第16話 初陣終了

 僕とクルルさんは急いでオーパーツを持っているだろうと思われるゴトーさんの元へ走っていた。

 その間にも数匹魔物がやってくるが、その都度僕が剣を振る度に切断された魔物が量産される。


「ナガヨシとんでもないね。今のってスキル?」

「スキルがどういうものなのかわからないけど、たぶん違うと思う」


 走りながらクルルさんが疑問をぶつけてきた。

 恐らくこれは僕の職業が関係していると思う。


 【職業:剣使】


 今わかっていることは、僕は今持っている剣を振るとなんでも切れることだけだ。

 その制限もわからなければ、別の剣でも切れるのかもわからない。

 そのため、まだ全然何ができて何ができないのかわからない職業であるが、今の状況を治めるためにはこの能力に賭けてみるしかない。僕はそう思っていた。


「正直まだ僕でも把握できていない能力だから、ある程度分かったら説明するね」

「しょーがない。今は緊急事態なんで後で聞くね」


 そんなやり取りをしているうちにゴトーさんの元まで辿り着いた。

 ゴトーさんは赤黒く光っているオーパーツを持ちながら、額に汗をかいて必死に干渉しようとしていることがわかる。


「ゴトーさん! すみません、少しいいですか!」

「バカ野郎! 今ゴトーさんはオーパーツの干渉に集中してるんだ! 声掛けるな! 手元が狂って干渉が止まったらどうする!」


 どうやらこの干渉の行為はとんでもない集中力が必要であり、少しでも気が緩むと最初からやり直しになるタイプの様だ。

 ゴトーさんの周りには護衛のためか、屈強そうな戦士が3人おり、そのうちの一人が僕たちの相手をしてくれた。


「どうした、何かトラブルでもあったのか?」

「あのっ――えっと……」


 僕がどう説明をしようかと悩んでいたら、クルルさんが説明を代わりにしてくれた。


「ナガヨシの能力でもしかしたらオーパーツが切れるかもしれないので連れてきました!」


 クルルさんはド直球に何故ここまで来たのかを説明した。だが・・・


「何をバカなことを言っている! ザックの頭や他の奴らだって壊すことができないから、今こうしてゴトーさんが頑張っているんだろが!」


 ま、そういう反応が当たり前だよね。僕はそれを見越してどう説明するか考えていたんだけど――


「ナガヨシは鎧を着た盗賊を鎧ごと体を真っ二つに切りました! 他にもあっちで転がってますが上位魔物のアーマーライノも切断しています! だから連れてきました!」


 普通じゃとても信じられない事を言うクルルさんに、屈強な男の人は驚いた反応をした。


「なに、アーマーライノだと! なんでそんな上位の魔物がこんなところに!? 他に上位の魔物はいなかったか?」

「えっと、遠くの方でしたがグリフォンらしき魔物も見えました。もしかしたら他にもいるかも知れません・・・」


 クルルさんはそう説明すると、護衛の男の人達も焦りだしながら喋りだした。


「おい、どうする? ゴトーさんはまだ解除まで届いてないみたいだぞ」

「っくっそ、俺たちも前線に行ったほうがいいんじゃないか?」

「ダメだろ。ゴトーさんにもしもの事があれば俺達全員お終いだぜ?」


 そうこう話していると、不意にゴトーさんの雰囲気が変わった。

 僕が振り向くとゴトーさんが片膝を立てながら蹲っていた。


「ゴトーさん!」「大丈夫ですか!?」


 ゴトーさんは顔中から汗を大量に流しており、息も荒く苦しそうな表情をしていた。


「ハァ……ハァ……ダメだ……残っている魔力がまだ多すぎて干渉が難しい……」


 どうやらオーパーツへの干渉は魔力で行うためか、残っている魔力が多いとその魔力に邪魔され上手く完了できないみたいだ。


「ゴトーさん、残りの魔力は!?」

「もう殆ど残っていない――ポーションはあるが恐らく足りんだろう……」

「そんな――」


 ゴトーさんと護衛の方々が悲痛な表情を浮かべて悔しがっているが、すかさずクルルがまた提案してきた。


「ゴトーさん! ナガヨシに任せてみませんか!? もしかした解決できるかもしれないです!」

「お前! そんなことできるわけないだろう! 時間の無駄だ!」

「無駄じゃないですぅ! ナガヨシは今までなんでも切れているんですから、もしかしたらオーパーツも切れるかもしれないじゃないですか! それに試すのはタダです!

 ゴトーさんも魔力の回復に時間が少し掛かるんですから、その間に試してみてもいいじゃないですか! お願いします!」


 そう言ってクルルは頭を下げた。護衛の人達は戸惑った表情のままゴトーさんを見た。

 ゴトーさんは苦しそうな表情を浮かべながらも僕を見た。僕はゴトーさんを真剣に見つめ返した。


「……わかった。試しにやってみてくれ」

「ゴトーさん!?」

「先ほど彼女が言った通り魔力ポーションを飲んでも回復するまでに数分掛かる。であれば別の方法があるんだったらそれを試すのもアリだろう」

「……ゴトーさんがそこまで言うんであればわかりました。おいお前! とりあえず試してみろ」


 護衛の人は未だに不気味に赤黒く光っているオーパーツを僕に渡してきた。

 僕はそれを受け取りマジマジと見たが、形容しがたい不気味さを出しながら光っており、目を背けたくなった。


「いいかナガヨシ。別に今回失敗しても問題ない。最初から期待はしていない。だから思いっきり切ってくれ」

「大丈夫! アーマーライノの首さえ切れたナガヨシだもん! 絶対に切れるよ!」


 ゴトーさんは僕にプレッシャーを掛けまいと言葉を選んで話しかけてくれたが、クルルが台無しにしてしまい、プレッシャーが否応にも掛かる。

 少しクルルを睨んだが、それに全然気が付いていないのか、祈るように手を合わせ僕を真剣に見ていた。

 そのクルルの姿を見て、僕はついみなもの言葉を思い出した。


『いい? なーくん。とりあえずやってみようの精神はみなは好きだよ? だけど、どうせやるなら全て真剣にやってみようね?

 失敗したとしても、本気で取り組んでいたのなら、きっと後悔は少ないと思うんだ。失敗した時の後悔よりもやらない後悔の方が絶対に大きいでしょ?

 それと同じで、実際にやる際は真剣に取り組んだか取り組んでいないかで後悔の大きさは変わるんだから。

 何時どんな時でも全力でやろうとする姿がカッコいいんだから。なーくんも何時までもカッコよくいてね』


 僕は何時までもみなもにカッコいいと思われていたい。できるかできないかなんてあやふやなことは考えず、ただこの怪しく光る玉を切ることだけに集中する。

 僕はとりあえずこの球を地面に置いた。そして少しだけ離れ剣を構えた。

 僕のイメージでは本気で切る場合、切れそうな構えといえばよく漫画とかアニメで見ていた居合の構えだ。

 刀じゃないので居合切りはできないが、剣を鞘に戻し腰を深く下ろし、剣のグリップを握る寸前の体制になったまま、何時でも抜ける状態に姿勢をキープした。


「ナガヨシ? 大丈夫?」

「なんだこの構えは!? 見たことないぞ!?」

「ッシ! 静かに! 今彼は物凄く集中している状態だ。あまり声を出すな」


 周りが何か言っている気がするが気にならない。何故かこの球を見た瞬間、物凄く集中しないと切れないモノだと思ってしまった。

 だから僕は何も考えない。今日初めて命を奪ったこと、人を殺したこと、大量に魔物を切断したこと、そして知り合った人が死んでしまったこと――

 その全てを一旦置いといて、全力でこのオーパーツを切ることに集中した。


「っ! なんという圧! まさか闘気!? これ程とは……」

「なんかナガヨシの周りに変なモヤが見える――あれが闘気なんですか?」

「そうだ。一部の人間にしか持ち合わせない闘気。俺達で言えばザックさんやダンさんあたりなら持っているが、殆ど闘気なんて持ってない。ある意味特殊スキルだ」


 ――なんとなく今だと思った。僕は強化されている身体をフルに使い抜剣した。

 僕が気が付くと、すでに剣は振られており、目の前には真っ二つん切り裂かれた球がそこにあった。


「うそ――本当に切った……」


 クルルの驚く声が遠くから聞こえる。少し集中しすぎて耳が遠くなり、目も霞んで見えるが、周りから驚くような気配が僕に伝わってきた。


「ゴトーさん! 切れました! 切れましたぜ!」

「言わなくてもわかる! すぐに全員に知らせろ! オーパーツの処理が完了したとな! しばらくすれば魔物は散り散りにいなくなる筈だ!」

「了解しました! おいお前等行くぞ!」


 僕は気が付くとどっさりと腰を下ろしていた。足と手が震え、立とうとしても力が入らず上手く立てないでいる。


「ナガヨシ!」


 そう言ってクルルは僕に後ろから抱き着いてきた。今の僕は力が入らない状態のため、当然倒される形となり地面に顔をぶつけた。


「あ、ごめん! 大丈夫?」

「……大丈夫じゃないです」


 そんな一連のやり取りの後、ゴトーさんが切れた宝を拾い上げた。切れた玉は未だに赤黒く光っているが、その光が外に漏れているようにも見えた。

 ひとしきり球を調べたのか、ゴトーさんが僕の方を向いて話しかけてきた。


「よくやった、ナガヨシ。大手柄だ。まさか本当にこいつを切れるなんて思わなかったぞ?」

「僕もまさか本当に綺麗に切れるなんて思いませんでした。何なんですかね? 僕の能力って……」

「それは後でじっくりみんなで考えるさ。どうやらこのオーパーツに溜まっている魔力も切断され、二つに分かれたことにより溜まっていた魔力が通常よりも早く無くなりそうだ。

 ――遠くにいる魔物がこちらではなく散り散りに別の場所に移動を始めている。もう少しでこの事態も治まるだろう」


 僕はクルルにお願いして上半身だけ起こしてもらった。少し前では未だに魔物と戦っている人たちが見えるが、さらに遠くでは魔物がどんどん群れから離れて行っている事がわかった。


「ありがとうクルル。クルルに実験の協力をしてもらえなければオーパーツのが切れるなんて考えれなかったよ」

「こっちこそありがとうね。まさか本当に切れるとは思わなかったけど、事態を治めてくれて」


 ようやく何とか立てるようになり、体中に力を入れることができるようになった。


「さて、後は群れかな離れない魔物や最前線で未だに戦っている魔物退治と行くか。お前等はどうする? 最大の功労者だ。休んでてもいいぞ?」

「いえ、私は行きます。友達の体を置いてきちゃったので守れるように戦いたいです」

「そうか、友達が――わかった。ナガヨシはどうする?」

「僕も行きます。体を確認しましたが、今のところ問題はありません。無理そうならすぐに下がりますので」


 そう言って僕とクルルとゴトーさんは前線に向けて走り出した。

 ゴトーさんが戦線に復帰したことにより、魔法の力を使って多くの魔物を一斉に倒していった。

 クルルも僕から離れ、キャシーさんの遺体の傍までいき、その場で戦いを始めていた。

 僕はというと――


「邪魔です! 次!」


 前線では未だに多くの魔物がいるが、先ほどよりも圧が弱くなっており、迫りくる魔物がいなくなるの時間の問題かと思っていた。

 僕に飛び掛かってきたゴリラのような魔物を胴から切断し、ワニのような魔物の口の部分を切断後、たまたまいたザックさんとダンさんに合流した。


「おいナガヨシ! オーパーツの処理が完了したのは本当か!」

「はい、僕が切りました! どうやら僕は切断に特化した能力があるみたいです!」

「なんだその強力すぎる能力は! でもま、オーパーツが破壊できたんなら問題ないな!」


 そんな風に話しているいるが、未だに魔物の勢いはある。しかし、少し前のいつ終わるかもわからない戦いよりも、希望が見えた戦いの方が精神的に楽なのか、2人とも力強く魔物を葬っている。

 僕も負けじと右手に剣を、左手にナイフを逆手に持ち、片っ端から魔物を倒すことにした。


 それから20分ぐらいだろうか、僕が見える範囲で最後の魔物が地面に倒れた。

 ザックさんもダンさんも周りを見渡し、他に魔物がいないのかを確認している。

 すると、後ろからステイシーさんの声が聞こえた。


「ザック! ダン! もう魔物は来ないわ! 一先ずこれで終了よ!」


 どうやらこちらに迫っていた魔物は全て片が付き、後ろに控えていた魔物も撤退した様だった。

 ステイシーさんがザックさんとダンさんの傍までやってきた。その時に僕がいることに気が付いたのか、僕を見て驚いていた。


「なんでナガヨシがいるの? 後方でキャシー達と一緒にいたんじゃないの?」


 そうか――ステイシーさんはキャシーさんが亡くなったことを知らないのか……

 僕はキャシーさんの死と、何故僕がここにいるのかを簡潔に説明した。


「そう――あの子は星の向こう側に行ったのね……知らせてくれてありがとう」

 ステイシーさんは一瞬悲しい顔をしたが、すぐに切り替えザックさんと話し出した。


 僕はというと、今回の襲撃が終了したと言われ、ステイシーさんにキャシーさんの事を話すことができたためか、急に力が抜ける感触に見舞われた。

 そんな僕を見て慌ててダンさんが支えてくれたが、とうとう目を開けるのも辛くなり、目を閉じてしまった。


「おい、大丈夫か!? どこか怪我したのか!?」

「いえ……大丈夫です。ただ……」

「ただ? どうした!? 言ってみろ」

「眠たいんで寝ます。あとお願いしますね――」


 そう言って僕は意識を失った。

 後で聞いた話では急に僕が意識を失ったせいで、ステイシーさんが死んじゃったと勘違いしたらしい。

 自分の血ではないけど、魔物の血を沢山浴びた血だらけの意識のない男が一人。そんな光景を見てステイシーさんはかなり慌てたそうだ。

 その後僕がいびきをかきだして眠っているだけとわかり、おろおろした姿を見て笑っていたザックさんとダンさんを1発ずつ殴っていたそうだ。


 こうして僕のいろいろ初めての事が多すぎた初陣が終わったのであった。

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