第46話
その瞬間、ぎゅうっと抱き締められた私の身体……。
それは私が転びそうになった時よりも強くて……。
「当たり前だろ。もしもまた孔美が怖い思いをしていたら俺が必ず助けてやるさ。まぁ……そんな思いをさせるつもりはないけどな?」
胸がきゅうって苦しくなる。もうこの人から離れることは出来ない、そして離すつもりだってない。
誰に何を言われようとも私たちはずっと一緒……もうあなた以外を愛せはしない……。
「約束だよ? それは明莉や美央ちゃんも一緒だからね?」
「あぁ、俺は孔美たちの『兄貴』だからな」
その言葉を聞いた瞬間、私の中の大半を占めていた『女』の貌が消えた。
そうだよね『お兄ちゃん』だもんねー。優しくしてくれるのも、助けてくれるのも……抱き締めてくれるのも『お兄ちゃん』だから……。
さっきとは違う苦しさが私の胸の内で暴れる……辛いよー、美央ちゃんはこんな気持ちを1人で我慢していたのー!?
「むー、そうだけど……そうじゃないんだよなー」
こうなったら明莉や美央ちゃんと作戦会議だー! 絶対、私たちに落としてあげるんだからねー!
――――
駅に着き改札を抜けたところでお兄ちゃんが美央ちゃんに連絡をするらしい。
私の鞄は、降りがけにお兄ちゃんが持ってしまった……何度言っても私に持たせてはくれなかったけれど、私の両手が使えるのはアピールするチャンスだって思えばいいよねー!
お兄ちゃんがスマホでメッセージを送っている間に私もグループチャットを開く。何か妙案があればいいんだけれどなー。
――――『今帰りの駅。ナンパされて困ってたらお兄ちゃんに助けてもらったー! もーかっこいいのー!』
――――『良かった、兄さんに迎えに行ってもらって正解だったわね』
手元にあったのか、明莉からすぐに返信が入る。
――――『でも、やっぱり妹なんだって実感しちゃったよー、美央ちゃんの気持ちが痛いほどよくわかった』
――――『孔美ちゃん、にぃには手強いでしょ』
お兄ちゃんとのやり取りは終わったのかな? 美央ちゃんも参加してきた。
――――『美央ちゃん、これは辛いねー。頑張っていた美央ちゃんをぎゅってしてあげたいよー』
――――『ありがとうございます、意識してもらえるように頑張りましょうね』
――――『だねー、何かいい方法はないかなー?」
うーん、何かないかなぁ……『妹』を『女性』として思わせる方法かー。
――――『じゃあ、美央ちゃんが意識して貰えた事を孔美もやってみたら?』
――――『おー! なるほど! 違う妹からも同じことをされれば余計に意識しちゃうかもー!』
――――『相乗効果って言えるかもね。どうかな美央ちゃん、どんな時に意識されたって感じた?』
これは……いけるかもしれない! くふふっお兄ちゃん覚悟しておいてねー?
――――『えっと……キスをしたり胸を見られたときかな……』
……え? キスをして……胸……おっぱいだよね? え? 見せちゃうの? えぇ!?
――――『それは……孔美、頑張って』
「ええぇ……」
――――『ハードル高すぎだよー……明莉手伝ってー』
――――『私!?』
――――『妹3人から同じ事されたらさすがのにぃにも意識してくれるかもしれませんね』
――――『そ、そんな……うー、孔美家に付いたら教えて』
――――『はーい、それじゃまた後でー』
アプリを閉じてスマホをしまうと、少し離れて待っていたお兄ちゃんが隣に来て歩き出した。
お兄ちゃんとキス……したいなーって思ってはいたけれど、まさか今日だなんて想像もしては……いや、さっきしたかもー? いやいや、でもどうやってするのー!?
それに美央ちゃんはおっぱいも見せたって……じゃあ脱ぐんだよね? え、待って? キスして脱ぐだなんて……それって……えぇ!?
ふぅぅぅぅぅ……落ち着いて私! 何も今日しちゃうって決まった訳じゃないし……それにお兄ちゃんが私をそんな風に見てくれるとも限らないし、ね! うんうん、明莉や美央ちゃんよりおっぱい小さいしなー、一応人並みにはあるはずなんだけれど……。
あー、お兄ちゃんと手を繋いだら恋人っぽくなるかな? そうしたら少しは意識してくれたり……でも腕は組んだことあるんだよねー。
そんな事を考えながら歩いて行く。お兄ちゃんが私に話しかけているなんて全く気が付くこともなく……。
いきなりそっと私の右手が温かい何かに包まれる。驚いて顔を上げると、優しく微笑んでいるお兄ちゃんの顔。なんだか「大丈夫、怖くないよ」って言われているみたい……。
そうだよね、お兄ちゃんとの初めて……もしかしたら明莉も一緒かも知れないし何も怖くはないよー。
ありがとうって気持ちを込めて……ゆっくりお兄ちゃんの手を握り返す。そしてそのまま私たちは歩き出した。
――――
手の温もりを感じているとあっという間に自分の家に着いてしまった。この手を離したらお兄ちゃんはきっと帰ってしまう、そんな思いで私は手を離さないまま玄関のカギを開ける。
「少しだけ……寄っていって」
繋いだ手を引き家の中へと招き入れる……お兄ちゃんは何も聞かずについてきてくれた。
そしてそのまま2人で私の部屋へと入る、この時間に親が帰ってくることは無く家には今の所2人きりだ。
「飲み物用意してくるから、座って待っていてね」
そう言い残し、部屋から出てスマホを取り出す。アプリを開くと、メッセージが1件……。
――――『お母さんに、にぃにが帰りは遅くなるって言ってあります、こっちは大丈夫だよ』
美央ちゃん……うん! 美央ちゃんの為にも頑張るね!
――――『ありがとー! 明莉、今お兄ちゃんと私の家に入ったよー』
――――『わかった……すぐに行くわ』
うー、緊張してきたー、せめて2人ともキスくらいはしたいよねー。
飲み物を3人分用意している間に玄関が開き明莉が入ってきた、もしもの時の為に明莉にはうちの合鍵を持ってもらっているんだよねー。
「孔美、兄さんは?」
まるでこれからイケナイ事でもするかのように……明莉は小声で足音も忍ばせて近付いてくる。
「2階の私の部屋だよー、今飲み物用意していたところ」
「そう……な、なんだか、緊張しちゃう……」
「私もだよー、でも美央ちゃんの為にもなるし……私たちが一肌脱がなきゃっ」
「そうよね……わ、私も脱ぐわっ」
明莉と2人、頷き合って2階へと上がっていく……部屋のドアは少しだけ開けておいたので私たちが階段を上がってきた足音もお兄ちゃんに聞こえているはずだ。
「ん? 明莉も来たのか? 2人揃ってどうしたんだ?」
部屋に入ると、立ったままのお兄ちゃんが居た、いつもと違ってどこか落ち着かない雰囲気が感じられる。
「兄さん、お帰りなさい。孔美を助けてくれたって聞いたから……」
「座っていて良かったのに、お兄ちゃんどーぞ」
出しっぱなしになっていたテーブルに3人分のジュースを並べる、女子会の残りだけれど……。
お兄ちゃんが座ったのを確認して、私は開けてあったドアをパタン、と閉めた。
「わざわざお礼を言いに来たのか? そんなの当然の事をしただけなんだし気にすることは無いのに」
「それでもです、孔美は私にとっても大切な子なんだから……兄さんはもし私たちが美央ちゃんを助けても、お礼を言いませんか? もしもの時、私たちは当然美央ちゃんを助けますよ?」
「言うに決まってるだろ、それこそ俺に出来るどんなお礼だってするさ……って、そうだよな」
「わかってもらえました?」
どうやら、明莉はお姉ちゃんスイッチが入ってしまったようだ……妹の為ならって言うところはお兄ちゃんとそっくりになってしまったなー。
「だから……そ、その……ね、孔美?」
あ、ヘタレた。
「あー、うん……だから私たちに出来るお礼、受け取って欲しいんだよねー」
「うーん、自分で言った手前断ることも出来ないな……わかった、でも本当はお礼なんていらないんだからな?」
「じゃあ、すぐ準備するから……少し目をつぶって待っていてくれるー?」
「うん? 目をつぶれって言うのは良いが……1人で放置するとかは止めてくれよ?」
「あははっ、それってお礼にならないよねー、大丈夫だから目をつぶってー」
お兄ちゃんが目をつぶったのを確認して、私と明莉は目をあわせて頷き合う。
ゆっくりと立ち上がって……着ている服へ手をかけ「まだだよー」「もうちょっと待ってねー」など声をかけつつ服の擦れ合う音をごまかした。
下着姿になった私と明莉……明莉は上下レースが付いたピンクでまとめていて、私はパステルブルーのリボンが付いたもの。
部活した後だし、汗の臭いとかするかも……シャワー使ってこれば良かったなんて思いもするが……今日2度目の『女』の私……もうどうしようもない……。
邪魔にならないようにテーブルを避けて明莉の顔を見ると……顔を真っ赤に、そして全身をほんのりと染めながらも、目は潤んでとろんとし始めている……こんな顔の明莉は初めて見るかもしれないなー。
でもきっと私も同じ顔をしている……その証拠に身体が熱くて……特に下腹部が……。
2人でゆっくりとお兄ちゃんへと近づき……そして。
「それじゃ……お兄ちゃん、私たちを受け取って」
お兄ちゃんを両側から挟み込んで、押し倒した。
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