第43話
公園で明莉を見送り、美央と一緒に家まで帰った俺はそのまま俺は私服へと着替える。時間は……まだ少し早いかも知れないが、入れ違いになっても意味がないし早めに向かうとするか。
1階に降りリビングの横を通った時に、水の流れる音がした。母さんはまだ帰ってきてはいないし美央が洗い物をしているんだろう……一応、今から行くことを伝えておくか。
「美央、少し早いけど孔美を迎えに行ってくるよ。留守番頼むな」
キッチンに居た美央は俺の声を聞くと、キュッと蛇口を閉めて手を拭きながら俺のとこへと駆け寄ってきた。
制服の上からエプロンを付けた美央は、どこか家庭的でいつも以上に可愛らしい。彼女が自分の家で学校帰りに家事をしてくれている……そんなシーンはある意味、男の願望の1つじゃないだろうか。
「にぃに、いってらっしゃい。お母さんが帰ってきたらご飯の用意を始めるから、あまり遅くならないでね?」
「わかった。孔美を迎えに行ってそのまま帰ってくるだけだし、部活次第だけどそこまで遅くはならないと思う」
「はーい、気を付けていってらっしゃい」
美央と話しながら玄関へと向かい見送られて家を出る……エプロン姿の美央に見送られるとなんだか新婚みたいだな、なんて考えが浮かんでくる……美央は妹だぞ? 俺は一体何を考えてんだろ……。
――――
電車に揺られる事十数分……俺は学校最寄りの駅に着き周りを見ると、ホームには既に部活帰りだろう制服姿が何人も電車を待っているようだ、もしかしたらサッカー部も終わっているかも知れないな。
反対側のホームを見てみるが、そこに孔美らしい姿は見えず取り合えず改札を抜けることにし歩き出す……あ、そう言えば孔美に迎えに行くことを連絡していなかったな。
予想より早く終わっていれば入れ違いになってしまっている可能性もあるが、取りあえずは連絡を入れておくことにし改札を出たところで横にそれてスマホを取り出す。
「なぁ、少しくらい寄り道したって平気だって! もう帰るだけなんでしょ」
「まだ明るいしさー、奢るから遊びに行こうって」
俺から少し離れた所で男の声がした……なんだナンパっぽいな、とそちらを見ると、年上らしい男2人組が壁際で声をかけているようだ。
ここからじゃ男の陰になってよく見えないが……ちらりと見えたそれは、どうやらうちの制服を着ているように見えた。
(学校帰りの女子高生を駅前でナンパ……何考えてるんだ?)
その女の子には誰か友達でもいるのかなと周りを見てみるが、誰もが遠巻きに見ているだけで声をかけようとする者はいなさそうだ。
仕方ない、もう少し近寄って困っていそうだったら声をかけるか……そう決心してスマホをしまいその2人組へと足を進める。
「しつこいなー、私は早く帰りたいんだって言ってるでしょー? 電車が来ちゃうからどいて欲しいんだけどー」
そんな声と共に男たちの横をすり抜けようとする少し赤みがかった、もう見慣れたショートボブの女の子……孔美だ。
「まぁまぁ、そう言わずにさー? 電車なんて後で乗っても同じだって」
「今から乗っても混むかもしれないぜ? それなら遊んでから帰ったほうが良いって」
孔美の前を塞ぐように回り込む男達……絡まれているのが孔美ならもう様子を見る必要もない、足を速めて男達へと近寄る。
「孔美待たせたか? 迎えに来たぞ」
「え……お兄……相馬君!?」
いきなり現れた俺に驚き、ぽかんとした顔を見せる孔美。男達も声をかけてきた俺の方を振り返る……。
「あ? なにあんた。この子は今から俺達と遊びに行くんだけど?」
「俺達が送っていってやるからさ、あんたはお呼びじゃないって」
ニヤニヤしながらも俺を睨んでくるがそれを無視して孔美の前に立つ。口調は強がってはいたが、やはり怖かったのだろう少し顔が強張っているようだ。
そっと孔美の頭に手を乗せて撫でてやる、もう大丈夫だからな。
「おい! 邪魔すんなっていってるだろ!」
そう叫んで俺の肩を掴み振り向かせようと引っ張る男……金髪でいいか、見たまんまだし。
背は俺と同じくらいだがたいして鍛えたりはしていないんだろう、力が入っているのはわかるがどうと言うことは無い。
孔美の頭から手を放して金髪の手首をつかみ返し……振り向きざまに捻り上げた。
「!? いででででででででっ!!!」
「あのさ、どっちが邪魔なのか……わからない?」
「は、はなっあだだだだだっ!!」
手首を固められた金髪は痛みから少しでも逃れようと膝をつく……離すわけが、ないだろ?
もう1人の男……茶髪だな。茶髪はいきなりの事に呆気にとられたのか動きを見せる気配はない。
「あんたはわかるよな? どっちが邪魔だと思う?」
金髪の手首を捻り上げたままそう問いただす、その間も金髪は何か
「それにここが何処だかわかってるのか? あんたらの顔、皆見てるからな?」
茶髪はそこでようやく自分たちの状況を理解したんだろう、バッと振り向いて周りの様子を見た……遠巻きにだが生徒もいるしサラリーマンやOLのような仕事帰りらしき人もいる、中には写真を撮ろうとしてるのかスマホを構えている人もいた。
「わかったら……どうするんだ? 俺もいい加減、大切な子が絡まれてイライラしてるんだよね」
「わ、悪かった! 邪魔だったのは俺達だから、な! もう離してやってくれ!」
茶髪がようやく謝罪の言葉を口にしたので捻り上げていた手を離してやる。
「これで懲りたんなら、同じような事するなよ? もし次見かけたら……」
「わ、わかった! じゃあ俺らはもう行くからっ! 悪かったな! おい、行くぞ!」
茶髪はうずくまっている金髪を無理やり引き起こして足早に立ち去っていったので「ふぅ」と力を抜き、改めて孔美の方に向き直った。
「大丈夫だったか?」
声をかけるも孔美は俯いたまま顔を上げようともしない……あ、ちょっとやりすぎたかもしれない……。
「あー、怖がらせたか? ごめんな、でも孔美が無事でよかったよ」
頭を撫でてやりたいところだが今の俺がしても逆効果かもしれないな……。
なんとも気まずくなってしまったがここで孔美を置いていくわけにもいかないし、
どうにか落ち着いてもらわないと……。
なんて考えていたら、孔美がゆっくりと俺に近付いてきて俺の服を摘まんだかと思うと……ぽふっと俺の胸に頭を押し付けてくる。
これは……あれだろ? 顔を見られたくないって事だよな……まさか、泣かせちまったのか!?
仕方ないと覚悟を決めてそっと孔美の頭を撫でる。予想に反して嫌がった素振りを見せることもなく……むしろ「もっと」とねだるように俺の服に頬を擦りつけてくる……どうやら泣いてはいなかったらしい。
「んん゛っ」
背後からそんな咳払いが聞こえそちらに顔を向けると……少し呆れ顔の駅員さんが立っていた……あれだけ騒いだんだ、そりゃ来るよな……。
「あー……トラブルだと聞いてきたんだが……もう解決したようだね? 他の人の目もあるんだから、そろそろ控えて欲しいんだが」
言われて周りの様子を窺う……まだ多くの人がこちらを見ているようだ。
孔美も様子に気が付いたのだろう、ぷしゅーっと湯が沸きそうなくらい顔を真っ赤にしてしまった。
俺達は駅員さんに謝罪を告げ足早にその場を離れた……早く行こうと引っ張る孔美と手を繋いで。
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