第3話 旅人と金の池
「……金の池?」
「ああ! まぁ、どうせ君は見たことも、聞いたこともないだろうな。実際僕自身も初めて見たからな」
自信満々にそう言われても、さすがに疑わしい。俺がそんな表情をしていることに気づかれてしまったらしい。
「君……まさか僕が嘘をついているとでも?」
「……それは、池の中に金が沈んでいるってことか?」
「違う。金の池といえば、金色の池のことに決まっているだろう?」
「えぇ……つまり、金色の水なのか?」
「そうだな。その光景はとても幻想的だったよ」
うっとりとした顔でそういう旅人。どうにも俺には引っかかる話だった。
「……なぁ。お前、それって、いつ頃行ったんだ?」
「いつ頃? 近くの村の老婆に聞いたら、夕暮れに行ったらそれが見れると言っていたから、その通りにした」
夕暮れ……池、黄金色……なんとなく、俺はその「金の池」の正体がわかってきた。
「……その金の池ってのは、周りに人がいたのか?」
「いや、誰もいなかったな。僕独りでその光景を独占できたのは幸いだったよ。まぁ、夕日が沈むと、その光景も見られなくなってしまったんだがね……」
……コイツ、その池の正体がわかっていたのか。
てっきり夕日が反射して池が黄金色に見えているのを、マジで金の池だと勘違いしているのかと心配してしまった。
「……で、その話をすると、何故俺がお前を街の中に入れてやると思うんだ?」
「何故、って……オレンジ色の夕日が差し込み、黄金色に輝く小さな池……これほど美しく価値のある物を見たことがあるかい?」
言われて俺はそんな光景を想像してみる……俺が見るのはいつもこの城門から見る夕日だけだ。
「……まぁ、確かにきれいな光景かもな」
「だろう? つまり、この話は君にとって通行証より価値のある話ということになる……そうだね?」
旅人は自信満々でそう言う。俺はジッとヤツのことを見る。
「……いや、ならない」
俺がそう言うと旅人は残念そうな顔をしていた。俺の反応はどう考えても当然なのだが。
「……わかった。君はそういう奴なんだな」
「……そもそも、前に言ったとおり通行証がないと通せないって言ってるだろう?」
「わかった! 今度はもっと君の心に響くような価値あるものを持ち帰ってくるとしよう! 待っていてくれよ!」
そう言うと旅人はそのまま手を振って去っていってしまった。
そう言われても、通行証以外の何を持ってきても通すことはできないのだが……
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