第7話 旅人と地獄
自分の考えが甘かったと理解できたのはその直後であった。
辺境の兵士さえも駆り出した戦闘というのは、俺の想像以上に激しいものであったようで、とにかく、俺の周りの人間が死にまくった。
俺自身、なるべく戦闘に参加しないようにしたかったのだが、号令がかかれば突撃しなければいけないし、武器を使用しなければいけないわけだ。
剣を振るい、槍を突き立てる……無限に続く殺し合い。ちょっと前まで変わった旅人と間抜けなやり取りをしていたのが嘘みたいな地獄だった。
ただ、戦場で突撃しているときに俺の脳裏に浮かぶのは……あの青い宝石のような瞳だ。アイツは元気だろうか……今日も旅をしているのだろうか、なんてそんなことを考えたりしてしまった。
また、不幸にも俺は腹に思いっきり飛んできた矢が突き刺さった。なんとか応急処置はしてもらったが……正直、めちゃくちゃ痛かった。
何度目かの敵陣地への突撃の後で、膠着状態になったようだ。
おそらく、このままお偉いさん同士で一旦休戦……なんてことになるだろう。戦争なんてのはいつもそんな感じだ。
「おい」
俺がそんな事を考えながらぼんやりしていると、上官が声をかけてきた。
「え……なにか?」
「貴様はお役御免だ。自身の勤務地に戻ってもらう」
戦闘が集結していないのにお役御免? 早く帰りたいのに帰れないのが戦争だというのに流石に俺も疑問に感じた。
「……なぜです?」
俺が聞くと上官は答えにくそうに顔をしかめた後、哀れみに満ちた目で俺を見る。
「……貴様が門番をやっていた街なのだが……全滅らしい」
「……全滅……って、なんですか?」
「……辺境の地だと思って疎かにしていたのが悪かったようだ。敵が街を蹂躙し、家々は焼かれ、民は殺されるか、捕虜として捕まったらしい」
よく理解できなかった。ただ、なぜか俺はその話を聞いたとき、道端に咲く白い花と、青い瞳と金色の髪を思い出した。
アイツ……通行証なんて持ってきてないよな?
まさか、街の中に入っていたり、しないよな?
そう考えると居ても立っても居られなかった。俺はそのまま走り出した。
「おい! 今から行ってももう敵も去ったあとで、街は瓦礫の山だぞ!」
背後からの上官の言葉はよく聞こえなかった。とにかく、俺はあの退屈な日々が待っているはずの街へ急いだのだった。
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