第6話 やって来ました、王都だよ!
「これが王都なんだ!」
私は馬車の中から『お上りさん』丸出しで、王都の景色を眺めていました。
そして、前世以来の久しぶりに感じる都会の雰囲気に興奮して、思わず声を出してしまいましたよ!
レムス王国の王都レムシール―― 人口10万を超す、ムセリットでも5指に入る大都市だとか。
町の中の活況さも然ることながら、何よりも私が目を奪われたのは、王都の北側に見える白く美しく燦然と輝く立派なお城! スゴイよ! 正に権力の象徴!
あのお城の中は、是非一度見学したいです!
きっと、あのお城の中では、陰謀渦巻くドロドロの権力闘争があって、悪徳大臣の策略に嵌められたイケメン王子や美貌の姫が、窮地に立たされているんだ―― などという妄想物語を頭の中で展開させていた私に、
「坊主、着いたぞ!」
御者のおじさんが声を掛けてきて、ゆっくりと馬車が止まりました。
ハムストンの町を出て、馬車に揺られて3週間――
遂に、到着しました!
私が入学試験を受ける、王都にある【王立第二学院】の校門前に!
・・・・・・
道中、凶悪なモンスターや盗賊の襲撃にあって、同乗していた大人達がガクブルしている中、只の子供にしか見えない私が、颯爽とそいつらを退治して、「なんてすごい子供なんだ!」って称賛の言葉を浴びた――
などという展開は一度も起きることなく、ただただ平穏で退屈な長旅を過ごしただけだったよ。
1度くらいは、戦闘魔法を使う機会があっても良かったのにね……
先生方からは「戦闘魔法には需要がない」と聞かされたけど、私の前世からの『魔法無双』への憧れは、そんな簡単に消えることはありません!
それに、王都の学校では『戦闘魔法を教えている』ということは、少なくとも王都では戦闘魔法にも需要がある筈なのです。
王都の学校の受験が決まってから、私はクリスくんと一緒に、コッソリと戦闘魔法の訓練を行ってきたんです。
クリスくんとメルナちゃんの家は、ハムストンの町でも有数のお金持ちで、家には憧れの【魔道書】まであります! お金持ち、羨ましいぞ!
クリスくんは、その魔道書を読んでファイヤーボールを覚えたそうで、他にも火系統の中級魔法【ファイヤーストーム】まで覚えていました。
勿論私は、魔道書を見せてもらうわけにはいかないから、代わりにクリスくんからファイヤーストームを教わったんだ。
でも、私のファイヤーストームは思ったほどの威力じゃなかったの。
それでもクリスくんよりは、ずっと強い魔法を使えたんだけど、『人間の平均の1万倍』という潜在魔力からしたら、全然物足りない威力―― 私の独学のファイヤーボールと、同程度の威力しか出せませんでした。
やっぱり『指導者がいないせい』なのかな? きっと、魔力の使い方が悪くて、実力を出し切れていないのだと思います。
魔力を上げるには、入学試験に合格して、王都の学校の先生の魔法指導を受ける必要があります。だから私は、絶対に試験に合格しなくてはいけないんです!
・・・・・・
ここ王都には、第一学院から第三学院までの、高等教育を受ける学校がある。
第一学院は貴族のご子息専用の学校で、第三学院は軍関係者の子供が通う学校。
そして、私が受験する第二学院は、学び舎の推薦を受けた一般家庭の子供が通う学校です。
王立第二学院の校門前には、私以外にも3人の子供達が立っていました。
男の子2人と女の子1人―― 皆、少し離れて立っていて、ちょっと警戒しあっている様子。一応、ライバルだものね。
見た感じ、3人共私より年上みたい。
普通は王都の学校を受験するのは、学び舎を卒業してかららしいから、私以外の3人は多分10歳なんだと思います。
「今日の受験生は4人か」
校門から1人の男性が出てきた。この学校の先生だと思うんだけど、目つきがやたら鋭くて怖そう…… 前世の高校時代の生活指導の先生みたいで、『鬼教官』といった印象です。
「受験生共は、推薦状を持って俺の前に並べ! 急げよ!」
全員走って、その教官の前に1列に並んだ。私は最後に並びました。
1番前に並んだのは、如何にも真面目そうで『博士』って渾名の付きそうな男の子。
彼が教官に推薦状を見せると、教官は推薦状を引ったくるように奪い取りました。
「1番目、お前はマピットからの推薦か…… 特技は記憶と神聖文字の解読か、ふっ」
教官? 今、鼻で笑いませんでしたか?
あなた、大人なんだから、もう少し気を使ってあげなさいよ! 男の子、ちょっと落ち込んでるよ!
続いては、お下げ髪で純朴そうな女の子。
彼女は、ちょっと恐々と教官に推薦状を渡しました。
「お前は、コーリンスからの推薦か…… ほう、特技は生活魔法4系統か」
教官の反応は、ちょっと感心したのかな?
生活魔法とはいえ、『火・水・風・土』4系統の魔法全部使えるのはすごいと思う。私は『火・風』の2系統しか使えないし。
3人目は、男の子かと思ったら女の子でした。
「3番目は、ルードルフィアからか! 特技は…… 魔法剣!」
明らかに、教官の反応が他の2人のときと違ったよ。私でも『魔法剣』と聞いたら、テンション上がるもんね!
そして私の番。緊張しながら推薦状を渡すと
「最後は…… あのハムストンか…… 特技は…… 計算? プッ」
私の推薦状を見た教官の反応は、前の3人とは全然違いますね。明らかに、私の特技を笑っていましたよね。あと、ハムストンに対する反応も見逃せません。
「まあ、いいだろう…… これから、試験会場へ行くから、全員ついてこい!」
教官が足早に校門の中に入っていくのを、私達は走って追い掛けました。
「最近は受験生の質が落ちていて、合格率は5人に1人くらいだ。前回の受験生は全員不合格だった。お前達はそうならないように気合を入れるんだな! まあ、推薦状を見た感じ、1人は確実に落ちそうだがな」
うげぇ…… 態々地方から出てきた子供に、そんな意地悪を言うなんて、最悪の人間性だよ。
でも、『確実に落ちそうな子』って…… 他の子供達は、全員私を見ているのは何故?
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