第53.5話 僕を気にかけてくれる人
僕──
僕は自身のスマホで、最近インストールしたLINEというアプリを開く。
そのアプリは、簡単に言えばメールの進化系みたいアプリだ。……いや、この言い方逆に分かりづらいか?
僕のLINEに登録されている友達は、たった1人だけ。
──
僕は彼との個人チャットを開き、もう駅前に到着したという旨のメッセージを送信する。
すぐに既読がつき、返信が来る。
『今向かってる。もう少し待って』
現状を伝える簡素なメッセージだ。
「……はぁ」
僕は大きなため息を
なんで僕が、大して仲良くもないクラスメートの応援なんかしなくちゃいけないんだ……。
そうは思いつつも、結局駅前まで来てしまったわけだから、今更引き返すことはできない。
それに……多分僕は、わずかに期待していた。
今日という日をきっかけに、影谷以外にも友達ができないだろうか……と。
「……はぁ」
もう一度大きなため息を吐く。
ため息を吐く度に幸せが逃げているというのなら、きっと今頃僕は死んでいてもおかしくない。
そう思っても仕方ないくらい、僕はこれまでの人生で幾度となくため息を吐き、幸せとやらを外に逃がしてきた。
……だから僕は、今までずっとぼっちだったんだろうか。
そんなことを考えながら、遠くの景色を眺める。
それから、視線を徐々に近くの景色へと映していく。
──すると。
僕が視線を向けた先に、クラスメートの
相変わらず、目立つ金色の髪をしている。
ってか姫川さん、なんで駅前に1人でいるんだ? 誰かと遊びにでも行くのか?
誰かと……遊びに……。
『因みに黒崎、当日は多分、
……そういえば、影谷が姫川さんもテニス部の応援行くって言ってたな。
………………あれ? それってつまり?
僕と姫川さんって、目的地が一緒?
それどころか、待ち人も一緒なのでは!?
僕はポケットからスマホを取り出し、影谷にメッセージを送る。
『なんか駅前に姫川さんいるんだが! もしかして姫川さんもお前待ちか?』
親指でさささっと素早く文字を入力する。
送信してから数秒で影谷からの既読がつくと、
『あれ? 言ってなかったっけ? そうだよ。姫川さんも俺ら待ち。一緒に行くことになるから、暇だったら姫川さんと話してなよ』
なぁにが「言ってなかったっけ?」だよっ!! あいつ、絶対わざとだろ! わざとこういう状況作っただろ!
あのクソ野郎!! 女子と話すのは僕にはハードルが高いって前に言ったはずだろ! あいつが僕をどうしたいのか知らないけど、ありがた迷惑なんだよっ!
……まあ、別に影谷の言うことに無理に従う必要もない。
ここは、姫川さんのことなんて何も気づいていないフリをしてやり過ごそう……。
と思った矢先。
僕は、姫川さんと思いっきり目が合ってしまった。
……………………。…………オワタ。
あ~あ、目が合っちゃったよ。これで姫川さんに気づいてないフリ作戦できないよ。
……まあ、どうでもいいか。
クラスメートと目が合ったからなんだよ? たった一言も話したことがない、言わば他人と一緒だ。
姫川さんと話す必要性なんてない。
『別に無理に仲良くなれとは言わねぇよ。でも、せっかくのチャンスを挑戦すらしないで逃すのは、勿体なくねぇか?』
その時、影谷から言われた言葉が頭を過ぎる。
それでも、僕は……。
「よっ! 黒崎!」
突然僕の後ろから声がして、僕は驚いて声がする方へ振り向く。
そこには、影谷がいた。
「……影谷」
「やっぱ黒崎には、姫川さんに話しかける勇気はなかったか」
「あぁん? 煽ってんのか?」
僕は影谷を睨む。
「でも事実だろ?」
「くっ……。まあ、事実だが」
僕がそう言って俯くと、影谷は僕の隣に座った。
「あれ? 影谷、お前は彼女と一緒じゃないのか?」
影谷の近くには、彼の彼女である
「愛美なら、姫川さんに挨拶してくるってよ。ほら、あそこ」
影谷が指差した方角を見ると、姫川さんと太陽さんが雑談していた。
「ふんっ。僕なんかに構ってないで、あっちへ行ったらどうなんだ?」
「バーカ。俺がお前を見捨てるわけねえだろ」
「……お前のそういうところが嫌いだよ」
僕は影谷に聞こえない声量で呟いた。
「ほら、愛美と姫川さんが俺たちに手を振ってるぜ?」
影谷の言う通り、二人の美少女は僕たちに手を振っていた。
「でもアレは、影谷に手を振ってるんだろ? 僕のことなんて気づいてないさ」
「愛美と姫川さんには、今日黒崎もいるってことをついさっき伝えたから、そんなことはないと思うぜ?」
「ついさっき伝えたのかよ……」
「まあ、見てろって」
「……どうせ、僕の事なんて見てないさ。二人とも」
そう思っていると、遠くで手を振っていた太陽さんたちが、僕らに聞こえるように叫んだ。
「おーい! 隼太くーん! 黒崎くーん! 二人もこっちおいでよー!」
「黒崎さーん! 影谷さんなんてほっといて、私たちだけで行きましょー!」
僕は目を見開いた。
太陽さんと姫川さんは、僕の名前を呼んでくれたのだ。
僕の存在に、気づいていたのだ。
ベンチに座っていた影谷は立ち上がり、僕を見る。
「ほらな。愛美も、姫川さんも、ちゃんとお前の事を気にかけてくれるんだよ。行こうぜ、黒崎」
そう言って、影谷は優しく微笑んだ。
「……ああ、そうだな」
僕はベンチから立ち上がり、駅のホームへ向かった。
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