第2話

いつからだろう?

好きなものを素直に言えなくなったのは、

そして好きなものがわからなくなったのか


毎日、四角い箱に他人と共に詰め込まれ

社会の歯車となり、愛想笑いが貼り付いて

何が楽しいかもわからなくなっていた

家に帰り、ただ次の日を迎えるために

お風呂に入り、寝る準備をする。


そして、真っ暗な部屋で世界を広げる。

流れてくるのは、可愛らしい犬と聴いたことのない世界各国の音楽番組だった。


元々、ダンスと音楽が好きだった。

言葉が通じなくても、洗礼された音に合わせ独特な世界を作り出す人々が好きだった。


いつもと同じように寝る前の儀式として、

別の世界を覗いていた。


その日、流れてきたのは女性の声だった

正確な言葉はわからないがどうやら恋の歌のようだ

この世界は、恋の歌で溢れている

恋の歌は好きだが感覚はおとぎ話に似ていた

歌のように誰もが誰かに夢中になり、

周りが見えなくなるなんて幻想だと

心の何処かで嘲笑っていた。


しかし、その歌声を聴いた瞬間に心が弾むのを感じた。

誘うように女神が微笑みかけるような歌声。

熱く焦がれるような思いを込めた歌声。

同じ曲の中で声と声が溶け合い混じり合うことにより生まれるハーモニーと世界。


引き込まれるのに三分もあれば十分だった。


目を閉じ、夢の世界へ行く為の儀式であったはずのそれが夢の世界への切符を剥ぎ取り

新たな世界へと誘うには十分だった。


画面に映し出される女性は四人

各々特徴があり、とても美しく輝いていた。


一人目は、とても細い体から考えられないようなパワフルな声を出したかと思えば繊細な歌声を披露していた。


二人目は、他の三人に比べ色黒で黒いパールのような妖艶な雰囲気を出し、声は見た目に反しカナリヤのように高く美しかった。


三人目は、美しい歌声を存分に発揮し、キレのあるダンスで周囲を魅了するようだった。


四人目は、可愛らしいさと美しさを絶妙なバランスで保ち、色気のある歌声の中に、決して触れてはいけないような背徳感を抱くような声をしていた。


彼女達の作る世界にいつの間にか迷い込み、同じ曲を何度も再生しているうちに、時計の針が回転していた。


このままでは、明日に差し支えると無理やり目蓋をとじるが頭の中には、

先程から繰り返し聴いていた歌声が流れ続けていた。

明日のことを考えるといつもなら焦るのに

心が久しぶりに心地よく弾むのを嬉しく感じた。







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ソラ 時計ほっとけ @pooh_1121

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