第10話 異世界の常識/僕の非常識
おっさんに連れてこられて僕はギルドについた。城都でも思ったが、ギルド内はテンプレ的な飲んだくれのとかの姿はなく、ムキムキのお兄さんやスタイルが良いお姉さんが真面目に話し合いをしている声が聞こえる。
おっさんが護衛依頼を出している間、先輩冒険者の声を拾ってみた。
「どうやら森に4つ足の何かがいるみたいだ。多分猪型か鹿型の魔物と思うが」
「このところ猛獣系の魔物が増えてるわね……肉とか安く仕入れるチャンスだからって依頼書にたくさん駆除の依頼があるけど、あんたらどうする?」
「俺んとろころに新人が入ってな。殺す練習と捌く練習が必要だから一応受ける予定だ。お前んところは?」
「あたしんところはパス。ちょっと前に国境向けの道で大掛かりな盗賊団が出たって噂があるの。そいつらの退治に行く予定」
「おいおい、お前たちのパーティーは女だらけだろ? 失敗したらやべーだろ」
「大丈夫。レイドを組む予定。あたしんところとゼクスのところ、あとダリーのところも参加予定よ。
一応もう何組か組みたかったんだけど、あんたんところは無理そうだしね」
「ああ、新人がいるんじゃ足手まといになる。今回は不参加だな。気を付けろよ?」
なるほど、ちゃんと別のパーティー同士でそれぞれ情報交換を行っている。
しかも相手の心配や新人への配慮までしているし、おっさんが言った通り冒険者って優しい職種なのかもしれないね。
「坊主! こっちに来い! 依頼を出したから受けろよ!」
おっさんに言われたのでカウンターに向かう。
向かったカウンターにはおっさんの他に受付係なのか、ふくよかな肝っ玉母ちゃんのような女性がいた。
「あんたがヤンホーの依頼を受ける新人かい? あたしゃこのギルドの受付のミルキーだ。よろしくね」
完全に名前負けの体をしていると思った僕は悪くないはず。
ミルキーさんは目の前に書類を出してきて1枚を僕に渡した。
「ハイ、今回の契約書だよ。文字は読めるかい? 読めるようだね。一応護衛依頼として今回は受理したので、その旨を書いているからよく確認しなね。
依頼料に関しては出来高報酬。ま、新人だしいろいろ学ぶことがあると思うから、報酬金はあまり期待しなさんな。
判定は依頼主であるヤンホー氏が決めるんで、この契約に問題なければサインしなね。
契約に問題がある場合は今依頼主がいるから、ちゃんと聞いておくこと、いいね?
特に新人の場合、とりあえず依頼さえ受ければいいと思って契約内容を見ずに飛び出て、後で泣くことになるなんて結構あるんだから、しっかり契約内容は確認すること。
いくら知り合いでもなあなあにするんじゃないよ」
そう言われて僕は契約書を確認する。
「おっさ……ヤンホーさん。国境の町までの到着が大体夕方ぐらいとなっていますが、昼食がヤンホーさん持ちってなっていますが、
これは成功報酬から引かれるということでしょうか? それとも報酬とは別ということでしょうか?」
「お、いい質問じゃねーか。今回は俺がお前の昼飯代を持ってやる。何、新人なんだ。素直に甘えておけ。
ただし、あくまで今回はだ。依頼主によって野営するときに全て準備してくれるやつもいれば、全て自分で準備しろとかいうやつもいるからな。
旅に必要なモノがかさばったり金がかかる場合は、その都度何を準備するかを依頼主に聞いた方がいいぞ。
あとさん呼びは気持ち悪りー……おっさんでいいぞ」
なんとも懐のデカいおっさんである。
その後も僕は疑問に思った事を質問してみた。
魔物とを倒した際の報奨金や野盗に襲われた際の傷の労災金、倒した際の取り分等なんでも気になるとこを質問した。
「いやはや、この子は優秀なのか、慎重なのか、臆病なのか判断に迷うわねー? 普通新人だったらそんなに細かく質問とかしないんだけどね?」
「お前本当に記憶喪失か? えらい契約について慣れてないか?」
どうやら前の世界の職業病が出たみたいだ。
個人で経営していると、契約に敏感になるため、納得ができるまで細かく詰める癖が出たみたいだ。
「ごめんなさい。わからないんですけど、気になった部分を聞かないと落ち着かないのかもしれません。
いやーこまったこまった。次回から気を付けます」
「棒読みで言うなバカたれ。ま、契約なんでな。どちらも不利になるような契約じゃなければ問題はない。むしろお前みたいに詰めた方がいい場面もあれば、依頼主が良い顔をしない場合もあるから注意しとけよ」
そうして僕は紙に自分のギルドカードを押し当てた。
僕の世界でいうQRコード的なものがカードと契約書にそれぞれあるらしく、契約書をそれで読み取り契約をしたとみなされるみたいだ。
「よし、契約は完了したのでさっそく頑張りなさい。ヤンホーは面倒見がいいやつだから、わからないことがあればガンガン聞きな」
「そうします。いろいろありがとうございました。ミルキーさん」
そうして僕とおっさんはギルドから出てアマゾーさんとラーテーンさんが待っている町の入り口まで移動した。
「おう、ようやく来たか。出発の準備はできているから適当な馬車に乗れ。
で、坊主は今から護衛に回るっていうからあっちの先輩どものところに行きな」
アマゾーさんはいかにも冒険者です! という格好をした集団に向け指を指した。
「わかりました。いろいろお世話になります」
アマゾーさんとラーテーンさんに挨拶をしたあと、僕は先輩方の集団に向かっていった。
流石に大商人にアマゾーさんにラーテーンさん。護衛の数がかなり多い。ざっと20人ぐらいのいるかな?
「お、お前さんがヤンホーさんの護衛依頼を引き受けた新人か。歓迎するぜ。俺の名はザック。ラケーテン旅団のリーダーだ。よろしくな」
「私はステイシー。金精院のリーダーよ。よろしくね」
「初めまして、ナガヨシです。短い間ですがよろしくお願いします」
オレンジ色の髪をした細マッチョで長身のザックさん。イケメン。
金色の短い髪をしたステイシーさん。美人。
黒髪の太っても痩せてもない普通な青年。僕。
これが格差社会ですね。わかります。
「俺はアマゾーさんの護衛をしているが、今回はラーテーンさんとこのチームと合同になったってことなんで、俺がリーダーになった。
基本俺の指示に従っていれば問題ないから、緊張せずに気楽にやれ。暇な時間で全員でお前に今後の冒険者としての歩き方を教えてやるよ」
「私たちはラーテーンさんの護衛チームよ。今回は副リーダーになったから何かあれば私からも支持を出すわ。ところでナガヨシ? あなたの得物は何かしら? 使える得物によって陣形とか配置とか決めなきゃいけないの」
そんな質問がきたので、僕はそっと腰に掛けている剣を鞘ごと前に出した。
「僕が使えるのはこの剣だけです。ただ、一度も魔物とか人と戦ったことありません。どうしましょ?」
そう言うと、2人は口を大きく開けて驚愕していた。
「マジか、よくそんなんであのヤンホーさんの護衛とか受けれたな。普通契約の時点で戦力外は弾かれるはずなんだがな……」
「うーん……ま、わけありなんでしょう。じゃあ冒険者の心得として戦い方とかも教えましょうかね」
「あ、じゃあどうするか? 剣の使い方か? それとも戦闘の立ち回り方から教えるか?」
「とりあえず、剣を使える人たちを集めて……」
何やら僕のためにいろいろお話合いをしてくれている。本当に冒険者って親切な人が多いみたいだ。
または僕の運がいいのか、良い人ばかりに巡り合えているかのどちらかかな?
ただ僕の職業欄に剣使と書かれているけど、これ誰か知っている人たちいるかな? ちょっと聞いてみよう。
「すみません。職業の事について質問いいですか?」
「ん? 職業についてか? なんだ?」
「はい。実は「おーい。準備ができたからそうろそろ出発するぞー!」……後で聞きますね?」
「そうだな。じゃあまた後で! お前らそろそろ出るぞ! 準備はいいか!」
準備OKの声がそこかしこから聞こえたので、そのまま町を出た。
しばらく歩いていると、ラケーテン旅団から3人ほど馬に乗って先頭に飛び出し、そのまま先に消えていった。どうやら先ほど僕もギルドで聞いた情報である大規模な盗賊団が出る可能性があるためか、偵察として先に移動し様子を見てくるようだった。
「今回は斥候を出しながら国境まで行くんで、だいぶ時間がかかるな? いつもの2倍ぐらいか? どう思うゴトー?」
「そうですね……もし本当に盗賊団がいる場合、迎え撃つか元来た道を戻って援軍を連れてくるか、迂回するかによって時間が変わるでしょうから、ざっと3倍ぐらいかかるんでないですか?」
ザックさんがおそらく仲間であろう人と今後の進路予測を立てている。
「さて、で、ナガヨシ。さっきの質問だが、職業がどうこう言ってたな。どうした?」
話がある程度まとまったのか、ザックさんは僕に先ほどの質問について尋ねてきた。
「はい、みなさんってどんな職業に付いているのかなと……あとどんな職業があるのか聞きたくて……」
「職業か? ま、基本的に相手の情報を無暗に聞くのはマナー違反だ。人によっては答えに躊躇する職業の人間もいる。
また本当の職業を隠している人間もいるぞ。例えば暗殺者とか泥棒とかな。
だから大体は持っている得物を見てある程度判断する。剣を持っている場合は剣士とか槍を持っている場合は槍士とかな」
ふむ……この世界は職業の概念はあるが、個人情報はあまり無暗に開示はしないのか。
「じゃあ、剣使って職業わかります?剣士じゃなくて剣使い。誰に聞いてもわからないんですよ」
そう、僕は王都のギルド支部のお偉いさんとお話をした際も一応職業について聞いていた。
しかし、還ってきた返事は求めていた情報ではなく、わからないということがわかったぐらいだ。
そのため、デスクワークの人達ではなく、現場の人達に改めて聞いてみた。
「剣使? 聞いたことない職業だな……おいダン、ゴトー。お前ら剣使って職業知ってるか? 普通の剣士じゃなくて剣使いと書くらしいが……」
「剣使い? 俺は聞いたことないですぜ? ゴトーは?」
「俺も聞いたことないですね?」
やはり僕の職業はメジャーではなくマイナー、またはレア職業なのかな?
「ステイシーところはどうだ? そっちに剣使いとか似たような職業の人間いるか?」
「いえ、聞いたことないわね……エル? 聞いたことある?」
「いえないですね。なんですか? その剣使いって? 剣士の派生形かなにかですかね?」
その後もどちらのチームに聞いても僕の職業に付いては求める情報が集まらなかった。
「つまり要約すると、ナガヨシの職業は未発見職業か派生職業の可能性があるわけだ。ただその場合、恩恵とかは何が出てくるかわからんな……」
「ん? 恩恵ですか?」
「そうよ。職業によって与えられる恩恵が異なるの。剣士なら剣の使い方の補正やスキル技とかね。
魔法使いの職業でも僧侶や司祭は回復系、魔術師は攻撃系の恩恵が得られたりするわ」
そうなると、僕のこの剣使も何かしらの恩恵があるわけだ。
でもどんな恩恵だろう?剣に関係する恩恵の場合、一番い考えるのはかっこいい必殺技みたいなやつかな?
「ま、なんにしても恐らく戦闘系の職業だと思うぜ。てなわけで早速戦い方を教えるか。
じゃあダンにロック! あとは任せた。軽く新人に戦いの常識を教えてやれ」
「ミュー。彼、剣を使う人だからあなたからもアドバイスをお願いね」
ザックさんとステイシーさんはそう言って、おっさんたちが待つ馬車まで移動していった。
残されたのは僕と細マッチョのダンさんと、太マッチョのロックさん。そして紅一点である金色の髪を三つ編みにしているミューさんが残った。
この4人の共通点は腰に剣を掛けており、太さはまちまちだが長さがだいたい同じぐらいの剣を持っている事だった。
つまりこの3人は僕に対して剣の使い方とかを教えてくれるみたいだ。
あと、この世界は名前が短くて、僕も何とか覚えれる範囲の名前で大変助かる。
それぞれの自己紹介も終わり、早速剣の使い方を教えてくれるかと思いきや、別の話から始まった。
「ナガヨシ。お前生き物殺したことあるか?」
「ありません」
「生き物が殺されるところとか、屠殺現場とかは?」
「見たことありません」
「じゃあ先に武器の扱い方よりこっちを教えてやるよ」
そう言ってダンさんはザックさんの元の行った後、一人別の場所へ移動し始めた。
「今から生き物を殺すということを教える。ある程度覚悟するように」
「大丈夫。冒険者のほとんどが通った道だから。頑張ってね」
残ったロックさんからは今からの勉強についてと、ミューさんからは励ましの言葉をいただいた。
そして、こっちに帰ってきたダンさんの手には、小さな可愛らしいウサギのような動物を持っていた。
そこまできて僕は「あぁ、確かに武器を扱うより先に必要な授業だ……」と呟いたのであった。
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