第5話 第5話 帰還方法の認識(前編)

 さて、情報戦の始まりだ。ミッションクリアの条件は元の世界に還る情報を得ること。またはその情報事態をみんなが知っているかを確認すること。

 情報を持っている場合は、是非とも知りたいし、持っていない場合はこちらか情報を提示し、みんなにも還るための情報を集めてもらいたいしね。


「じゃあまずはリーダーを決めようぜ! 一応今は栄治さんが中心に話してるけど、

 今後は王様とかお偉いさんとかと話さなきゃいけないときがたくさんある可能性があるからさ。

 どうする? 俺としてはこういう事態の状況になった場合の予習としてアニメとかの知識が豊富だし? やっぱり知識がある人間がリーダーになった方がいいと思うけどどうよ?」


 なるほど。小太り君の意見には一理賛成できるね。

 何も知らない人が急にでしゃばって発言し、今後の行動方針が決まるのは危ない場合もあるし、人見知りので前に出るタイプじゃない人がリーダーになった場合、まともに話せない場合もあるしね。

 しかし、小太り君をリーダーにするのはなんとなくNGな気がする。


「あの……じゃあ私は栄治君に引き続きリーダーをしてもらうに一票かな?」


 委員長さんは勇者君に一票。


「え? なんで栄治さん? もしかして勇者だから?」


 小太り君はすこし不貞腐れているね。

 そりゃ勇者がリーダーって定番だしね。僕も賛成。


「いえ、自己紹介の時に栄治さんもアニメとか好きと言ってましたし、

 先ほども率先して司会役になられてましたので、リーダーにいいんではないかと思いまして」


 なるほどたしかに。率先して何かできる人ってカリスマとか持ってたりするしね。

 その後も他の人たちから勇者君を推す声が聞こえた。

 勇者君を押す声が聞こえるたびに小太り君はうーうー言っているが、多数決だし仕方ないね。


「じゃあみんなの声に応えて俺がリーダーになるね。一応臨時として、もし俺に何かあれば

 次のリーダーは光に任せたいと思うけど、みんないいか?」


 ま、それくらいならばいいんじゃないかな?

 小太り君も勇者君に何かあればリーダーになれると聞いてなんか納得してるし。

 その後ひと段落してから勇者君が切り出した。


「じゃあ今後の事だけど、王城に行くこと決定として、みんな戦える?

 誰か武道経験とかあるかな? ちなみに俺は全然ないから」


 武道経験か――ないね。そんな暇なかったし。

 他のみんなもさすがに武道経験はないよねと思っていたら、一番小さな子が手を上げていた。


「――私、ある。自宅が道場……」


 意外や意外。こんな小さな子が経験者だとは思わなかった。

 いやー人は見かけによらないね。


「おおー! 小音子ちゃんって武道経験者だったんだ! 意外ー! 何? 空手? 柔道? 剣道?」

「――さぁ?独自のぶどう? こぶじゅつ? って言ってた……」

「古武術かー! これもある意味テンプレだな! 仲間が古武術使いとか!」


 勇者君が意外そうな表情で、小太り君が興奮しながらテンプレと騒いでる。


「他に何か確認しておきたいことはあるかな?

 佳織ちゃんは……ないね? 正さんは……ないですか?

 他のみんなは……長慶君。何か質問とか確認したい事とかある?」


 僕がどう質問を出そうか迷っていたら、勇者君から指名してくれた。

 本当にありがたい。こういう時って意外と自分の意見を言うのは難しいから

 何気ない気づかいが大変ありがたいね。


「じゃあ質問するけど、みんなって神様に会った? こっちの世界に来る前にあの女神様以外で」

「――は? 何言ってのお前?」

 おや? 小太り君は会っていないのか。


「いやいや、長慶君。神様とか会ってないけど、君は会ったの?」

 勇者君も会ってないっ――と。

 他の人の反応を見てもどうやら僕以外会っていないらしい。


「じゃあ僕以外には会っていないと――うーん困ったな。

 神様が言うには還れるために必要なモノがあるみたいなんで、誰か何か情報を持っていないかなと思ったんだけど……」

「え!? 何!? 還れる!? マジで!?」

「え!? 本当に!? 本当に還れるの!?」

 僕の言葉に周りから困惑気味の言葉が錯綜する。


「僕が会った神様の言うことが正しければ、還れるはず。

 ただ詳しい還り方の方法を教えてくれなかったんだよね」


 僕も困り気味に言うと、身長さんから質問がきた。


「一応確認だけど、証拠とかあるかな?

 先ほどの女神様が言うには方法が現段階では無いみたいなことを言っていたし。

 それに急に還れると教えられてそれが嘘情報だった場合はショックだからね。」

「でたらめ言ってんじゃないのか! 自分がリーダーになりたくてとか、次期リーダーになりたいからとか。てかなんで今のタイミングで言うんだよ! もう少し前に言えよ!

 これからみんなで頑張ろうって決意を固めてたじゃん! 水差すなよ!」


 小太り君が何故かお怒りの様子で僕に詰め寄ってきた。

 しかし、タイミングと言われても、こんな情報を何時言えるかを考えてたら今のタイミングになっただけだし。

 てか地味に敬語じゃなくタメ語で怒られてるし。


「タイミングについてはごめんなさい。言うタイミングがわからなかったから今になりました。

 証拠についてはぶっちゃけありません。ただ話を聞いただけなんで。

 ただ、神様曰く自分は上の中世界の神であり、今回の召喚は中の中世界から複数世界への召喚と言ってました。

 なのでもしかしたら今この場にいるみんなも実は別世界出身の可能性がある――それぐらいしか信憑性を増す情報を持っていません。ごめんなさい」


 僕は一生懸命考えて発言した。証拠はないけど、僕が他の人と違う情報を持っていることは

 これ以外に証明できないので、これで納得してもうらうしかない。


「複数世界召喚ですか――みなさんは何月何日何曜日の何時ぐらいに召喚されたか覚えていますか?」


 聖女さんから質問が上がったが、時間に多少の誤差はあるが、どうやら同じ日の召喚されたみたいだ。


「ほら、やっぱり嘘つきじゃないのか!」

「まだ他に質問があります。少し落ち着いてください」


 血圧が上がっていたクレーマー小太り君は、聖女さんのとりなしで少し落ち着きを取り戻した。

 でもまだこちらを睨んでいる。なんでそんなに睨むのかが理解できない――還れるって良いか悪いかで言えば良い情報なのに……


「あ、ではこういう質問はどうでしょう。今現在の総理大臣の名前とか?」


 長身さんの質問は確かに誰でも回答できる問題だった。

 ただし、回答に4人の名前が上がるまでは……


「え、誰それ? そんな人与党にもいない気がするけど……」

「うそ、そっちの総理大臣の名前ってキラキラネームなんだ! 変なの!」

「これは本当に別世界の可能性が出てきましたね……」


 その後、いろいろ質問を繰り返した結果、

 僕と委員長、勇者君と魔法少女ちゃん、長身さんと小太り君と聖女さん、がそれぞれ別々の世界出身とわかり、小さい子だけは一人でこちらの世界に召喚されたことがわかった。


「どう? これで僕の話に少しは信用できた?」


 さすがにここまで状況証拠が揃うと誰も疑うまい。

 そう思っていたが、何故かやはり小太り君がかみついてきた。


「たしかに別世界があることは認めてやるよ! でもなんでお前だけに神様が個別に情報を教えたんだ?

 同じ世界の凜々花さんは教えてもらってないのに、なんでお前だけなんだよ!」


 とうとうお前呼ばわりされた僕。なんで彼が僕をこんなに嫌うのか意味が分からない。

 先ほどのやり取りでもそうだ。僕が回答した時だけ疑いの目を向け、委員長が同じ答えを言ったら納得する。

 さすがにここまで嫌われた態度を取るのであれば、こちらにも考えがある。


「ていうか小太り君。なんでそんなに怒ってるの? 還れる情報ってかなり貴重な情報だと思うけど? 君は還りたくないの? 他の人は還りたいという気持ちがある程度態度に出ていたけど、君にはまったくなかったし。まさか還りたくないから怒っているの?」


 僕がそう言うと、また小太り君は怒り出した。


「小太りって誰だよ! 名前ぐらい覚えろよ! てかそんなわけないじゃん! 還りたいよ!

 俺が怒っているのはお前が情報を隠していたからだよ! あとなんでお前だけが情報持ってんだよ!

 おかしいだろ! 勇者である栄治さんや賢者である正さんとかが聖女の沙良さんが神に会ったとかならわかるけど、剣使なあんたが神に会ったっておかしいじゃん! それに、さっき自分の世界が上の中とか言ったか?

 つまり自分は上位の世界だから神に会えて、自分より下の世界の俺らなんて気にしないってか! あっ! どうなんだ!」


 やはり小太り君は興奮しすぎて自分でも何を言っているのかわかってない気がする。

 まず、情報は隠してない、ちゃんと開示した。タイミングが遅かっただけ。情報を持っている理由は神に会ったからだし、一緒の世界の委員長が神に会っていない理由もわからないし、そもそも見下しとかもしていない。


「いや見下しとかしていないよ。それに神様に会った理由だって自分の嫁が危うく事故に巻き込まれそうになった時だし。

 ちょうど召喚される前に神様が見つけてくれて、嫁を助ける代わりに召喚された世界で魔王を倒してとお願いされてね。で、ついでにちょっと情報を教えてもらったという流れなんですけど――

 あと名前についてはごめんね?僕名前とかモノを覚えるのが苦手で……」


 小太り君は何故かビックリした表情のまま静かになった。

 周りでは勇者君も正さんもビックリしている。女性陣も小さい子を除いてビックリしている。

 何か変なこと言ったかな?


「えっ! お前結婚してるの!? 本当に!? 指輪してないじゃん!? また嘘つくかコノヤロー!」


 僕は一度も嘘ついてないのに、解せぬ。

 小太り君は本当に僕の事が嫌いなんだと改めて実感した。そして逆にこの短時間でよくここまで嫌えるなぁとある意味感心してしまった。

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