命題17.夜王 クロノス 1

 エドアルドさん、お元気ですか? こちらは梅雨が明けました。

 去年の今頃はカーバンクルの一団の治療を必死に手伝っていました。とはいえ、あの時の私にできる事なんてとても少なくて、歯痒い思いをしていました。

 アダムスの弟子になって二カ月。覚える事はとても多いですが、これからの目標ができた今、毎日がより楽しいです。


 同じく弟子になった吸血鬼のテオは、睡眠時間が私たちより短くても平気な分、知識の吸収がとても早いです。私もよく教わる事が多くて、頼れる先輩です。

 夜の番をしてくれているので、アダムスも私も夜中はぐっすり眠れます。

 恋人のマルテさんは、出産は夏から秋の始め頃だろうとの事です。お腹も膨らんできました。

 二人は出産や子育てを、安全な精霊の森ですることになりました。外の世界での子育てはあまりに危険すぎるから……。

 そこで、治療院が一体になっている巨大樹と精霊たちに、彼らの家を造ってくれるように頼んだんです。

 治療院の東側の木の根と一体になって、素敵なおうちができました。今、二人はそこに住んでいます。

 家具や小道具なども少しずつ揃えていて、素敵なお部屋ですよ!

 特にマルテさんは定住できる事に大喜びです。このまま何も起きず、無事出産まで終わったらいいなと思います。


 治癒術を扱えるようになるには、まず魔力を上手く扱えるようにとの事で、実践的な部分はフィルルさんに見てもらっています。

 アダムスはまだまだ忙しいのと、基礎中の基礎ならフィルルさんでも教えられるから、との事でした。

 これはここだけの秘密ですが、不老不死について話をされてから、ちょっとだけ怖い――というか、苦手な印象があったのです。でも、もっと親しく話してみると、本当に気さくであっけらかんとした人でした。

 緊張していた分、なんだか拍子抜けと言うか――大魔術師というのは、あぁいうものなのでしょうか?


 フィルルさん、まだまだ寝ている時間も多いですが、起きて散歩できるくらいには元気になりました。

 子犬姿の狼王ろうおうさんを連れて、ヴェルデリュートさんやブロスケルスさんとお話している所もよく見かけます。

 アダムスはもちろん、治療院に立ち寄ってくれるルヴァノスさんとも。

 ランプの皆さんと話している時のフィルルさんは、とても優しい目をしています。


 そういえば、ロメオさんと吸血鬼のジュリエッタさんとも会いました。

 あの二人、喧嘩ばかりだけどとっても仲良しですね。私の胸に埋まった維持装置の点検に来る時も、必ずジュリエッタさんが一緒に来てくれます。

 フィルルさんが死霊と戦ってツリーハウスに落ちた時に大穴が開いたも修理して、とアダムスが頼んだ時は、ロメオさんはとても文句を言っていました。「俺は便利屋じゃねぇぞ!」って言いながら直してくれるんですよね。

 テオさんとマルテさんの赤ちゃん用のベッドや小道具をお願いされた時も、「俺の専門じゃねぇよ!」と言いながらたくさん相談して、今造っている所です。

「なんだかんだ言いながらやってくれるんですね」と言ったら、ちょっとぶすくれながら「なんでも経験しておくと力になるから」と言ってました。


 そうそう、そんなロメオさんがすごい発明をしたんです!

 口止めされているので詳細はお伝えできないのですが、本当に、彼は天才なんだと思いました――



「ステラ!」


 バンと勢いよくドアを開く音と、ジュリエッタの軽快な声が、ステラの走らせるペンを止めた。

 文字の端に小さなインク溜まりを作りながら、合成獣キメラの少女――ステラは顔を上げる。


「あら、手紙の邪魔しちゃった? 今日は天気がいいから、庭先にテーブルと椅子を並べてみんなでお茶会しようって話になったんだ。ステラも来るでしょ?」

「えぇ、もちろん!」


 ペンとインクを手早く片付けるステラの姿に、吸血鬼ジュリエッタは肩まで切り揃えたカツラの金髪を揺らしながら、にっと笑った。

 その首には、瞳と同じ紫色の魔法鉱石が輝くチョーカーが着けられている。


「さ、早く行こ!」


 吸血鬼であるはずのジュリエッタは、日中の、しかも晴天にも関わらず、人の姿を保ったまま外へと駆け出した。

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