように訓練をしなくちゃいけないんだけど、それでも訓練と聞いただけで気が重くなるのであった。

 あぁ、こんなことならあたしは悪役令嬢に転生して優雅に暮らす物語の様な世界に行きたかったと本気で思ってしまった。

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