第12話 入学試験は終わりました

 私達が階段を上りきったところで、目の前が眩い光に包まれました!


 そのとき、視界がハッキリとしない中で、何かの影が猛然と私達に向かって走って来るのが見えた!


 身の危険を感じた私は、急いで魔法を発動させる。


 ファイヤーボール!


 ドーン!! うげえええぇぇぇ!?


 よし! 命中したよ! 影が後ろに吹っ飛んで行くのが、光の中で微かに見えました。


「きゃーっ!?」

「先生! しっかりしてください!」

「ゴランド先生!?」


 あれっ? 今、『先生』って聞こえたような……

 もしかして、今私が攻撃したのは……


 私の全身から冷や汗が流れてきました。

 そして、すぐに視界がハッキリしてきて、嫌な予感が的中したことを知りました。


 私の前では男性が倒れていて、男性に向かって必死に呼びかけている3人の姿が見えます。


 終わった…… 私はこの瞬間、『犯罪者』になったんだ……


「やったぞ! ここは迷宮にあった礼拝堂だ!」

「ホントに戻ってこれたわ!」

「良かった! 生きて戻ってこれたよ!」


 私以外の3人は、無事に戻ってこれたことを、抱き合って喜んでいる。

 私も一緒に喜び合いたかったけど、これから私だけ、殺人の罪で逮捕されるんだ……


 折角、礼拝堂ここまで戻ってこられたというのに、何という悲運!

 不可抗力で無罪を主張したいけど、この世界じゃ、そんな言い訳はきっと通じないよね。私は何の弁解もできないまま、きっと処刑されるんだ…… 私はショックのあまり、呆然と立ち尽くしていました。


 ところが!?


「あっ! ゴランド先生! お気づきになりましたか!?」


「ううう…… いきなり火の玉が飛んできたような? はっ!? マチルダ先生! 受験生達は無事なのですか!?」


 あっ、生きてた! 私、手加減した覚えがなかったから、てっきり殺しちゃったと思ったけど、無事だったんだ!

 私は犯罪者にならずに済んだ嬉しさから、思わず涙がこぼれてきました。


「おお! お前達、全員無事だったんだな!

 私はうれしいぞ!」


 倒れていた男性が、身を起こしながら、私達に向けた言葉はとても優しかったけど、この人―― 校門ですごい横柄な態度を取って、私達に意地悪言ってた『あの教官』だよね?


 態度が全然違うから、別人?

 もしかして頭の打ち所が悪くて、人格が変わった?

 きっとそうだ! いい人になったみたいだから、『めでたしめでたし』だね!


 泣いて喜んでいた私に、女性が近付いてきました。


「ああ、皆無事だったのですね。本当に良かった…… もう泣かなくても大丈夫です。さあ、私達と一緒に神殿に戻りましょう」


 優しく声を掛けてくれた女性―― よく見ると、神官長様ではありませんか!?


 ああ、その瞬間私は全てを悟りました。


 ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン!


 6時の時報が鳴りました。つまり、ここで時間切れ……


 何度も死にそうな目に合いながら頑張ったのに…… 私達、不合格になったんだね。


「神官長様。僕達全員、不合格なのですか?」


 リックくんが神官長に訊ねました。


「僕は仕方ないですが、マセルくんは合格にしてあげてください!」

「そうです! 私からもお願いします!」

「私も2人と同意見です! どうか、マセルくんは合格にしてあげてください!」


 えっ!? リックくん、エミリさん、ディアナさん!? 3人が私のために神官長に頼んでくれている。


 この子達、めっちゃ良い子だよ!

 でも『私だけ』なんてダメだよ! ここは、(精神年齢)1番年上の私が、ビシッと文句言って、全員合格にしてもらうから!


「神官長様! この試練はちょっとどころか、普通じゃなく厳しかったです。あんなにいっぱい危険な罠が用意されていて、ゴールの『初代神官長様のお墓』まで辿り着くのは命懸けでした! どうか私達全員にお慈悲をお願いします!」


 そう言いながら、ビシッと土下座を決める私。子供のこの健気な姿にほだされない大人は、絶対にいない筈!


 私は土下座の格好のまま、数秒間固まっていました。


 あの~、神官長様? 何故、なかなかお声を掛けてくださらないのです?


「グリーマン様のお墓が…… やはり、迷宮内に…… ということは、あの予言書の破れた…… きっとそこに……」


 神官長の呟きが微かに聞こえます。何か別のことを考えているみたい。

 私が神官長の顔を下から覗き込んでいると、神官長は思い出したように声を掛けてくれました。


「あなた達が今までどこにいたのか、神殿に戻ってからじっくりと聞かせてもらいますね。さあ、あなたもおかしなポーズを取っていないで、早くお立ちなさいな」


 えーっと…… 結局私達、どうなるの?


「あの…… 神官長様。私達の試験は……」


「心配いりませんよ。全員合格です」


 神官長はニッコリと微笑んでくださいました!



   ◇ ◇ ◇



 私達は、食堂で神官長の用意してくれていた食事を取りながら、今回の試練について聞かされています。


「あの~…… つまり試練は、礼拝堂までで良かったんですか? 礼拝堂より先は、試練とは何の関係もなかった―― そういうことなのですか!?」


 神官長は頷いています。


 どうやら、私の勘違いのせいで、リックくん・エミリさん・ディアナさんの3人を危険な目に合わせてしまった―― そういうことですね……


 ううう…… 他の3人の顔を見るのが怖い。きっと私、皆に恨まれている筈……


「そうだったんだ。あまりに危険すぎたので、僕もおかしいとは思っていました」


 リックくん、ごめんなさい……


「そうよね。いくらなんでも、ひどすぎたもんね」


 エミリさん、どう謝罪すればいいのか……


「うん。私も変だと思っていたよ」


 ディアナさん、合わせる顔もありません……


「まあ、そのお陰で貴重な体験ができて、僕はそれなりに良かったけどね」

「そうね。あんな経験、なかなかできることじゃないものね」

「そうだよ。あれほど怖くて大変な体験をして、私は成長できた気がするよ」


 えっ!? まさか皆さん


「僕のこと、怒ってないの?」


 私が恐る恐る訊いてみたら


「怒ってないよ。な!」

「そうよ!」

「そうだよ!」


 ああ! この子達は天使だよ!

 私が他人のせいで『あんな目』に合わされたら、3日は怒り続ける自信があるよ……

 いいえ、これを機会に心を入れ換えて、私も他人の失敗を批難しない広い心を持ちます!


「話は変わりますが、あなた達は迷宮の奥で『お墓』を発見したのですね?」


「はい。お墓が1つありました」


 神官長の質問にリックくんが答えました。


「確か、先ほどマセルは『初代神官長様のお墓』と言ってましたよね。何故その墓が初代神官長様の物だとわかったのですか?」


「それは、本人が私に『儂は初代神官長グリーマンだ』と名乗ったからです」


「本人が名乗った!? それはいったい?」


 私は神官長に、あの残留思念との会話を思い出しながら、できるだけ詳しく話しました。


   ・・・・・・


「俄には信じられない話ですね…… ところでマセル。あなたが見たという老人は、この食堂の一番左に飾られた肖像画の人物で、間違いありませんか?」


 神官長の示された肖像画には、立派なお召し物を着た、凛々しいお姿の老紳士が描かれていました。

 私の記憶の中の『貧相で汚ならしいお爺さんの姿』とは似ても似つかないです。


「いえ、全然違います。もっと見窄らしい衣服の小汚いお爺さんでした」


「まさか! それでは、あなたが見た老人は、初代神官長様の名を語る偽者の可能性もあります。マセル、あなたが見たという老人の顔を絵に描いてくれませんか?」


 えっ!? 私が絵を描くんですか!?

 一応、お爺さんの顔は割としっかり覚えてるんですが、問題は……

 神官長の頼みですから、断れずに描きあげましたけど


「これが、あなたが見た老人? どう見ても人とは思えませんね。まさか、魔物が変化した姿!?」


 いえ、単純に私の画力が、人並み外れて酷いだけです。

 とりあえず、私が見たお爺さんが、本当に初代神官長様か判断がつけられないため、私が聞いた『あのお告げ』は、一旦他言無用の保留扱いとなったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る