第12話 初陣

 その盗賊団は30ぐらいの騎乗兵と100以上いるだろう歩兵の混同部隊の様だった。

 歩兵の武器は統一されておらず、剣や槍、以外にも鍬や草刈り鎌、フォーク等の農具を持っている人たちもいた。


「おそらくどっかの盗賊団が数を増やし、武器が足りなくなったから付け焼き刃で農具とか持ってるんだろ。たしかにあんなに数がいればそりゃ武器も足らんわな」

「最初は魔法か? 合図は?」

「そろそろだと思う。ゴトーさんの合図と同時に魔法が発射。あとは何時も通り混乱したところを俺たちが叩くって作戦だ」

「あら、あなたたちのゴトーってたしか……」

「そうだ。俺たちラケーテン旅団1の凄腕魔法使いさ」


 前線でラケーテン旅団と金精院のメンバーがやり取りをしていると、大きな声が後ろから聞こえていた。


『全員注聴! 今風の魔法で声を拡散している! 動きながら聞け!  俺はゴトー! 今から俺と金精院のソーラと同時に魔法を仕掛ける!

 魔法の着弾が確認し、相手が混乱しているいるようであれば突撃!再度魔法が放てるようになるまで敵を誘導してくれ!

 もし、混乱しないようであれば、守りを固めろ! いいな! 一人も後ろに通さない覚悟で敵に当たれ!』

「「「「「おおー!!!!」」」」」


 その言葉を皮切りに、こちら陣営から雄叫びが上がった。

 ラケーテン旅団と金精院。別々のクランであったが、共通の敵を前にして、一つのチームとして産声を上げた。


『風よ風よ吹け風よ!  疾風となりて我が敵に当たれ! ――【疾風波】――』

『炎の精霊よ! 私に力をお貸しください。私の元に駆け寄る邪な存在を、あなたの炎で燃やし尽くしてください! ――【ファイヤーウェーブ】――』


 ゴトーとソーラの魔法が敵の群れに飛んで行った。ゴトーの風の魔法にソーラの炎の精霊魔法が合わさり、炎が勢いを増して敵陣の先頭に着弾した。しかも風の勢いが止まらないため、その炎は全体へと広がっていくようだった。


「ギャー! アツい!」「火! 火を消してくれ! 早く!」

「誰か助けてくれー!」「聞いてないぞ! 魔法使いがいるなんて!」


 盗賊団側から混乱している声が聞こえてきた。

 相手側は魔法使いがいないのか、こちらが仕掛けた魔法の炎を消せないでいる。


「よし! 俺たちも突っ込むぞ! 一人残らず皆殺しだ!」

「「「「応!!!!」」」「「「了解!!!」」」


 男とか女とか関係なく、前線で戦えるほとんどの戦士が敵陣に突っ込んでいった。


「オラオラ! 威勢がいいのは最初だけか!」

「た、助けてくれ! もうこんなことはしないから!」

「残念助けません! ハイ次!」


 次々と打ち取られている盗賊団。しかし数だけが多いのか、後ろにいたボスらしき人間が大きな声を上げた。


「お前ら! 無暗に突っ込むな! 一度体制を立て直す! 後退しろ! 殺されてーのか!」


 盗賊団のボスらしき人間の号令がかかると、冒険者と戦っていた盗賊団はいきなり後ろを向き、我先にと後退していった。


「なんだ? 後退の仕方も知らないのか? いきなり後ろを向いて全力疾走とか……」

「それだけボスが怖いって事だろ。よく教育されてやがる」

「困ったわね。指揮が上手いボスの盗賊団ってちょっと面倒なのよね……とりあえずいったん戻りましょ?」


 そうして再び双方に分かれた。この時護衛団の攻撃で盗賊団の50人近くに当たる人間が倒されていたが、そのほとんどがゴトーとソーラのコンビ魔法で倒されていた。


「やっぱ魔法ってスゲーな! 一瞬であれだけの人数だろ? 羨ましいなおい」

「ハイハイ。確かにすごいけど、負担も半端ないんでしょ? あんな大掛かりの魔法だと魔力の負担も大きいだろうし……」

「てかゴトーさん。相変わらず呪文のセンスないな……なんだよ『風よ風よ吹け風よ』って。子どもの詩みたいだな」

「しっ! あんまり本人の前で言うなよ? 本人は自分にセンスがないことはわかってないんだから。「どこにセンスがないんだ?」――って質問攻めされるぞ」


 この世界の魔法は呪文を唱えるが一般的だが、人によって呪文の文言は異なる。

 これはイメージ次第でなんでもできるのが魔法であるため、本人がイメージしやすい言葉を紡ぐことで魔法が発動する仕組みである。


「あとソーラさんの精霊魔法すごいな! 炎だから目に見える分脅威が伝わるもんな!」

「たしかにな。自分の目の前にあの炎が来るとなると絶対にビビる自身があるぞ」

「じゃあお前死んでるな」

「ちょっとあんたたち! 早く持ち場に戻んな! うちらは全員配置に付いているよ!」


 金精院の女性につつかれて、頭を下げながら位置に着くラケーテン旅団の男たち。


「さて、次はどんな仕掛けが待っているやら……」

 そう誰かが呟いたが、10分程度待っても盗賊団に動きがあるようには見えなかった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あれから動きはあるか?」

「いえ、全く動きがありませんですわ。奴ら何かを待ってるんですかね? じーっとこっちを見ていて何にもしないんですわ」


 ザックは部下からの報告を聞いて考えていた。


「(なんだ? そもそも100人以上の人間を率いることができるというだけで盗賊団としては異常なのに、何を待っているんだ?)」


 盗賊団のボスは必ず何かを待っている気がする。その何かがわからないためうかつに近づけない。

 しかし……


「(こちらの人数は25人の冒険者。しかも平均Ⅵクラスのメンバーだ。よほどの事がない限り遅れをとることはないと思うが……

 それにギルドから盗賊団討伐の依頼も出ていたから、そろそろ出発ないし、もう出発してこちらに合流する可能性もあるしな……)」


 大規模の盗賊団ともなると、ギルドは早々に討伐の募集を始め、大体の冒険者が参加する。

 これは報奨金がでかいということと、盗賊を放置しておくと規模が拡大し、周りの村や町に迷惑がかかり、最終的には自分たちに被害が出てくるとわかっているため、早めに討伐するという治安維持の観点から、討伐参加の人数が多くなるためだ。


「(あれだけ立ち回れるボスならそんなことも気が付いているはず……何を狙っている?)」

「団長大変だ!」


 そう考えていると、斥候役として出していた部下がザックの前に現れた。


「どうした、エビシン! お前は斥候の継続をしてただろうが! 何があった!」

「それが奴らの後ろから大量の魔物が来ている! すごい数だ! 100とか200とかじゃなくてもっと大群だ!」

「何!! 本当か!!」


 ありえない話だが、自分が信頼する斥候の言葉であるため、疑いもせずに信用することにした。


「だいたいどれぐらいでこっちにくる!?」

「およそ2時間もないぐらいだと思う。ただいたのが肉食系や草食系の獣型の魔物ばかりだ。オークやゴブリンみたいな人型魔物は確認できなかったですぜ」

「その場合は明らかにおかしいな。もしかして人為的なものか? よし、とにかく全員を集めろ! 俺はアマゾーさんたちを呼んでくる」


 斥候のエビシンは言われた通り待機している仲間を呼びに行った。

 一応盗賊に背を向ける行為や、撤退の状況を見せるわけにはいかないため、最前線の広い場所にほとんどのメンバーが集められた。

 そこでザックは先ほど聞いた情報を共有した。


「……マジかよお頭……大量の魔物だと?」

「マジだ。エビシンが嘘をついたことはこれまで1度もない。つまり本当だ」

「エビシンが数えられない程と言っていた魔物……ここにいては危険だな……」

「どうする? 前の町まで撤退して応援を呼ぶ必要があるよな? そんな規模の魔物を放置していたら、町や村が2,3個なくなるぞ?」


 周りはすごい混乱をしていたが、誰もパニックを起こしていない。

 彼らは冒険者の中でも平均以上の力を持っているⅥ以上の人間も多いため、このような不測の事態もいくらか経験している猛者たちであった。

 しかし、いくら猛者たちでも、急に結論を出すには難しい問題でもあった。


「おいザックよ。この人数じゃどのみち魔物への対処は無理だろ?」

 ヤンホーがザックに声をかけた。


「はい、無理ですね。対処しようと思えばほぼ全滅しますね。なので前の町まで撤退してギルドに応援を求める事が最善と思います」

 ザックはすでに結論を出していた。撤退。それが今最善の方法だと言った。


「では何を悩んでいる? 結論がでたのであれば撤退の準備に取り掛かるべきだろ? お前は別の事で悩んでいるだろ。それを言ってみな。

 なに、俺の方が冒険者歴は一応長いんだ。疑問を口に出して言えば気が付くことも見つかるかもしれん」

 そう言ってヤンホーはニカっと笑った。


 ザックは考えていた。このタイミングでの盗賊団の襲撃。何故このタイミングなのか。あちらの方が戦力が多いことはわかるが、下手をしたら全滅する可能性もある。

 それなのに何故か真正面から突撃をしてきた。まるでこちらを足止めするように。または味方を殺してほしいと言わんばかりに……

 その考えをヤンホーに伝えた。


「なるほどな。確かに可笑しなことばかりだ。この場合、やつらはこの魔物の群れを知っていた事になる。何故奴らが魔物の群れを知っているのか。またあの魔物の群れはなぜ群れているのか。それが気になるというところか」

「はい。目的が馬車の積み荷の場合、魔物に任せたら積み荷ごと全部魔物に食べられたり壊されたりして使い物にならなくなることがわかるはず。そのため奴らは別の目的があるんじゃないかと思っています」

「と、いうことは……」

「恐らく目的は御3方のいずれか、または全員の暗殺だと思われます」


 ザックの言葉は理に適っていた。3人は周辺国に顔が利く大商人である。この3人にもしもの事が起きた場合、周辺国の経済へのダメージは計り知れない。恐らく大混乱となるであろうことは誰もが予測できた。


「もし仮に暗殺が目的の場合、町の戻るのも考え物と思いまして。もしかしたら別の刺客が待っている可能性もあります」

「もし待っていて刺客が動き殺されても、今回の魔物の大軍のせいで調査が後手に回るか、または魔物のせいで倒れたってことに後で隠蔽できるしな」

 ザックとヤンホーの中で意見が一致した。


「ま、だからといって撤退しないわけにもいくまい。さすがに迎え撃つにしても人数が少なすぎる。それにギルドへの協力は必須だ。戻るしかあるまい」

「わかりました。では現時点を持って撤退します……よし、お前ら! 撤退だ! 早急に準備して撤退するぞ! 目的地は昨日泊まったコッドの町だ!」


 ザックの号令を聞き、団員と金精院のメンバーが動き出した。

 ベテランが多いこの2つのクランは、無駄なことをせずあっという間に撤退の準備を終えた。


「よし、撤退するぞ。族が追ってくるかもしれないが無視しろ無視! しゅっぱーつ!」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ボス! あいつら荷物をまとめてますぜ! 責めますか!」

「アホ! 罠の可能性があるからほうってろ! 俺たちは何もしなくても勝てるんだから無視してりゃいいんだよ!」

「それもそっすね! わかりやした!」


 まったく、何度部下に言い聞かせても突撃したがるのは困ったもんだぜ。

 俺は今3大商人であるヤンホー、アマゾー、ラーテーン陣営に顔を向けている。

 俺の依頼はあの3人を殺すこと。やつらの護衛は腕利きぞろいでなかなか難しいが、秘策がある限り俺に敗北はあるまい。


「それにしてもボス。本当に魔物の群れが来ましたね。あれマジモンだったんすね。あのオーパーツ」

「あれか? 依頼主は本当にあの3商人を殺したいらしいからな。確実に殺すためにこのオーパーツを渡すとは、気が狂ってとしか思えないな。

 ま、依頼金がの額がとんでもねー額なんだ! そんなことどうでもいいけどな! ガハハハハ!」


 そう、俺の依頼主はとんでもない額を俺に提示してきた。その額金貨5万枚!これだけあれば当分はたちと豪遊できるってもんだ。


「でもいいんですか? まだ80人ぐらい生き残ってますぜ? ハイエナどもは・・・」

「全員を減らすとよくねー評判が浮いてくる可能性があるからよ。最初の70人は予定通り死んでくれたが、あとは50人ぐらいは死んでもらうさ。なーに、ちゃんと考えてある。心配すんな!」


 俺たちの仲間は24人。その他は寄せ集め部隊だ。他の盗賊団に声をかけたり、そこら辺のごろつきを募集して今回は数を集めた。

 大勢で奴らを殺しに行くって方法が一番楽だが、護衛の質がいいとわかっていたから恐らく無理とわかっていた。だから依頼主は俺にこのオーパーツを渡してきたんだろう。


「にしても、依頼主はえげつないな。このオーパーツ、大量の血を引き換えに魔物を呼び寄せるってやつだろ?可哀そうにな。魔物を呼び寄せるためだけに死んでいった知らないやつたちよ……あとは俺たちに任せろ! なんてな!」

「ボス、可哀そうなんて心にもないこと何口走ってんですか? 変なモン食いましたか? ギャハハハハハハ!」


 そう、今回俺たち以外のアホどもを集めたのは、このオーパーツの力を使うためだ。

 このオーパーツは真っ赤な玉の見た目をしているが、血に反応して魔物を呼び寄せる効果がある。

 今回は70人程度死んだから、どれぐらいの規模の魔物がくるかわからねーがな。


「あ、やつら本当に撤退していきます! 追いますか!」

「魔物の群れの様子は!」

「あと15分程度で視界に入るぐらいだそうです! しかもすごい数らしいですぜ!」

「そうか……よし、てめーら! 突撃するぞ! 全員殺せ! 荷物もぶっ壊しても構わねー! こっちは成功したら金貨5万枚だ! しけた荷物なんかいらねーんだよ!」

「「「おお―――!!!」」」

「んでもってさっきも言ったが、3商人を殺したやつは山分けとは別に金貨1000枚をくれてやる!早いもん勝ちだ!急げよ!」

「「「おお―――!!!」」」


「俺が貰った!」「いーやお前じゃ無理だ! 俺がいただく」「アホ! ここは共闘して山分けってどうだ?」

「バーカ! お前と組む奴なんかいねーよ雑魚が!」「んだとゴラ!」


 俺の配下じゃない奴らが興奮しながら護衛団を睨んでやがる。

 バカな奴らだ。さっきの特大魔法や戦士たちの力量を見ていないのか? あいつらすぐ死ぬぞ?

 ま、焚きつけたのは俺だけどな!


「グフフフフ……さて、金が入ったらまず何をすっかな! 今から楽しみだ! 俺たちは後から行くぞ。いいな、先走ってあいつらの仲間になるんじゃねーぞ?」

「わかってますぜお頭。俺たちはゆっくり楽に金を稼ぐとしますかね? ってね」

「そうそう、お頭についていけば何も問題ねーですぜ」

「で、魔物の群れが近くまで来たらすぐに逃げてあいつらと護衛ども全員殺してもらうってやつですね! 楽勝じゃねーかこの仕事!」


 バカどもよ、先走って殺されろ! そしたらまた血が溜まってそっちに魔物の群れが移動するからな! せいぜい暴れて派手に死にな。

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