第7話 入学試験は協力プレイ?
ここが試験会場ですか?
私達が連れていかれたのは、神殿みたいな建物の中―― そこには、お祈りをしている人の後ろ姿があります。
「神官長様、受験生をお連れ致しました」
さっきまで、あれほど横柄だった教官が、膝を折って頭を下げている―― ってことは、前にいる人は、すごく偉い人なんですね。
「ご苦労でした。お下がりなさい」
「はっ!」
教官は腰を屈めたままの姿勢で、神殿から出て行きました。残された私達は、ポカンと突っ立っていた―― と思っていたら、他の3人はいつの間にか膝をついて頭を下げていますよ。
私も、同じポーズをしたら良いのかな?
と考える間もなく、お祈りをしていた『偉い人』が振り向いて、ガッツリ私と目が合ってしまいました。
「ウフフ。私が声を掛ける前に目を合わせた受験生は、あなたが初めてですよ」
年齢は母と同じくらい(推定30歳)の、清楚系正統派美女が私を見て微笑んでいます。でも、目は笑っていないですよ。最初から、悪い印象を与えてしまったみたいですね。
「まあ良いでしょう。皆、面をあげなさい」
その言葉を受けて、私以外の3人は同時に頭を上げました。
あんたら、絶対打ち合わせしてたでしょ? 見事なシンクロだよ!
既に試験が始まっているなら、私だけ減点間違いなしです。
「私は、この王立第二学院の責任者―― 神官長を務める【グレシア】です。あなた達には、これから神の試練を受けてもらいます」
『神の試練』って、すごくワクワクする響きだよ! ちょっと落ち込んでたけど、一気にテンション上がってきました!
「それでは…… そこの立っているあなたに、この箱からクジを引いてもらいましょう」
立ったままで興奮していた私が、いきなり手招きされたけど、クジ引きって?
「神官長様。なぜクジを引くのですか?」
「あなた達4人が今日集まったのは、神のお導きによるものです。ですから、あなた達の受ける試練も神に決めて戴くのです。さあ、ここに来てクジを引きなさい」
理屈がよくわからないけど、とりあえずクジを引けば良いのですね? 私は、神官長の前まで進んで、彼女が持っていた箱からクジを引きました。
「これは珍しい。久方ぶりに『共同』が出ました。あなた達には、4人で協力して神の試練を受けてもらいます」
協力して試練を受けるなら、達成すれば全員合格できるのかな?
それに、皆で協力すれば、きっと楽に試練を乗り越えられるよ!
私って、クジ運良いのかな! なんて思ってニコニコしていたら
「勘違いしてはいけませんよ。試練を達成できたからといって、全員が合格できるとは限りません。試練の達成に貢献できなかった者は、不合格となります」
えーっ!? 貢献できなかったら『不合格』って、それ協力と言いながら、足の引っ張り合いが起きるのでは?
「勿論、試練を達成できなかった場合は、全員が不合格です。それに、共同用の試練は通常より厳しくなりますから、覚悟のない者は今すぐ去りなさい」
後ろを振り返ると、3人の子供達が私を睨んでいる…… 絶対、恨まれてるよ……
でも私のせいじゃないから! 恨むなら、私にクジ引きさせた神官長か、いっそ『共同』のクジを出した神様を恨んでください!
・・・・・・
「さあ、この階段を下りて進むのです。制限時間は8時間―― それまでに目的を果たして、ここへ戻って来なさい」
神官長に連れてこられたのは、神殿の地下にある迷宮へと続く階段でした。
迷宮探検―― 前世では、何度も夢想したシチュエーション!
私達に課せられたのは、この迷宮の奥にある宝箱を取って、制限時間内に入口に戻ってくる―― という、RPGの最初のイベントのような課題です。
それにしても、制限時間8時間って…… 今が朝の10時だから夕方6時まで。つまり、それだけ大きな迷宮ってこと?
しかも、迷宮に潜るのは私達受験生だけ。
これじゃあ、誰が活躍して誰が貢献できなかったのか分からないよね? と思ったんだけど、多分魔道具か何かで、私達の様子を観察してるんだろうな。
そういえば神殿には、鏡が飾られていたから、きっとあの鏡が魔道具に違いないです。
階段を下りた先に扉が見える。あの扉の向こうに、迷宮が広がっているんだ!
よーし! 頑張って攻略するぞ!
私が気合いを入れていると
「まさか、こんな役に立ちそうにない連中と、一緒に試練を受けなければいけないなんてね」
いきなり団体行動の和を乱す発言をしたのは、意外にも『お下げ髪の純朴少女』。
うわぁ…… 見た目とキャラが違う……
「ふん! それはこっちのセリフだ。お前らみたいな『頭の悪そうな』連中と、一緒に行動しないといけないなんて、最悪だよ!」
博士くん―― お前もか!
もう1人のイケメン女子も、プライド高そうだし、このままじゃ絶対に纏まらないよ……
「けんかはやめて、皆で仲良く協力しようよ。ねっ!」
私が皆の気持ちを纏めようと声を掛けたら
「そもそもの元凶は、キミがあんなクジを引いたことだ。兎に角キミらは、私の足を引っ張らないでくれよ! 特にキミ!」
イケメン女子から、思いっきり指を差される私…… 私、足を引っ張ると思われてるんだ……
ギギギギギ……
話を無視して、勝手に扉を開けたのは博士くん。協調性0ですね。
「奥は真っ暗だな……」
「明かりが要るわね。そして、ここに都合よく、火の点いてない松明が4本置いてるわ」
おお! ちゃんと攻略に必要な道具を置いてあるなんて! 神官長、優しい!
「それじゃあ、はいっ!」
お下げ髪さんが、4本の松明全部に魔法で火を点けました。
気が利くね! って思ったら
「これは、私の貢献ね」
ズルい…… 火魔法なら私も使えるのに。
他の2人は、気にせず松明を受け取って進んでいきます。文句を言う隙もなく、私も後を追いました。
先頭を歩く博士くんは、周りを殆ど気にせずドンドン進んでいきます。
松明の明かりだけでは、先は殆ど見えないし、足下はジメジメしていて歩きづらい。
もし、ここで魔物と遭遇したら、正直ヤバイですよ。武器はないし、逃げるのも難しそうだよ。
流石に、魔物はでないと思うけど、もう少し慎重に行きましょうよ?
「今、奥で何か動いたぞ?」
「まさか魔物?」
「迷宮なら、魔物が出て当然だろ」
目を凝らすと、チョロチョロ動く影が見える。ネズミ―― かな? 良かった。魔物じゃなさそうですね。
「あれは、
魔物、出るのね…… ラノベじゃお約束だけど、この迷宮―― 一応学校の敷地内にあるのに、魔物が出るって…… 考えたら異常ですよね?
「毒鼠1匹か。私が退治しよう!」
言うが早いか、イケメン女子が毒鼠に向かって走っていきます。そして――
ヒュン!
赤い閃光が走った! と思ったら、毒鼠は真っ二つになっていました。グロい……
「終わったぞ。これで私の貢献だな」
まさか松明で斬ったの!? 魔法剣、スゲー! なんだけど…… もし毒鼠が1匹だけでなかったら、どうするつもりだったんだろう?
・・・・・・
しばらく進むと、道が3本に分かれていました。分かれ道の前に看板が立っています。
右は『最短危険(×)』
左は『回り道安全(◎)』
真ん中『やや近道ちょっと危険(△)』
これ、どう見ても左の道一択ですね。態々『◎』ついてるし!
「よし! 右の道を行こう!」
博士くん、また自分勝手な! えっ? 他の2人も異存ないの? 皆、躊躇なく右の道へ行っちゃったよ……
私も、仕方なく彼らの後を追いかけました。
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