第13話 体験授業は、戦闘魔法に決めました
王立第二学院では、生徒全員が受ける基礎教養の授業と、生徒自身が選択する選択コースの授業があり、午前中は基礎教養の授業で、午後からは選択コースの授業となっている。
選択コースには『魔法コース』『研究コース』『能力開発コース』の3コースがあり、魔法コースは『応用一般魔法科』『魔法戦闘武術科』『戦闘魔法技能科』の3つの科に分かれている。
また、研究コースには『生活研究科』『歴史学研究科』『医術研究科』『魔道書研究科』の4つの科がある。
魔法コースや研究コースは、将来の目標を持っている生徒が選択しているのに対し、能力開発コースは、まだ将来の目標が決まっていない生徒のための能力開発を目的としており、様々な学問を広く教える『能力科』しかない。
1度コースを決めると、他のコースは選べ直せないので、慎重に選ばないといけないため、入学して最初の1ヵ月は、いろんな学科の体験授業が受けられるようになっている。実際に体験してから、自分の望む選択学科を決めることができるのだ。
・・・・・・
入学試験の翌日の昼休み――
私は、昨日一緒に入学試験を受けた『リックくん・エミリさん・ディアナさん』の3人と、食堂の同じテーブルに固まって昼食を取っていました。
「なあ、マセルはどの学科を見学するんだ? 僕は神聖文字の研究をしたいから当然『歴史学研究科』を見に行くんだけど、マセルも一緒に行かないか? マセルは神聖文字が読めたし、僕と一緒に『宮廷博士』を目指そうぜ!」
「私は『応用一般魔法科』を見学に行くわ。基礎魔法の上級を極められたら、上手く行けば王宮付きの魔道士も夢じゃないわ。マセルも火と風の2種類の基礎魔法が使えるから、絶対に『応用一般魔法科』がお勧めよ!」
「私は勿論『魔法戦闘武術科』を見学するよ。剣術だけでなく、いろんな武器を使った戦闘術を身に着けられるから、マセルも戦闘系の職業を目指すなら『魔法戦闘武術科』が絶対にいいと思うよ!」
「ごめん、僕は『戦闘魔法技能科』の見学に行くことに決めてるんだ」
「それだけは止めとけ!」
「そうよ! 絶対に時間のムダよ」
「忠告するよ。止めるべきだ!」
やっぱり皆から否定の言葉を浴びせられたよ。
それにしても、どうして皆、戦闘魔法をそこまで毛嫌いするんだろう?
「戦闘魔法は流行りじゃないからな。聞いた話、『戦闘魔法技能科』は生徒もほとんどいないらしいし、その内廃止されるんじゃないか、って噂されてるぞ」
「そうそう。それに、今は戦闘魔法よりも魔法剣を筆頭とした『付与系魔法武器』による戦闘が主流だからね」
「現代じゃ、戦闘系の魔法はほとんど需要がないもの。魔物退治も武器による討伐の方が間違いないものね」
皆には反対されたけど、私としてはやっぱり前世の憧れだった『戦闘魔法無双』の夢が捨てきれず、午後からは『戦闘魔法技能科』の見学に行くことにしました。
◇ ◇ ◇
あれっ? ここって『戦闘魔法技能科』の1回生の教室だと思ったんだけど……
私が入った教室には、生徒が…… いない? もうすぐ午後の授業が始まる筈なのに、誰もいないよ? 教室、間違えたのかな?
まさか噂ではなく、もう既に『戦闘魔法技能科』は廃止されたとか!?
私が教室の入口で呆然としていると、
「そこに立っていられると、邪魔」
いきなり後ろから声を掛けられた!?
「あっ、ごめんなさい」
私は直ぐに入口から離れて、声の主の方を向きました。
小さい女の子が立っていました。もしかして、私と同じくらいの年齢?
「僕はマセルといいます。昨日入学したばかりの新入生です。今日は授業を見学に来ました。よろしくお願いします!」
「ふーん、珍しいわね。私は【シンディ】、ここの2回生よ」
「えっ? ここ、1回生の教室じゃないんですか?」
「違うわ。今、戦闘魔法技能科の生徒は3人しかいないから、全員でこの教室で授業を受けているのよ」
「3人!?」
人気が無いとは聞いてたけど、ここまで少ないとは想像以上です。
選択学科は、どの学科も共通して1回生(初級)・2回生(中級)・3回生(上級)の3つのクラスがあって、普通はクラス毎に教室が分かれている筈なんだけど、これだけ少人数じゃ、教室を分ける必要がないよね。
「そ、それで、あとの2人はどうされているんですか?」
「2人は明日2回生への昇級試験があるから、今日は明日の準備をしてる筈よ」
「そうなんですか」
入学後は、全員1回生から始まり、入学して6ヶ月以上経つと、昇級試験を受けることができる。合格すると2回生に昇級でき、同様に2回生で6ヶ月以上経つと、昇級試験が受けられる。3回生で試験に合格すると晴れて卒業資格を得ることとなる。
でも、試験に不合格だと3ヶ月間は昇級試験を受けることができなくなり、しかも3度続けて試験に不合格だと降格で、1回生の場合は転科処分となり、そして転科先がなくなると退学になるので、安易に昇級試験を受けるのは危険なのです。
それでも、学院に在籍できるのは15歳までだから、卒業するために昇級試験を受けないというわけにはいかないんだ。
「その2人は、他からの転科組で後がないから、必死なのよ」
ぶっちゃけると、その2人は他の科の『落ちこぼれ』ということですか。
「シンディさんは、自分からここを選んだんですか?」
「そうよ。私は7ヶ月前にこの戦闘魔法技能科を選択して、先月2回生に上がったの。あなたは、ここを選択する気なの?」
「えーっと、そのつもりだったんですが……」
この現状を目の当たりにすると、やっぱり別の科を選択した方が良い気がしてきたよ。
「マセルっていったわね。あなた、何故こんなに魔法技能科が落ちぶれたか知ってる?」
「戦闘魔法の需要がなくなったから、と聞きましたけど」
「そうね。昔から戦闘魔法は、戦時中以外はあまり活躍の機会はなかったそうよ。だから今更『需要がなくなった』という理由は、おかしいと思わない?」
そういえばそうですね。
「本当の理由は、20年前にあった戦争が原因なの」
・・・・・・
今から約20年前、レムス王国の南方に位置するジャガル帝国が、レムス王国に対して戦争を仕掛けてきた。
レムス王国側も直ぐに軍隊を派遣し、数カ月に渡り一進一退の激しい戦闘を繰り返していたが、レムス王国側がやや劣勢になってきていた。
そこで、当時レムス王国の防衛拠点であったハムストンに、王都から1人の戦闘系魔道士が派遣された。派遣されたのは、王立第二学院の『戦闘魔法技能科』を卒業したばかりの若い魔道士―― その魔道士の放った『戦略級超魔法』により、ジャガル帝国軍は撤退を余儀なくされる程の大きな被害を受けたのだった。
『たった1人の魔道士の力が、戦況を変えてしまった』
この事が軍上層部で問題となった。
こんな魔道士が何人もいれば、軍は不要となってしまう―― その恐怖心から、軍上層部は魔道士の活躍を国王に伝えず、寧ろ魔道士のことを『魔法で町に被害をもたらした役立たず』のように報告したのだ。
その結果、レムス王国内では『戦闘魔法不要論』が囁かれるようになり、今の不遇な扱いが当たり前になったのだ。
・・・・・・
「軍によって、事実がねじ曲げられたのよ。それで、今では戦闘魔法は嫌われて『必要ないもの』扱いされているのよ」
「本当にそんなことがあったんですか!?」
「さあね…… 私が見たわけじゃなく、私のお祖母ちゃんから聞いた話だから。
でも、私の出身地は王都の南東にある【ダンカール】の町で、当時ジャガル帝国軍の被害に遭ってハムストンに避難していた人が大勢いるの。私のお祖母ちゃんもその内の1人よ」
きっとシンディさんのお祖母ちゃんは、現地でその魔道士の活躍を見たんだ!
「その魔道士は、その後どうなったんですか?」
「知らない。でも、真実が表にでないように、厳しい箝口令がしかれた程だから、その魔道士は軍に捕まっているかも」
なんて酷い! そんな理不尽な理由で戦闘魔法が嫌われたなんて!? 私、絶対に許せません!
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