第48話

 顔を向けると、真剣な表情をしている美央と目が合った。


「何って……孔美をナンパから助けてくれたからってお礼をだな……」


「孔美ちゃんと……明莉ねぇねから?」


「まぁ……そうだな」


 突然ガバッと起き上がり、俺の上にまたがってきた美央は俺の肩に両手をつく。


「み、美央!?」


「……にぃにが明莉ねぇねや孔美ちゃんとシてもいいの……でも、ずるいよ……私たち3人は平等に……そう言ったよね?」


 少し前までの俺なら、ここで大きく動揺していただろう……だが俺はもう自分の気持ちを理解している、されるがままにいるわけにはいかなかった。


 美央の腰に手を回し、ぐっと力を籠める。


「ふぇっ!? にぃに……?」


 まさか俺がこんな行動に出るとは予想していなかったのか、美央は変な声を出して戸惑いの表情を浮かべた。


「美央、今はまだそう言うことは出来ない。でも勘違いしないでくれ、それは美央に魅力がないとか……明莉や孔美とは違うって言うことじゃないんだ」


 ジッと俺の顔を見つめて次の言葉を待つ美央……。


「ただ、俺にはまだその覚悟が足りない……もう少し待っていてくれないか?」


「にぃに……」


「まぁ、それじゃ平等にはならないからな……これは初めて口にするんだが……美央、俺はお前が好きだ……妹だからじゃないぞ? 1人の女性として、美央が好きだ」


 驚きに目を見開き……数瞬の後、大粒の涙を浮かべた美央は俺の首に手を回して抱きついてくる。


「ほんと? ねぇ、夢じゃないよね?」


「夢じゃないさ、俺は美央が好きだよ」


 そっと頭を撫でてやると、美央はぎゅうぅっと腕に力を込めてくる。


「私……もう妹じゃなくても良い? 妹じゃなくても好きでいてくれる?」


「あぁ、彼女として……一緒に居てくれないか」


「うん……うん! 大好き……大好きだよっ」



――――



 しばらくそのまま抱き合っていたが、流石に寝ないとまずいので2人並んで布団に入りなおす。


 美央は俺にピッタリと寄り添うように抱きつき……足を絡めてきた。


「美央……動けないんだが……」


「だーめ。私だけ我慢するんだから、寝付くまではこのままなんだからね?」


「我慢って……しかし、いいのか? 常識的にも世間一般で見ても俺はひどいやつだと思うんだが……」


「妹を好きになって口説き落としちゃう兄が今更なに言ってるの……それならいっそ、何人でも一緒にヤっちゃえばいいんじゃないかな」


「おい……何人でもって、俺を一体何だと思ってるんだ?」


「ふふふっ、大丈夫だよ、明莉ねぇねも孔美ちゃんもわかってくれているから」


「わかってるくれているって……あぁ、だから2人できたのか……」


 ここでようやく合点がいく、なぜ2人揃ってお礼をしてきたのか……最初から誰か1人が選ばれるんだなんてことは考えても居なかったって言うわけだ。


 3人平等……そうだったな、つまり3人ともが居なければだめだって事か……。


「私たちがそれを望んでいるんだから。なつ君は皆を大切にしてくれればいいんだよ」


「大切にするさ……おやすみ、美央」


 寝つけなかったのが嘘だったかのように、意識が沈んでいく……「おやすみなさい」そう優しく囁く美央の声を聞きながら……。




――――



 翌朝、俺と美央は公園で明莉を待っていた。

 辛うじて寝坊はしなかったが……俺も美央も、間違いなく寝不足だ。さっきから2人とも欠伸を噛み殺している。それでも美央はとても幸せそうに俺の横に立っている……数分がたったころ、公園に明莉の姿が……って、あれ? 孔美も一緒か? 部活はどうしたんだろうか……。


「兄さん……お、おはよう……ございます」


「おにいちゃんおはよー……うー、眠いぃ」


「お、おはよう……2人とも眠そうだな……大丈夫か? 孔美、部活は……」


 俺が声をかけると……2人とも一気に顔を赤くする……あっ、やっちまったか?


「うぅぅ、お兄ちゃんのばかぁ……いけるわけないじゃん……」


「大丈夫です、と言いたいんですけど……まだちょっと……」


 ちらりと美央の顔を見ると、呆れたように俺を見ていた。


「なつ君……もっと優しくしてあげなきゃ……」


 はい、ごもっともです……だが、弁解をさせてくれっ! 健全な男子があの状況でそんな事を考える余裕なんてなかったんだと!


「もぅ、わかってる?」


「すまん……」


「美央ちゃん……『なつ君』って……」


 明莉の呟くような声が聞こえたので視線を戻すと……2人は目を潤ませて、何かを耐えているようだ……。


「はい……明莉ねぇね、孔美ちゃん……ありがとう、2人のおかげです」


 2人の顔がみるみると笑顔になり、美央を抱きしめようとしたんだろう足を踏み出し……。


「私、なつ君に好きだって言ってもらえましたっ」


 止まった。え? 止まっちゃうの? そしてユラリとゆっくりこちらに向き直る明莉と孔美の顔は……口元に笑みを浮かべているが、眼には光がなく全く笑っていない……。


「お兄ちゃん? 私はまだ言われていないんだけれどー?」

 

「兄さん? 私や孔美にあんなことしておいて……まだ言ってくれていませんよね?」


「い、いや……深い理由があってだな? とりあえず……落ち着こうか?」


 ま、まずい……確かにまだ2人にははっきりと伝えてはいない……おい美央!? 笑っていないで何とかしてくれ!


「うふふふ、なつ君の『初めての告白』貰っちゃいました。これで平等ですよ、ね?」


「もー! 美央ちゃんずるいよー! ねぇお兄ちゃん! 私にもちゃんと言ってー!」


「そうです! 私だってちゃんと言って欲しいんですよ、兄さん!」


 違う、火に油を注いでどうすんだー!? 

 明莉と美央がすごい勢いで俺に迫ってくる……! 


「わ、わかった! 2人にもちゃんと言うから!」





 その後の話し合いで……明莉と孔美其々にもちゃんと考えて告白をすることを約束させられた……俺だって元よりそのつもりだったんだけどな……まぁ3人の気持ちを考えれば、俺が至らなかったんだろう……。

 

 それと俺の呼び方だが……2人きりの時は名前で、皆と一緒の時は兄として呼ぶと決まったらしい。 


 なんだか賑やかになってしまったが……皆笑顔だし、こんな日常も悪くないんだろうな……そんな事を考えて俺達は学校へと向かう。


 

 俺達が登校する前、教室が『ある話題』で持ち切りになっているなんて思いもせずに……。

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