第54話 俺はみんなにいじられる
「ゲームセット! ウォンバイ
審判の声が響いて、月宮の勝ちを告げた。
俺たちは今、観客席で月宮の試合を応援をしていた。
丁度試合が終わり、結果は月宮の圧勝。
さすが、テニス部期待のエースといったところか。
「
俺の右隣に座る愛美が身を乗り出し、月宮に聞こえるようにそう言った。
「ちっ。スポーツできてイケメンとか反則だろ……。やっぱり僕とは人種が違う」
左隣に座る黒崎はなにやらぶつぶつと呟いていた。
「どうだった
愛美が姫川さんにそう訊いた。ちなみに、愛美の右隣に姫川さんが座っている。
「はい! とてもカッコ良かったです! 影谷さんとは大違いでした!」
「ねえ、なんでそこで俺の名前を出したのかな姫川さん?」
「あ、影谷さんいたんですか? すいません。見えてませんでした」
「ほんっとブレねえな姫川さん‼」
俺はツッコむ。
神社での一件で姫川さんの俺に対する評価は上がったと思っていたのに……。あれはなんだったんだ。夢か。そうか夢だったのかもしれない。
「まあまあ、真莉愛ちゃん。あんまり
「愛美さんが言うなら……まあ、私は何も言いませんけど」
愛美にいなされると、姫川さんは渋々口を閉じた。
「黒崎君は、今の陽のプレイどう思った?」
突然愛美は黒崎に話を振り、にっこりと微笑んだ。
ばかやろう! 一度もモテたことがない男子にその笑顔は危険すぎる!
「ふぇっ!? ぼ、ぼぼぼぼぼ僕でしゅか!? ぼ、僕は、えっと……」
ほら見たことか! 黒崎めちゃくちゃ挙動不審じゃないか!
しかし、これも黒崎の成長のため。俺は傍観する。
「うんうん。私、黒崎君の感想も聞きたいなっ」
こういう感じで、モテない男子は愛美に惚れていくんだろうなぁ……。気持ちはわかる。
「ぼ、僕は……おい影谷助けろっ!」
黒崎は俺に耳打ちしてきた。
「この流れで愛美と友達になればいいだろ!? せっかく愛美の方から話題振ってくれたんだから!」
「無理だっ! ハードルが高すぎる!」
「そんなことないだろ! 質問に答えればいいだけだろうが!」
こそこそと俺と黒崎は会話する。
「ちょっとー? なに二人でこそこそ話してるの?」
「はっ……!? 影谷さん、まさか堂々と浮気ですか!?」
「え……!? 隼太君が黒崎君と浮気!?」
「してねえ! 姫川さんは話をややこしくする事言うんじゃねえ! 愛美もなんで簡単に信じてるんだよ‼」
「いやぁ、隼太君って実はホモなのかなぁ……と」
愛美は髪の毛先をいじりながら言った。
「ホモじゃねえ‼ 黒崎もなんか言ってくれよ!?」
俺は黒崎に助けを請う。
「実は僕、前に影谷に思い切り抱き締められたことがあるんだ……。もしかしたら、影谷はホモなのかもしれない……。僕はホモじゃないけど!」
「黒崎ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!? 裏切ったなてめぇ!!」
せっかく今まで姫川さんに口止めしてきたのに、黒崎がそれをバラしたら全て水の泡だ。俺の苦労はなんだったんだ……。
「隼太君……! やっぱり隼太君はホモだったんだね!?」
「違う! 違うぞ愛美! 俺は愛美を愛してるぞ!」
「嘘です! 愛美さん、騙されてはいけません! 証拠の写真もあります!」
姫川さんがスマホを取り出し、証拠の写真とやらを愛美に見せようとする。
証拠の写真とは、前に姫川さんが撮った俺と黒崎が抱擁している写真のことだろう。
「おいぃいいいいいいいいいいいいいいい‼ それは秘密だって約束したよなぁ!?」
俺はそう叫びつつ、姫川さんのスマホを奪い取りに行く。
「きゃあ! 影谷さんに襲われてしまいます!」
「隼太君!? 黒崎君だけでなく、真莉愛ちゃんにまで手を出すっていうの!?」
「ちっがーーーーーーーーーう! 俺は黒崎にも姫川さんにも手を出してねえ!」
「くっ……。僕はあの日、影谷に抱きつかれた日の事を一生忘れることができないだろう……。影谷は、僕の初めてを奪ったんだ!」
「隼太君!? どういうことなの!?」
「おい黒崎! それはアレだよな!? 僕の初めてっていうのは、初めての友達って意味だよな!? さらなる誤解を生むような言い方はやめろ‼」
俺は息を切らしながら、全力で誤解を解きに行く。
「あのさぁ……。どうでもいいけど、お前らもうちょっと静かにしてくれない?」
その時、誰かから声をかけられる。
声がする方へ振り向くと、試合を終えた月宮がジト目で俺たちのことを見ていた。
どうやら、いつの間にか月宮は観客席まで足を運んでいたらしい。
「月宮! 頼む! 俺を助けてくれ!」
「いや、そもそもこれどういう状況だよ……。お前ら俺を応援しに来たんじゃないの?」
月宮は俺たち四人を一瞥する。
「す、すまん。試合してる時はちゃんと応援してたんだ」
俺は月宮に謝罪する。
「まあ……試合中は、応援の声は聞こえてたけどよ。特に女性陣」
「はい! 私、頑張って月宮さんを応援しました!」
姫川さんは月宮にアピールするようにそう言った。
「私も陽のこと応援してたからね!? 真莉愛ちゃんに負けないくらい!」
張り合うように愛美がそう口にする。
なんだこれ。まるで月宮がモテモテみたいじゃないか。まあ、実際月宮はモテるんでしょうけどね! ちくしょう!
「おう、姫川も愛美もサンキュな。それと……」
月宮はチラリと黒崎を見る。
「黒崎も、応援に来てくれてありがとな」
「お、おう……」
月宮が爽やかに笑いかけると、黒崎は目を逸らしつつ答えた。
「いや俺は!?」
自分の顔を指で差しつつ、俺は訴える。
「ああ、影谷いたのか?」
「そのくだりさっきもやったからね!?」
「へへ。冗談だよ。俺、次の試合勝てばベスト4進出なんだ。だからみんな、応援よろしくな」
「はい! 次も全力で応援します!」
姫川さんが食い気味に告げる。
「陽、優勝できるといいね」
「……ああ」
愛美と月宮は目を合わせ、微笑み合う。2人の間には、俺や姫川さん、黒崎にはわからない何かがある気がした。
俺はその時、姫川さんの表情を見ることができなかった。見たくなかった。
「一応僕も、応援してるよ」
「ああ。黒崎も応援頼むな」
「俺も応援してるよ、月宮」
「わかってるよ、影谷」
そう言って俺たちは、月宮を次の試合へ見送った。
月宮も、かなり張り切っている様子だった。
――だけど、月宮は次の試合で敗退した。
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