第6話 旅人と戦場への道
「……アイツ、来なくなったな」
それから数週間経ったが、あの旅人は姿を現さなくなってしまった。
俺が悪いといえば悪いのかもしれないが……実際、アイツが見せてきたのは明らかに偽物だったわけだし……
しかし、変なヤツが来なくなったら来なくなったでまたしても退屈な日々が戻ってきてしまった。
「……それはそれで、暇だな」
俺はそう思いながらも毎日を過ごしていた。街へ入ろうとする人物も少なく、適当に仕事をこなす、いつものような日々……それがずっと続くと思っていた。
思っていた……のだが。
「……マジか」
そんな予想はいきなり崩された。ある日、俺のもとに一通の手紙が届いた。手紙を要約すれば……戦場への招集であった。
俺も門番とはいえ、一応兵士である。よって、国が戦争をすれば招集されるのだ。
といっても、こんな辺境の街を守っている門番まで招集するとなると……戦争はかなり激しいものであるようだ。
「……仕方ない。命令には従わないとな」
俺は戦場へ赴く準備をすることになった。門番がいなくなっては困るので、街で腕っぷしの強い男に代役を頼むことにした。
代役といっても、おそらく、こんな辺境の街だったら、戦火が及ぶこともないだろうし、門番なんてそもそもいなくてもいいのかもしれないが。
……というのはいつも俺が思っていることだったが、まさかそれが実現するとは思わなかったが。
そして、あっという間に俺が戦場へ赴く日がやってきた。招集された先の戦場はここから2、3日歩いた場所だという。
「……結局、アイツ、来なかったな」
旅人は俺が戦場へ向かう日まで現れなかった。別に心残りというわけでもないが、なんとなく引っかかるものはある。
街から離れて、ふと、道端を見るといつしかあの旅人が持ってきた白い花が咲いている。
「……まぁ、すぐ戻ってこられるだろう」
俺自身、戦争に駆り出されるのが初めての新兵というわけではない。死なないように立ち回っていれば、すぐに帰ってこられるだろう。
そして、また、退屈な日々が再開する……もしかするとあの旅人もまた戻ってくるかもしれない。その時は……前回言い過ぎた件を謝ってやろう。
俺はそんなことを考えながら戦場へと向かっていった。
しかし、後にその考えは、通行証を持たずに街にやってくるような旅人を笑えないくらい、とんでもなく甘い考えであったということを思い知ることになるのだった。
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