第47話 相馬 夏希

―――― side 相馬 夏希





 孔美の家でシャワーを借りた後、そろそろ帰らなくてはと、俺は1人で外に立っていた。

 時間を確認すると……10時を回っている……あー、3時間くらい、か?


「あぁぁぁ……まさかこんなことになるなんて……明日からどうすりゃいいんだ……」


 明莉と孔美、確かに2人とは血の繋がりこそないが……もう俺の中では妹だという認識の方が勝っていた、そんな2人とまさかこんな関係になるだなんて……。


 2人はまだ家の中に居る、遅くなってしまったが明莉の家は隣だしなんかこのまま泊まるようなことも言っていたから大丈夫だろう……一応、戸締りはしっかりするように言っておいたし、現に見送ってくれた2人は俺が出た後にそのままカギをしてくれたようだ。


 なんとも重い足取りで自分の家へと向かう……2人一緒にだなんて……何やってんだよぉぉ……。





 ようやく家にたどり着き、カギを開けてそっと入る。時間的にも母さんはもう寝ているかも知れない……室内も静まり返っているし、きっと明日も早いんだろう。


 ゆっくり階段を上がり、これまた音を立てないように部屋へと入る……なんだろうか、この後ろめたさは……。


 着替えもせずにベッドへ寝転がり、先ほどの事を思い返す……。

 まぁ雰囲気に流された気がしないでもない、が、嫌だったら断わる事だってできたはずだ……それこそ2人に嫌われても構わなければ、押しのける事だってできた。


 それをしなかったのは……少なくとも2人に好意を持っていたからなんだろう。それも妹として以外にも。


(でも……2人一緒ってどうなんだよ……えー、俺ってそんな趣味あったのか!?)


 ぶっちゃけよう……決して悪い気はしなかった。なにせ2人とも学校でもトップカーストだと言えるくらいに可愛いのだから。

 そんな2人に求められるだなんて……そりゃ、多少強引だったかもしれないが男冥利に尽きるってもんだろう。


 それにしても、あれだけ女性にひどい目にあったって言うのに、2人に嫌な感情を持たないのは不思議だ……もしかして最初に『妹』だと思っていたからか?

 あの時、俺を一番に支えてくれたのは妹の美央だ……おかげであれだけのことがあったにもかかわらず、『女性不信』や『女性嫌い』にはなっていない……まぁ追われる事には恐怖を感じたりするが、それはある意味本能的な物もあるだろうし……。


(2人を受け入れられたのは美央のおかげ……? なんでだ?)


 明莉と孔美は『妹』だけれど『女性』だ……じゃあ美央は? 『妹』だけれど……『女性』だ……。


(え? 同じ? いやいや、何考えてんだ!?)


 美央だって『女性』なんだよ……そう考えてしまうともう止まることが出来なかった……次々に美央の顔が頭に浮かぶ……。

 

(え? えぇ!? なんだこれ……なんで美央の事を……!?)


 美央の笑った顔、照れた顔、怒った顔……そしてキスをした時の顔……。

 次に浮かんだのは、明莉や孔美……そして一緒に笑い合っている3人の姿……。


(はぁ!? あれ……まさか俺って……え? 3人とも? まじで!?)


 そんなのあり得ないだろ……頭は冷静にそれを否定する、でもそれじゃあこの想いはなんだって言うんだ?

 

 


 コンッコンコンッ


 考えにふけっていた俺の不意をつき、いつものノックが部屋に響く……咄嗟に起き上がりドアへと向かい……ふと足を止めた。


(くっ、いつもの習慣か……つい動いてしまったが……どんな顔して美央の顔を見たらいいんだ!?)


『にぃに? 帰ってるの?』


 ドア越しに聞こえる美央の声……待たせるわけにはいかない……。

 大きく息を吸って深呼吸をし……ドアを開ける。


「あぁ、起きてたのか? どうし……」


 声をかけながら美央を見た時、俺は息を飲んだ。


(なんだこれ……めちゃくちゃ可愛いんだが……)


 栗色の髪を後ろに流し、大きな瞳で俺を見つめる美央……ぷるんとした唇にパジャマに隠されてはいるが白い肌をした女性らしい柔らかそうな身体……。


 どこか甘い香りを漂わせてそこに居る美央から目が離せなくなる……。


「? どうしたのにぃに、まだ寝ないの?」


 こてんと首を傾げ俺の様子をうかがうその仕草すら可愛くてたまらない……。


(いやいやいや! え? おかしいだろ! なんでこんなに……えー!?)


 急激に熱くなる顔……このままじゃヤバい、何か言わなくては……!


「あ、あぁ、もう着替えて寝るさ……美央も寝るところだったのか……?」


「うん、それじゃ廊下で少し待ってるね? 早くしてよー?」


「あ、あぁ……少し待っていてくれ……」


 パタンとドアを閉じ……とにかく着替えようと服を脱ぐ。


(妹、美央は妹だ……OKオーケイ、大丈夫いつもと同じ、そうだろ?)


 必死に自分へと言い聞かす……そうしなければとてもじゃないが一緒に寝るなんて出来そうもなかった。


 ふぅ……そうさ、いつも一緒に寝ているんだ今更意識する事なんてないだろ……。



――――



(ダメだったー!!!)


 美央を部屋へ招き入れ、いつもと同じように一緒の布団に入る……もう何度も繰り返したことなんだが……一向に眠ることが出来ない。

 隣で「すぅすぅ」と寝息を立てている美央が気になって仕方がない……。

 俺は一体、どうしたって言うんだ!? 今までこんなことは一度だってなかったはずなのに……。


 何とか寝なくては明日の学校に影響が出てしまう、そう焦れば焦るほどに頭が冴えて眠気なんて微塵も感じない。

 

(まさか美央と一緒に居て眠れなくなるなんて……)


 美央に「頼って」と言われたあの日以来、よく一緒に寝るようになった……そう、美央はいつも一緒に居てくれたんだ。

 

 美央は俺の大切な妹だ……もし美央が苦しんでいるなら俺だって同じように助けるさ。

 そうさ、兄妹きょうだいなんだから辛い時こそお互いに支え合えるはずだ。そしてまた一緒に笑い合えるようになればいいんだ……お互いまで。



 ズキリと胸が痛む……美央が、俺じゃない誰かを好きになる……?

 兄妹きょうだいなんだからそれが自然だ……誰かを好きになって、離れて行っても、どれだけ時間が過ぎてもまた会ったときには笑い合える、それが家族だろ?


 美央が……居なくなる……。


 最初に思ったことは『それだけは嫌だ』という事。


 なんで嫌なのか、その答えはたいして考えなくても明白だった。


 あの時……美央が俺を『なつ君』と呼んだその瞬間に、俺はもう逃れることが出来ない糸に捕らわれてしまったんだろう。


……運命という赤い糸に。



「にぃに……眠れないの?」


 なんだ、簡単な事だったんだなと全身の力が抜けた俺に……美央が声をかけてきた。いきなりの事で身体がビクッとしてしまったが……なんとか平静をよそおう。


「ん? 起こしちゃったか? 悪かったな」


「ううん……寝たふりしてた……」


「ははっ、美央も眠れないのか?」


「うん……ねぇ、にぃに?」


「どうした?」


「……孔美ちゃんちで……何してきたの?」


 

 美央……それ聞いちゃうの?

 

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