第14話 全てを断つ力

「畜生……まさかラケーテンと金精院のやつらが相手とは思わなかったぜ……俺も運がねぇ……せっかくの大金がパーだ」


 私たちは今、後続にいた盗賊団の制圧を終えたところだ。ボスらしき人物も制圧し、あとは恐らくあるであろうオーパーツを回収するだけ。


「おい。オーパーツはどこにある? 持ってるだろ絶対」


 ザックが死にそうなボスに尋ねる。その間にラケーテンのダンやロック、私たち金精院のエルやミューが周りを警戒している。

 既にあらかたの族を切り倒し、恐らく生き残りはいないだろうが念のため警戒は切らない。


「ゲヘヘ……こいつが目当てか……」


 そう言ってボスは禍々しく赤黒く光る宝玉ようなアイテムを懐から取り出した。


「このオーパーツはくれてやるよ。だがな、俺は起動方法はわかるが止め方は知らねーよ……これは貰いものだ。起動方法しか教えてもらってない……残念だったな……」


 ザックは宝玉を受け取った。私はこんなオーパーツを見たことがないため、止めるための干渉方法も検討つかない。


「ザック、私はこのオーパーツを知らないわ。あなたわかる?」

「ああ、似たようなものを見たことがある」


 よかった。似たようなオーパーツの場合、起動方法や干渉方法も似ていることが多いため、もしかした止める方法もわかるかもしれない。


「とりあえず陣まで引き上げるぞ。群れがもうすぐそこまで来ている。手はず通りにこいつらには餌になてもらう」


 そう言ってザックはボスの首を刎ねた。盗賊団はお尋ね者。その頸をギルドに持っていけば報奨金がもらえる他、もうこの盗賊団は壊滅したと宣伝ができ、人々の不安材料が1つ減ることにも繋がるので、大事な戦利品だ。

 そうして私たちは引き上げた。その後ろから迫りくる魔物の群れからできるだけ早く逃げるように――


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「いいか、ナガヨシ。人を殺した罪悪感も、知り合いが死んだショックも、お前はたしかに感じてるんだ。でもな、出陣の前に言った優先順位間違えるなよ。

 後悔に塗れてもいい。ショックを受けて立ち上がれなくなってもいい。だがな、お前には目標があるんだろ?思いだ返してみろ。そうすればある程度落ち着くはずだ」


 そう、僕はみなもが待つ世界に還る。こんなところで躓けない。だから頑張れる。絶対に還る!そう思うと、いくらか体から緊張感が抜け、だいぶ楽になった。

 今僕はヤンホーさんと一緒にテントの片付けをしている。今よりももっと陣を後ろに下げるためだ。


 僕が陣に還ってくると、ヤンホーさんが待ち構えていた。元冒険者としての経験を活かし、司令官として周りに指示を出しているようだった。

 そんなヤンホーさんに見つかり、僕はテントに連れていかれた。その際にヤンホーさんはテントを片付けて後退の準備をするように指示を出していた。


「だいぶ落ち着いたか。まったく、まさか最初の依頼と初陣がこんな大騒動になるとはな。お前運がいいな。こんな騒動を経験していると、次からだいぶ楽になるぜ。これは経験則だ。保証する」


 たしかにこんな大変な依頼が毎回あるとは思わない。次に大変な依頼を受けても今回ほどの騒動にはならないと思うので、言ってることは間違いないと思う。


 そうこうしているうちに、ザックさん率いる最前線メンバーがこちらに戻ってきた。どうやら後続の壊滅に成功したようだった。


「ゴトー、いるか! 聞きたいことがある!」

「どうしました、ザックさん!」

 ゴトーさんが走り寄ってきた。


「オーパーツを回収した。以前見たことがあるタイプと思うが、わかるか!」

 そう言ってザックさんは懐から赤黒く光る玉のようなものを取り出した。

 禍々しすぎて、これが今回の元凶だと一目で判断できるものだった。

 というよりそれ以外考えられない。


「拝見します……確かに見たことがあるタイプですね、失礼」

 そう言ってゴトーさんは玉に向かって手をかざした。その手から緑色の光が見えるので、恐らく魔力を通しているんだと思う。


「以前見たタイプは起動している限り周りから蝗を呼ぶモノでしたね。畑を食い荒らす類の最悪なオーパーツでした。

 で、今回この宝玉に干渉したところ、恐らく同類のものであり、周りから動物型の魔物を呼ぶモノですね」

「止める方法はあるか?」

「以前のタイプと同じ場合、こいつを壊すか、中に溜まっている魔力が無くなるまで待つか、何とか干渉して止めるしかないですね。

 しかも魔力はまだまだたっぷり溜まってるんで無くなるまで時間がかかりますし、一応干渉自体はできましたので、止める方法を探すことはできますが、恐らくこちらも時間が足りないですね」


 そう言ってゴトーさんは魔力を込めることを止めた。ザックさんやステイシーさん、ヤンホーさんは腕を組んで唸っている。


「壊すことはできないの?」

「恐らく無理だ。以前のタイプで試してみたが、俺のスキルでも壊せなかった。今回は魔力もかなり溜まってるんだ、余計に難易度は高くなってるだろう」


 どうやらあのオーパーツはかなりの強度があり、今いるメンバーや装備では壊すことが難しいようだ。

 ということはつまり今後の展開としては――


「最悪だがゴトー。何とか干渉して止めるようにしてくれ。時間はこっちで稼ぐ。お前の魔法がないのは痛いが何とかしてみるさ」

「しょうがねーな――こりゃ護衛依頼とか関係なく迎え撃たないと、後ろのコッドの町が滅ぶなこれは……」


 ヤンホーさんとザックさんはどうやら戦う覚悟を決めたようだ。

 一応3商人の護衛依頼のため、3人の安全を第一に考え逃げることも考えれるが、恐らく3人とも逃げないだろう。

 何故なら――


「さて、アマゾーよ。お前は逃げるか?」

「バカたれヤンホー。どこに逃げるってんだこの状況で!」

「それにこれだけの戦力を持つ我々逃げたら、その後の信用問題にも傷がつきますしね――」

「っち! 犯人はそれも読んでいるんだろうよ! 逃げたら臆病風に吹かれて大量の護衛を連れて逃げたせいで町が滅んだとかな!」


 信用問題とは築いていくのは時間がとてもかかるが、失うのは一瞬だ。

 しかもそれが事実とは違う内容でも、一度誤った情報が流れたらそれを正すのにも時間と人件費がかかるし、

 一度信じた人間はいくら説明しても納得しない場合もある。

 僕の世界でも普通の一般企業から果ては一般人まで多くの人がネット上の情報やフェイクニュースに踊らされている。

 この世界の場合、ほぼ情報伝達方法は口コミだと思うけど、人の噂が廻るのはどの世界でも早いのだろうと予測できる。

 その後、3人の認識合わせが終わるタイミングを見計らって、ステイシーさんが声をかけてきた。


「すでにコッドの町のギルドや衛兵には情報を伝えるように伝令を出しています。とりあえず町の傍まで撤退して増援を揃えるべきです」

「町の傍で陣を張り、迫りくる魔物の群れと戦うか……戦力が圧倒的に足りないし、場所も最悪だ。ここら辺はすべての方面が平野のせいで迎え撃つ陣もまともなものができやしねー……」

「一応町にいる戦える者は全部合わせても200人ぐらいだ。さらに別の町に伝令が行っていると思うが、増援は最低でも3時間から4時間ぐらいかかるぜ……」


 首脳陣であるステイシーさん、ザックさん、ゼクスさんが話し合っている。

 しかし妙案が産まれないのか、腕を組んで悩み続けている。


「準備ができましたですぜ! いつでも撤退可能だ! 魔物の群れは今俺たちが作ったキルゾーンの餌を食ってる! 多少は時間を稼げると思いますぜ!」

「おう、了解した! じゃあ撤退するぞ! 餌の数はそこまで多くねー。さすがに100ぐらいの餌じゃあの群れを満足させれる分は足りんだろう」


 とりあえず今はこの場を撤退するのが先だということで、僕たちは朝までいた町の近くまで撤退した。

 撤退している間も3商人とリーダーたちはあーでもないこーでもないと話し合っている。

 一応話は聞こえる距離にいるが、僕には難しすぎて話の内容が理解できない部分が多すぎる。


 そうこうしているうちに、町の手前で行進が止まった。町の方から僕たちを見つけたからなのか、冒険者らしき人達と兵隊のような人たちが集まってきた。

 その後、代表者らしき人達が集まり、今後の事を話し合っている。

 その間僕はというと、先ほどチームを組んでいたキャシーさんたちと合流していた。


「向こうはまだ話し合ってるわね……私の予想だと土魔法とかで壁を作って簡易的な陣を作るんじゃないかな? たぶん」

「でもそれだと土魔法を使った人たちは力切れとかで戦いに参加できないんじゃない?」

「魔力ポーションとか使うんじゃねーか?」


 要約すると、まず土魔法で壁を作り、魔物の進行を阻む壁と、道を作る壁の2種類をできるだけつくる。

 横に広がられるよりも、盾に広がってくれた方が戦いやすいし、町に行かれる不安も少なくなるからだそうだ。

 しかも魔物は恐らくではあるが、今ゴトーさんが持っているオーパーツを目指してやってくる可能性が高いため、壁さえあれば魔物の動きを制限することも難しくないらしい。

 だけど魔物の数が多すぎるため、例え上手く動きを制限しても、魔物を全滅させるには戦力が足りない可能性が高いらしい。


「今は何所に壁を作るか検討していると思うから、私たちは何時でも戦えるように準備をしましょ」


 そう言われたので、僕も戦える準備に入った。とはいっても、僕の場合装備品は剣ぐらいしかないので、前回の戦いで剣が欠けてないかを調べることにした。

 先ほどの戦闘ではあまりにも綺麗に切れすぎた。まるで他人事のように感じながら人を切ってしまったが、間違いなく僕が切ったで間違いないはずだ。

 しかし、あれほど簡単に人を切れるとなると、僕の持っている剣に問題があるか、誰も知らない職業が関係しているかの2択だと思う。


「剣に今のところ傷や欠けているところは……なし。ならば――あれがいいかな?」


 僕は目の前にあった薪で使うような気を手に取り地面に立て、軽く自分の剣で薙いでみた。

 すると、薪は綺麗に剣が当たった先から真っ二つになった。その際僕は特に何も抵抗を感じることができず、まるで豆腐を切っているみたいな感じだった。


「うーん――そうだ、おーいクルルさん。ちょっといいですか?」


 僕は近くにいたクルルさんに声を掛けた。クルルさんはポーションなのか薬瓶の数を数えていたが、僕の呼びかけにすぐに振り向いてくれた。


「どうしたの、ナガヨシ? なにかあった?」

「いや、さっき僕の戦いを見ていたでしょ? アレについてちょっと実験に協力してほしい。大丈夫直ぐに終わるから」


 そう言って僕はクルルさんい僕の剣のグリップを向けてお願いを切り出した。


「この薪を軽く切ってもらっていいですか?」

「え? なんで?」

「正直僕今回初めてこの剣を振ったんですよ。で、あの切れ味でしょ? だからこの剣が特別なのか、僕の職業が特別なのかを確認したくて協力をお願いしたいのです」

「あ、なるほどね。確かに凄い切れ味だったもんね。わかった、協力するよ。あの薪を切ればいい?」

「はい。あ、切るときはあまり力を入れずに切ってみてください」


 クルルさんは僕がお願いしたとおり、あまり力を入れずに剣を振った。

 すると剣が薪に当たった瞬間、薪はコテンと倒れた。


「――ま、軽くだと切れるわけないよね? どう? 何かわかった?」

「――クルルさん。見ててください」


 僕は再び薪を立て、軽く振るった。今度は剣が当たった瞬間薪は綺麗に切れた。


「……同じ剣だよね? それ」

「はい、同じ剣です。となると、剣じゃなくて僕自身の職業の問題の可能性が出てきましたね……」

「ちなみに職業とか聞いていい? 無理ならいいけど」

「剣使です。剣を使うと表示されてます」


 クルルさんはものすごくビックリしている表情をしたまま、僕が切った薪の断面を見ていた。

 僕も確認したが、物凄く綺麗に切れている。まるですでに鑢掛けをしたあとの木材の如くサラサラツルツルの断面であった。


「これってさ、もしかしたらオーパーツも切れるんじゃない?」

「切れますかね? もしかしたら」

「うん! 切れる可能性があるんだったら、ステイシーさんたちに相談してみよう! 試すだけならタダだしね!」


 クルルさんは興奮しながら提案してきた。たしかにもしかしたら僕なら切れてしまう可能性が出てきたため、これを試さない道理はあるまい。

 僕とクルルさんは急いでゴトーさんに会おうとしたがその時。


「魔物の群れが見えたぞー!もうそこだ!すぐにこっちに来る!」


 あまりよくないタイミングで群れの到来を告げる声が聞こえた。

 その声に合わせて戦える人たちが一斉に動き出した。そのせいで僕やクルルさんは押しに押されまくって気が付けば最前線近くまで押されていた。


「ナガヨシ! 急いでゴトーさんのところに行かないと!」

「この状態じゃ無理だよ! ゴトーさんは後ろにいて、今の場所からだと何人もの人を押しのけないといけなくなる。みんな戦闘態勢に入っているから向こうに行くまでにこっちが大けがする可能性がある!」


 今の状態をいうならば、お正月のお賽銭の行列に、その行列に逆らって出口まで行くようなものである。

 しかも優しくないことに全員抜剣しており、剥き出しの刃の中を押しのけて行くには分が悪すぎる。

 とりあえず、一旦落ち着くまでこの場でやり過ごすことに決めた。幸いなことに近くにキャシーさんやチームを組んだラケーテン旅団の男性たちまでいたので、先ほどのチームとして動くことができるかもしれない。


「魔物がラインを越えたら魔法を照射する。魔法が止まり次第、改めて突撃してくれ! 相手は魔物だ! 遠慮はするなよ!」

 ザックさんの大きな声が聞こえた。もうすぐ突入して僕もあの群れの中に突っ込むことになる。一応壁はいつの間にか完成しており、30人程度が横に並んでも若干余裕があるぐらいの幅が完成されていた。

 僕は改めて自分の立場、状態を確認した。もしかしたら僕はオーパーツを切れるかもしれない。でも今その場に行くことができない。ならば隙を作り、何とかゴトーさんの方へ向かって行く。決して無茶はしない。必ず生き抜くこと。

 少し瞑想気味に自分がやるべきことを再確認し、気合を入れた。今度は少数の敵ではなく、大量の敵を相手にする。ちょっとの油断が命取りになると思うと、体が少し緊張したのがわかった。


「よし! 魔法部隊、文唱開始! ――撃てぇ!!!」


 その号令とともに、炎や雷、大きな岩や氷など、沢山の光が魔物の群れに降り注いだ。降り注がれた光はそのまま大爆発を起こし、周りの魔物たちを一掃した。


「全員、突撃!!!」


 再びザックさんの声と同時に、僕を含めた全員が魔物の群れに飛び込んでいった。

 こうして後にわかったのであるが、僕たち人間側233人対魔物の群れ1200匹、およそ6倍の差がある戦いが始まったのだった。

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