特別編 『一年前、クリスマス』
これは、去年のクリスマスの話。
二人暮らしを始めたばかりのころの話。
「うーん……」
俺は今、雑貨屋さんで、エミリーへのクリスマスプレゼントを探していた。
俺たちが付き合い始めてから、初めて贈るプレゼント。
一体何をあげたらいいのか、全くわからない。
依乃李に相談したら、この雑貨屋さんを紹介されたので、来てみたが、勝手が全くわからない。
たぶん、エミリーは何をあげても喜ぶのだろう。
でも、だからこそ、ちゃんと選んだものを、プレゼントしたい。
「うーん……」
こうなっては、助っ人を呼ぶしかない。
俺は、スマホを取り出して、電話を掛けた。
プレゼント選びのプロ、女心マスター、桜田理央に。
「おう、幸也。お前が呼びだすなんて珍しいな。何の用だ?」
理央は、五分ほどで雑貨屋へやってきた。
「理央、俺に、プレゼント選びを教えてくれないか?」
「いいけど……、一体誰にあげるんだ? 依乃李ちゃんか?」
「いや……、違う」
そう言えば、俺はまだ、誰にも彼女ができたことを言っていなかった。
「理央、これは誰にも言わないでくれよ?」
「お、おう……」
「俺、彼女できた」
「は? マジ?」
「マジ」
「マジかぁ……。え、じゃあ、相手は依乃李ちゃんじゃないの?」
「あぁ」
「……。それは、依乃李ちゃん知ってるのか?」
「いや、多分知らない。っていうか、今、初めて人に話した」
「マジかぁああああああ……‼」
「?」
なぜか理央は、頭を抱えて嘆いている。
「それで、その彼女さんにあげるクリスマスプレゼントを、一緒に選んでほしいと」
「頼む。俺、付き合うのが初めてで、全然わからないんだ」
「プレゼント、ねぇ……。俺、こういうやつは、直感が一番だから、ビビッと来たものを選ぶんだよなぁ……」
さっきの話をしてから、理央はテンションが少し下がったように思える。
「何か、プレゼントの候補はあるのか?」
「あぁ、何か、身に着けられるものがいいと思ってる」
「なるほどなぁ……」
そう言いながら、理央は雑貨屋の中を歩き回る。
「そうだなぁ……、ネックレスとか、指輪みたいな、アクセサリーとかどうだ?」
「アクセサリーか……」
アクセサリーの棚から、一つを手に取ってみる。
「うーん……」
「あんまり良くない?」
「あぁ……、なんか似合わない気がする」
ネックレスはとてもいい感じだったのだが、エミリーにはあまりに合わない気がした。
ああいったものが似合うのは、もっと大人っぽいというか、クールな感じのする人だ。
「そうか、じゃあ、ヘアピンとかはどうだ?」
「うーん……」
理央が見せてくれたヘアピンは、とても可愛いものだったが、なんだろう。
「これをつけている姿が想像できないっていうか……」
「そうかぁ……」
その後も、理央はたくさんの小物を見つけては、俺に見せてくれるが、理央の言う、ビビッと来るものはなかった。
それから、一時間ほど理央に付き合ってもらったが、結局ビビッと来たものはなかったので、
一度休憩することにした。
駅近くのカフェで、二人でコーヒーを飲む。
一息ついて、しばらくたつと、理央が話を切り出してきた。
「なぁ、さっきの話だけど、お前の彼女ってどんな人なんだ?」
「どんな人って?」
「いやさ、俺全然お前がデレデレしているところが想像できないんだよ」
なるほど。どういう人が彼女になったのか気になるってことか。
「そうだなぁ……。一言でいうと、可愛い、かなぁ」
「へぇー、かわいい系なんだ」
「いや、なんかかわいい系じゃなくて、可愛いなんだよ」
「なんか違うのか?」
「わからない」
「なんじゃそりゃ」
「でもな? ふと、二人きりの時に、彼女のほうを向くとさ。俺に向かって笑うんだよ。最高にかわいいだろ」
「……。そうか……」
なんだか、理央が胸焼けしたような顔をしている。
「まぁ、お前がデレデレなのはわかったけどさ」
「あぁ」
「その大好きな彼女に、お前が単純につけてほしいものを、贈ればいいんじゃないか?」
「え? そんなのでいいのか?」
「そりゃ、な。プレゼントってそういうものじゃないのか? 俺はそうやって選んでるけど」
なんだか、俺は少し難しく考えていたらしい。
俺は、俺の、大好きなエミリーに。
なんだか、頭の中でピースがはまった気がした。
「理央」
「なんだ?」
「ちょっと、買ってくるわ」
そう言って、俺はカフェを出た。
そして迎えたクリスマス・イブ。
俺とエミリーは、クリスマスデートをしていた。
「なんだか、久しぶりだったな。こういうちゃんとしたデートって」
「そう、ね」
俺らは、夕飯をレストランで取り、今はその帰り道だ。
なんだか、お互いそわそわしている。
プレゼントを渡すなら、今しかない。
『あのっ!』
ハモった。
「あっ、ゆ、幸也、先にいいよ」
「お、おう。あのさ、エミリー」
「は、はい」
「メ、メリー、クリスマス!」
そう言って、バックから取り出した紙袋をエミリーに渡す。
「わ、私も! メリークリスマス!」
そう言って、エミリーもバックから取り出した紙袋を渡してくれた。
なんだか、こうやって改まって、プレゼントを渡しあうと、気恥ずかしいものがある。
「あ、俺のプレゼントは、家で空けてくれない?」
「わ、わかった」
今、目の前で空けられるのは、ちょっと耐えられないかもしれない。
俺とは正反対に、
「い、今開けてもらって、いい?」
エミリーがそう言ってきた。
エミリーのくれた袋を開けると、手袋が入っていた。
「マジか、ありがと!」
なんか、手袋をくれたのもうれしいが、俺のために選んでくれた、と、想像すると、とても嬉しい。
エミリーのほうを見ると、つけて欲しそうにじっとこちらを見ていた。
テンションの上がっていた俺は、いいことを思いついた。
「今はつけねぇわ」
そう言って、俺は包み紙に手袋をしまった。
「え、何―――」
困惑したエミリーが、こちらを向いた。
俺は、エミリーの左手をつかんだ。
「今日は、こっちがいいや」
「っ……!」
エミリーの顔が、これ以上ないほど、赤くなっていた。
「恥ずかしいこと、やらないでよ、幸也……」
そう言いながらも、エミリーは手を放すことはなかった。
俺たちは、そのまま、家までずっと手をつないで帰った。
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