第5話
夏休み9日目。
俺とエミリーは、東京駅の22番線ホームに入ってきた新幹線に乗り込んだ。
目的地は金沢。
2泊3日の旅に出た。
昨日。
徹夜明けでの深夜テンションを引きずったまま、エミリーが、「旅行行きたい」と、言ってきた。
その時やっていたゲームが、世界を旅するRPGだったこともあり、俺はノリで新幹線のチケットを取ってしまった。
なんか、エミリーが喜んでいるし、いいか、なんて思っていた。
今日、エミリーが喜々としてチケットを見せてきたときは、とても驚いた。
何はともあれ、取ってしまったものは仕方がない。
俺は旅行を楽しむことにした。
「ゆきやー、キノコどこ入れたー?」
新幹線が駅を出た。
出発前に買い込んだお菓子をテーブルに広げる。
「はい、キノコ」
お菓子の山の中からキノコの山を手に取りエミリーに手渡す。
「ありがとー」
そう言ってエミリーは、キノコの山が入っている紙箱を開けて、景色を見ながらポリポリ食べ始めた。
「ひゃべる?」
キノコを一本、口にくわえながら、エミリーがキノコの山を差し出してきた。
「あぁ、もらうよ」
エミリーからキノコを受け取って、ポリポリ。
うまい。
流れていく外の景色をぼーっと眺めながら、ポリポリ。
ほのぼのとした時間を過ごせた。
『間もなく、終点金沢です。北陸線、七尾線――』
あっという間に金沢についた。
横を見ると、エミリーが窓際に淵に手をついて、まだ居眠りをしていた。
「エミリー、起きろー。金沢ついたぞー」
「ぬぅー……」
声をかけても全く起きる気配がない。
「背負っていくか……」
幸い、荷物はキャリーケース1つに収まったので、ギリギリ移動はできる。
「よいしょ、と……」
エミリーを背負って、俺は金沢に降り立った。
金沢駅から電車を乗り換え、駅からタクシーに乗った。
タクシーが走り出すと、
「ぅう……?」
エミリーがやっと起きた。
「おはよう、エミリー」
「おはよぁ……、ゆきや……」
「もうすぐ宿につくから、もう少し寝てていいぞ」
「そう? ありがと、おやみぃ……」
そう言うと、エミリーは俺の肩にもたれかかって寝始めた。
「お客様。お部屋はこちらになります」
『おおー』
旅館に着いて、女将さんに通された部屋は、きれいで景色もよく、思わず声が出てしまった。
大きな窓からは、とてもきれいな街並みが一望できる。
客室は畳で、ザ・和風といった感じの旅館だ。
「それでは、ごゆっくり」
客室の説明を終えると、女将さんはそっと客室から退出していった。
女将さんが、完全に部屋から出ていくと、
「ぃやっほー! 旅館だぁ!」
ひと眠りして元気になったのか、エミリーが叫んだ。
しばらく部屋でゆっくりと過ごした。
すると、エミリーが、
「そろそろ、お風呂……入る?」
「……っあぁ、そろそろ行くか」
謎の緊張が、二人の間に走る。
理由①:この部屋を予約したのはエミリー。(いつもは俺が予約などをやる)
理由②:この部屋には、部屋風呂(温泉)が付いている
理由③:一昨日の旅行の準備をしていたとき。
『エミリー、先に風呂入るか?』
『……一緒に入る?』
『……。入るわけないだろ……。早く入ってこい』
『えー? 入らないのー?』
『はいはい、もう行った行った』
エミリーがリビングから出て行った。
部屋で一人になった瞬間、自分の心臓の音が止まらなかった。
『……俺が入るって言ってたら、入っていたのか……?』
え、これ一緒に入ろって言われてる?
誘われてる?
っていうか、俺が緊張するのはわかるんだけど、エミリーも顔赤くない?
やっぱり誘われてる?
男子高校生の思考は、そっち側に向かって一直線だった。
「―きや。ゆきや、幸也!」
「っな、なに?」
気が付くと、目の前にエミリーの顔があったので、驚いた。
「さっきから何回も声をかけてるのに、幸也全く気付いてなかったよ」
「あ、あぁ。ごめんごめん」
「それで、幸也、私先にお風呂入るね?」
「え? あ、あぁ。わかった」
「ん。じゃあ、入ってきまーす」
そう言って、エミリーは、着替えを持って風呂場へ入っていった。
「……考えるだけ無駄だったな」
少しがっかりしている自分がいた。
まぁ、まだ俺も子供、ということだ。
Side:エミリー
「はぁ……」
さっきからずっと顔が赤いのがわかる。
「まさか、幸也にばれてたなんてなぁ……」
今回の旅行で、この部屋を予約したのは、そういうこと、に誘おうとしたのだ。
私が風呂に誘うと、幸也は考え事を始め、ぶつぶつとつぶやき始めた。
呟きは、「誘ってるのか……? これは、誘っているのか……?」と、ずっと繰り返していた。
それを聞いて、私は急に恥ずかしくなってしまった。
今日一日、私はどうやって誘おうか、ずっと考えていた。
できるだけ平静を装うために、新幹線の中でずっと寝たふりをしていた。
起きるタイミングを計っていたら、幸也がおんぶしてくれたので、そのままタクシーまで背中に乗せてもらった。
タクシーの中で起きたふりをしたが、奇跡的にもばれて無いようだ。
少しわざとらしかったかと思ったが、私が思っていたより幸也は鈍感だったようだ。
「はぁ……」
思い出すだけで、頬が火照ってくる。
そろそろ、出ますか。
ザバァ、と湯船から出て、脱衣所への扉を開けた。
『えっ?』
幸也と、目が合った。
私は、全裸であった。
「――ッぁ」
「うわっ! ごめん!」
私よりも先に、幸也が大きな悲鳴を上げ、どたばたと脱衣所を出て行った。
久しぶりに幸也が焦ってるところを見た気がした。
幸也、可愛いなぁ。
なんだか初めにあった時を思い出した。
私は妙に安心して、タオルを手に取った。
金髪ツインテールの彼女と付き合い始めて一年が経ちました。 360words (あいだ れい) @aidarei
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