第6話 帰還方法の認識(後編)

 小太り君がまた怒り出して話が進まない。

 周りからは「へーそうなんだ! 意外!」的な目を向けられたり、女性陣が集まりだし「既婚者で召喚とか可哀そう……」と同情の目を向けてくれる。

 先ほども言った通り、還れる方法があると神様から教えてもらっているので、多少の辛さはあるが、頑張れるモチベーションにもなっているので、同情が少しくすぐったい。


「嫁がいるし! 還れるし! とか言われてもハイそうですかと信じれるほど、召喚モノ甘くないんだよ! 俺は信じきれないね! みんなもそうだろ!」


 小太り君は周りの賛同を得ようとしている。

 しかし、周りの反応は彼には味方していないようだった。


「あの――本当に還れるんでしょうか?」

「還れるんであれば還りたいし、方法を探すのもアリだよね……」


 魔法少女ちゃんと委員長はやはり元の世界に還りたいようだ。


「さっきも説明したけど、方法はあるけど必要なモノをそろえる必要があるみたいで、それが何なのかはわからないんだよね――だからそれを探す必要はあるね」

「じゃあ私手伝います! 還れる方法探し!」

「あたしも手伝うよ!」


 女子2名はお手伝いしてくれるみたいだ。

 すると再び小太り君が大きな声を上げた。


「じゃあわかった! 仮に還れる方法があるとしよう! でも女神様の話を聞く限り、魔王を倒さないと元の世界に侵略されるから、どのみち魔王を倒さなきゃいけない。ここまではOK? でだ。

 俺たちは恐らくまだ全然弱いしこの世界の事を全然知らない。そんな俺たちが元の世界に戻る方法を探しに行っても効率が悪すぎると思う」


 全員に今の状況を説明するように言うと、勇者君の方へ向き言葉を続けた。


「そんなわけでリーダーに提案。まずは王城に行き現地の人に協力を仰ぐ。

 で、ある程度知識を詰め込み、また強くなったら魔王退治の旅に出る。その旅の途中で改めて帰還方法とかを調べながら魔王を倒すって方針でどう?」

「そうだな――確かにそれがいいかもしれない。現状俺たちは何も知らなすぎるからね……」


 小太り君の提案は一番妥当な提案だと思う。

 勇者君も小太り君の意見に賛成っぽい。魔法少女ちゃんと委員長さんはもちろん、他の聖女さんや賢者さんも賛成の表情だ。

 ただ、僕個人の事情があり、悠長に構えれない。


「あのー申し訳ございません。個人的な事情により、一刻も早く還れる方法を知っておきたいのです……」


 そう言うと、今度は勇者君が僕に質問してきた。


「ん? それはなんでだい? どのみち魔王は倒さなくちゃいけないんだから、還る方法探しは最悪魔王討伐後でもいいと思うけど?」


 勇者君の質問に対して、僕は神様から教えてもらった世界により時間の流れが異なることを説明した。


「なるほど、つまり長慶くんの世界の3カ月後に大事な用があるから還れる準備だけはしておきたいと、こういう認識で間違っていないかな? 正直俺としては魔王退治の方が優先度が高いと思うからどんな事情なのかを教えてほしいかな? 事情が事情であれば手伝うこともやぶさかじゃないしね」


 勇者君は小太り君の意見も僕の意見もどちらも必要で重要な意見と思い、しっかりと考えてくれてるみたいだった。

 だから僕は正直に言った。


「3か月後が嫁の出産予定日なので、間に合うように還りたいです。初産だし傍にいたいんです」

「え、うそ、おめでた! しかも初じめての子どもなんだ! それは傍にいたいよね」

「いいなーお嫁さん。すごく愛されてるね」

「あーなるほどたしかに早く還りたいですね」

 上から勇者君、委員長さん、長身さんの順で僕の意見に肯定の意を示してくれる。


「出産の立ち会いなんて次の子どもを作ったらできるじゃん! 別に急いで還る必要ないじゃん」


 小太り君が発言すると、女性陣からの猛抗議が始まった。


「うわ最低だよその意見……ぜったいモテないよ」

「酷いです。出産はとても大変と聞きますから、旦那さんに傍にいてほしいと思うのは当然なのに……」

「しかも初産なんでしょ? そりゃあ還りたいよね……」

「還れるなら帰った方がいい。小太りさいてー」


 小さい子を含む女性全員からの抗議に小太り君は怯んだ。

 特に小さい子からの最低発言後、大きなリアクションをしている。


「う、悪かった、言い過ぎた。ごめん」


 よほど女性陣からの抗議に堪えたのか素直に謝ってきた。


「とにかく、そんなわけで僕は早く還れるようにするために先に還る方法を探したいのです。

 王城に行く必要はあると思うけど、どれだけ滞在するかによっては別のアプローチが必要になるかもしれないし……」


 僕の発言に女性陣と長身さんからは賛同をいただき、勇者君はさらに悩みだした。


「(長慶君の意見は動機はともかく納得はできる。みんなも還れると分かった場合はモチベーションアップに繋がると思うし……

 でも光君の意見も筋が通ているから無下にはできない。ていうより僕も光君よりの意見だし……)」


 勇者君が考えていると、小太り君が僕に対して喋ってきた。


「じゃあこういうのはどうだ? 俺はまだあんたの言葉の全てを信じ切れていない。だから信じられる材料を持って来るっていうのはどう? 具体的に言うと、俺たちは王城に行くから、お前だけ別の場所に行くってやつだ」


 いきなりの戦力外通告。僕としては王城に行って情報を集めてから出ていきたいんだけど――


「おい、光君! 何を勝手に言ってるんだい! いきなり一人行動をお願いするなんて何考えてるんだ!」

「ちゃんと考えてますよ栄治さん。帰還方法についてあると仮定して、僕たちはこの国で情報を探します。だから長慶さんには別の場所で情報収集をしてもらうんですよ。これなら2手に分かれて情報を集めれるから時間の効率化にも繋がるでしょ? 正さん、どう思いますか? この提案」


 小太り君が長身さんにも意見を求めている。


「そうだね……情報を集めるという点で言えば確かにアリだね。2手に分かれた方が情報を沢山集めることができるしね」

「その場合、2手に分かれるとなると、人員はどうするの? 誰が王都行きで誰が別の場所行きになるの?」

 聖女さんが2手に分かれる場合、誰と行動を共にしていくのかを確認してくる。


 正直僕はこの提案には賛成だ。僕はすでに僕の世界の神様から力を貰っていので、他の人と下地が違う。今日初めて会った人たちと連携とかできないし、基本的僕は人に合わせることができないタイプなので、1人で行動した方がいいと思っていた。


「2手に分かれるであれば、僕1人で大丈夫だよ。自分の世界にいたときに神様から力を貰っているし、素早く動くのであれば一人の方が身軽で動きやすいと思うからね」


 そう言うと勇者君が慌てだした。


「いや、何を言っているんだい!? さすがに1人での行動は認められないよ、リーダーとして。この世界の危険度とかわかっていないんだから、2,3人で行動した方がいいでしょ!」


 と言っているが、小太り君は違う意見を言い出した。


「栄治さん、こいつが1人で良いと言ってるんだからやらせてみましょうよ。さっき言った危険度についてたしかに怖いけど、もし危ないモンスターとかに襲われた場合、複数人がいなくなるよりも1人だけいなくなった方がいいと思いますし、力持ってるんでしょ?

 だったら逃げる事ぐらいはできるんじゃないですかね?」


 ものすごく棘がある言い方だけど、小太り君は人の気持ちを考えた方がいいと思う。

 ほら、魔法少女ちゃんとか委員長さんとかものすごい目で小太り君を見てるし。

 小太り君ってば非難の目に気が付いていないんだね。


「栄治さん。光君の言うとおり、彼1人の行動の方がいいと思うよ。僕らは戦う力は持っているけど、扱い方を知らないから、どのみち王城に行かないといけないし。だったら力の扱い方もわかっている長慶さん1人の行動の方がいいと思うよ」

 長身さんが最もな意見を口にした。


 女性陣は恐らく小さい子はわからないけど旅に出ることは難しいと思うし、男性陣も先に戦い方を学んだ方がいいと思うしね。

 ただ僕もあまりこの力の使い方を知らないから、ある意味行き当たりばったりになってしまうね。


 ――勇者君は5分程度考えて結論を出した。


「よし、長慶君には別行動をとってもらい、帰還方法や魔王の情報収集をしてもらおう。

 残りの7人で王城に行き、経緯の説明と力の使い方、この世界の情報を集め、魔王の事や帰還方法を集める。この行動方針が最終確認でいいだろうか……」


 周りを見渡しながら勇者君は説明した。

 誰からも反対意見は出ず、みんながおもむろにここから出る準備をし始めた。

 気が付くと、召喚されてから2時間ぐらい経っていた。


「みんなごめんね。もう少し俺に決断力があれば、こんなに長く時間が掛からなかっただろうに――

 やっぱりこんな状況化のリーダーは難しいな――アニメとかではすんなりとリーダーシップが取れるのに……現実ってやっぱり理想的には動かないもんだな……」


 僕は逆にこんなことがちゃんと言える勇者君こそ、リーダーに向いていると思う。

 全員の事をちゃんと考え、どうしたら最善の解になるかを一生懸命に考えている勇者君の姿は、ちゃんとしたリーダーのように映って見えた。


「じゃあ、僕は先に出るよ。一応ここにあったこの剣みたいなものとこの小さな宝石みたいなやつを少し貰っていくね」


 そう言って祭壇の上に無造作に置かれていた鞘付きの剣を拾う。

 誰も近くにいないことを確認し抜いてみると、少しだけ汚れがあるが、刃毀れはしていない剣だった。


「じゃあみんな気を付けて。絶対に死なないでね。生きてまた会って元の世界に還れるように頑張ろう!」

「おう、そっちも気を付けて。損な役割を押し付けてすまない。必ず生きて会おう!」

「せいぜい貴重な情報を見つけてくださいね? 最悪魔王の情報だけでもお願いしますね?」

「あの……お気をつけて。頑張ってください」

「私たちもできる限り頑張りますので、また会いましょう」

「一緒の世界出身なんだし、少し喋りたかったけど、また会えたらね。頑張って」

「まだ聖女っぽいことはできないけど、旅の無事を祈っているわ」

「バイバイ」


 それぞれから激励(小太り君は最後まで嫌味でした)を貰って僕は祠から出た。

 女神さまの言ったとおり、祠を出るとすぐに王城が見える。

 なので僕は王城とは反対側の方へ足を進めた。

 反対では恐らく城下町があるのか、人のざわめきが聞こえてくる。

 とりあえず町に到着後、宝石の換金と情報収集を最低限おこなって、この国を出る方法を探すことにした。

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