第7話 勇者、今後の展開に思いをふける

「(本当に行ってしまった……)」


 一人でこの祠から出ていく長慶君を見て、どうしてこうなったのかを考えた。


「(長慶君の言葉が正しかった場合、確かに情報収集は必要だ。

 でも1人で行かせることになるなんて……光君は何を考えているんだ?」


 そう思いながら、光の方へ振り返った。

 光君は現在、佳織と凜々花と沙良に対して謎のアピールをしていた。


「つまり、こういう召喚モノの鉄板でいえば、勇者である栄治さんが主人公の可能性が高いわけ。

 だからこそ、栄治さんについていけば、大体なとかしてくれるよ!」

「え、でも迷惑じゃないですか……」

「それに、最近の召喚モノって、勇者が踏み台になったり、悪者だったりするパターンもたくさんあるし、栄治さんに頼りっきりっていうのもちょっと……」


 佳織ちゃんは俺への心配を、凜々花さんは勇者に対する若干の不信感、沙良さんは二人の意見を聞き「うんうん」と頷いている。

 ていうか最近の勇者枠ってそんなに扱い酷いかな? あまり勇者が脇役になる話なんて見たことないけど……

 世界が違うと内容や流行も若干違うのか……


「光君」

「あ、栄治さん」

「光君、なぜ長慶君を1人で行くように仕向けた? いくら力があるとはいえ、1人じゃ難しすぎる。君は彼を殺す気なのか?」

「ちょ、ちょっと待って栄治さん! こっちこっち……」


 そう言うと、他に人には話が聞こえないぐらいの離れた場所に連れてこられた。

 その間、女性陣たちは集まって何やら話をしている。


「あのね、栄治さん。多分だけでこのままじゃ栄治さん脇役ポジションになってた可能性があるよ?」


 いきなり何を言い出すんだ光君は……


「だってあいつ、主人公特性持ちすぎてません? すでに力を別に持っている件以外にも、俺たちとは違う職業欄、すでに既婚者でもうすぐ子持ちなんて、主人公ポジションか死亡フラグ満載のキャラじゃん! だからあえて1人にさせたんですよ」


 なんだろう、言っている言葉に納得できてしまう。

 たしかに彼は主人公かすぐに死ぬキャラかの2択だと思う。


「で、主人公だった場合、恐らく既婚者だけど今いる女性メンバー全員とフラグが立ってハーレムを築く可能性がある!

 しかも栄治さんや俺とか正さんは脇役ポジになって場を盛り上げる要素の一つになる可能性が……

 そんなこと俺は認めませんからね! 正直栄治さんもハーレムを築きそうな気がしますが、なんか俺と同じ匂いが――同類な気がしますので、まだいいかなーっと……」


 何故だかすごくリアルに想像ができた。長慶君がハーレムを築く光景が。

 なるほど、光君は早くからこの光景を予想できたからあんな態度を――


「でも、1人だけ行動でも主人公にならない? ほら、追放モノとか――

 僕が見た作品は勇者が追放されて力を得て現地人ハーレムを築くって話だったけど……」

「たしかにその可能性はあります。でも目の前でハーレムを築かせるより、知らないところで築いていた方がダメージが少ないと思うんですよ。

 それに、死亡フラグの可能性もありますしね。傍にいられると巻き込まれる可能性もありますんで――」


 光君も彼なりに今後の事を考えているのか――


「どのみちあいつが言っていた帰還方法がある場合、情報収集は必要でしたので。

 なら早い段階で分かれてても問題ないと判断しました。

 モテる可能性がある人間は1人でもいない方がいいですしね」


 ものすごく公私混同しているのはわかるが、個人的にはやはり光君の意見に賛同できる。

 ここは現実だとはわかっているが、やはり召喚モノとして漫画やアニメの感覚の方が強いみたいだ。


「わかった。じゃあ他の人達への説明は俺のほうからしておくよ。さすがに今言ったことを直接説明しても周りから顰蹙を買うと思うし、なんとか誤魔化して説明するよ」


 かういう俺も、まだ現実と思えないので、ゲーム感覚が抜け切れていない。

 でも、いきなりこれが現実と言われても、ハイそうですかと納得もできない。

 そう思い、俺は今集まっているメンバーの下に向かい、長慶君の事を説明するのであった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「(あっぶね――もう少し込み合った話をされるとバレるところだった……)」


 今みんなの目の前でイケメンである栄治さんが俺が言ったことをやんわりと説明してくれている。

 そもそも、俺はこの異世界召喚をされる際、女神にある程度の事情を聞いていた。

 他のメンバーはどうだか知らないが、どうやら俺意外に女神から直接説明された人はいないみたいだった。


「(せっかく俺が英雄になってハーレムを作れる環境に来たんだ。しかも一緒に召喚された女性陣はみんな可愛いし。

 還れるとかになると恐らくハーレムメンバーに入ってくれそうにないしな――まったく余計な事を言いやがって……)」


 俺は今はいない石田長慶について考えていた。


「(そもそも別の神ってなんだよ! そんなのがいるんだったら俺の前にも出てくるでしょ!

 なんたって俺は女神と直接話した勇者だぜ? 職業は勇者じゃないけど……

 闘神、つまりは神! 勇者より強そうだし、やっぱり俺が最強で主人公だろ絶対!)」


「じゃあそろそろここから出て城に向かうとするけど、みんな大丈夫か?」

 栄治さんが号令をかけたが、何やら佳織ちゃん正さんと沙良さんが宝石を前に何か喋っている。


「あの――ここにある宝石とか武器みたいなものって持って行ってもいいんでしょか?」

「そうですね……一応持って行って、元の場所に返さないといけない場合は戻しに来たらいいではないでしょうか?

 いきなり手ぶらでとなると、やはり怖いですしね」

「そうね……お城からも距離が近いみたいだから、とりあえず持っていくのもアリだと思うわ」


 そこで俺は会話の輪に入ることにした。


「宝石がともかく、武器とかは持って行っていいんじゃないか?最悪召喚時から持っていたとか言えば多分大丈夫と思うし、持った方がここは異世界なんだって実感も出ると思うしね。

 宝石に関しては今からしばらく国に保護される形と思うからお金には困らないと思うんで、しばらく放置でいいんじゃない?」


 そう言うと、それもそうかとみんなそれぞれ武器を持ち出した。

 少し長慶に取られたが、まだまだたくさん宝石はある。

 ちなみに、宝石は後でこっそり回収するつもりだ。


 栄治さんは勇者だけあって盾と剣が一体化しているような武器を、

 佳織ちゃんは身長並みにある杖を、正さんも1メートルあるかないかぐらいの杖を、 凜々花さんは何故かハープ?みたいない楽器を、小音子さんは棒のようなものをそれぞれ手にした。


「沙良さんは何も持たないんですか?私と同じぐらいの杖ならまだありますけど?」

「ありがとう佳織ちゃん。でもなんだかいまいちピンとこないというか、今ある武器を持とうと思わないんだよね」

「あーわかります。あたしも何故かこのハープぽいものを選んじゃったけど、自然に手が動いてましたからね」


 どうやらみんな自分の職業に合った武器を無意識に選んでいるみたいだ。

 ということは――


「じゃあ俺はこの籠手みたいなやつだな! あ、つけてみたらかなり馴染む! すげー!」


 さすが女神様。これは事前に聞いていたけど、武器はすでに用意されていると言っていた。

 宝石も俺たち向けに用意されたものらしいが、それは後で回収しよう。

 みんなに言ってしまうと俺の取り分が減ってしまう。それはまずい。俺はこの後ハーレムを築く! 資金はいくらあっても足りないからな!


「じゃあ今度こそ城に出発しよう」


 そういって栄治さんはみんなを引き連れて祠の出口に向かっていった。


「(ごめんね栄治さん。しばらくのあいだリーダーをお願いしますよ。

 しかも勇者だし、異世界ものを見ている割には勇者が堕ちる系の作品は見ていないんだね。

 この場合勇者が悪堕ちして別の人間が主人公になるって相場が決まってんの!

 だから堕ちるまでは俺がサポートをしてあげる。で、勇者が堕ちたその時は俺がリーダーになってやる!

 主人公は最初から俺って決まってるの!)」


 そう心の中で蔑んでいると、栄治さんから「光君、早く行こうよ」と声が聞こえる。


「(せいぜい俺の踏み台として頑張ってね。ハーレムを作ってた場合は俺が貰ってあげるからさ!)」

 俺は今後の異世界生活を俺好みで染める計画を立てながら王城を目指した。

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