第42話

 そして授業も終わり、クラスメートは思い思いに帰り支度を始める。


 教室を出ることを美央に連絡しようとスマホを取り出すとメッセージが一件着信していた、なんだろうか……通知をタップしてメッセージを開く。


――――『今日は帰る前に少し図書室を見てみたいな、明莉ねぇねにも言ってあるよ』


 なるほど、明莉も了承しているなら問題はないだろ……少し見て3人で帰ればいいか、孔美は部活に行ってしまったし。

 

「夏希、帰るのかい?」


 美央に返信をしていると春翔から声が掛かった。


「あぁ、帰る前に妹と図書室に寄るけどな。春翔はこれから帰るのか?」


「そうだね、今日は先約があって急いで帰らないと。それじゃまた明日」


 春翔はそう言って軽く手を振り教室から出て行った、あいつが急いで帰るなんて余程大事な用事なんだろうな……。


 教室の中を見渡してみると明莉の姿は無かった……もしかしたらもう美央と合流しているのかもしれないな。

 美央と一緒に図書室へ行くのなら一度外に出て、別棟の1階から入るしかない。待たせても悪いし急いで向かうとするか。





 靴を履き替え外に出るがそこにも2人の姿は無かった……先に行ってるのか? まぁ図書室に向かうのは間違いが無いし、取りあえずは向かえばいいだろう。


 別棟に入り、靴を履き替えて図書室へ向かう……2階から回れば履き替える手間がいらないんだが……まぁ仕方ないだろう。


 入ったところにあるカウンターに見覚えのある2人の後ろ姿と……一緒にいる掛井先輩の姿が目に入った。

 入口の方を向いていた掛井先輩は当然2人よりも早く俺に気が付き、軽く頭を下げてくる。そしてそれを見て振り返った明莉と美央が手を振ってきた。


「待っていなくてごめんなさい、相馬君。ちょうど掛井先輩と一緒になったからそのまま来ちゃったの」


 俺が近づくと少し申し訳なさそうに明莉が声をかけてきた。


「いや、いいさ。掛井先輩こんにちは」


「こんにちは、相馬様。来てくださって嬉しいわ」


 相馬……様? そう言えばこの間からそう呼び始めた気がするがどうしたんだろうか……。

 明莉と美央も俺が『様』と呼ばれたせいか目を丸くしてぽかんとしている。


「えぇ、まぁ……ところで『様』って言うのはちょっと……」


「親しい殿方には当然かと存じますが、ご迷惑でしたでしょうか」


 シュンとして俯いてしまう掛井先輩……なぜか美央と明莉も俺をジトっと睨んでくる……俺が悪いの……か?

 

「ええっと……まぁ掛井先輩にとってはそれが普通なら……それよりも今日は委員会の当番ですか? あれ、俺の当番っていつなんだ……」


 そう言えば、まだ委員会には呼ばれていないよな……当番とかどうするんだ?


「あぁ、それでしたら1年生は来週からになりますわ、まだ高校生活に慣れていないでしょうし明日にでも連絡があるはずですわ」


「なるほど、ありがとうございます。あ、先輩には紹介していませんでしたね……えっと……」


 まだ美央を紹介していなかった事に気が付いた俺は、掛井先輩に紹介しようとして言葉に詰まる。妹だと紹介したいところだが、周りには他の生徒も当然いる……美央の恋人として見られた事がある以上、ここで言っていいものだろうか……?

 

「存じておりますわ、先ほど皆瀬さんからもご紹介をいただきましたの」


「そうでしたか……よろしくお願いしますね」

 

 どうやら明莉が先に紹介しておいてくれたらしい。なんて言ったのかはわからないが、後で聞いておくか……。


「今も図書室内を少し教えてもらっていたんだよ、掛井先輩ありがとうございました」


「美央さんのお役に立てて良かったですわ、また何かあればお声がけくださいね」


 そのまま少し話をした後、俺達は掛井先輩にお礼を言って図書室を後にすることにした。



――――



 帰り道、3人で電車に乗り周りに生徒の姿が無くなったので早速明莉に聞いてみることにした。


「明莉、美央の事ありがとうな。ところで掛井先輩にはなんて紹介したんだ?」


「え……あの、正門でのことがあったから妹さんだってすぐに言うのもダメかなって思って……従妹さんだって紹介したの。それなら苗字が同じでも一緒に住んでいても変じゃないし……」


 なるほど、その手があったか。ここは明莉の機転に感謝だな。


「ありがとうな、俺も妹だっていうわけにはいかないかなって思ってさ。そうか、従妹って事にしておけばいいのか」


 美央にとっては不服かも知れないが、学校で騒がれるのが大変なのは俺も美央もよくわかっている……それでも後で少しフォローしてやったほうがいいかもしれない。


「にぃに、掛井先輩と何かあったの?」


「ん? いや……特に何もないが……」


 もちろん嘘だ。家に行ったらキスされましたなんて言えるはずがない……。


「ふぅん? でも何もなかったのに殿だなんて言わないよね」


「そうですね……でも、学校案内の時に兄さんの言ったことが嬉しかったのかも。その後も2人はよく話してましたから」


「うーん、なんかそれだけじゃない気がするんだけど」


 背中を冷や汗が流れる……これが女の勘ってやつなのか……? 


「まぁそれが掛井先輩にとっては当たり前の事なんだろ? それよりも、孔美の部活って何時ごろまでやってるんだ?」


「サッカー部ですか? それならまだ学校が始まったばかりなのでそんなにはやらないはずです……たぶん、6時半くらいまでかな?」


 俺達は授業が終わって図書室に寄ったとはいえすぐに帰ってきたので、このまま帰っても5時過ぎには家についているだろう。


「そうか……じゃあ、帰って着替えればちょうど良いかもしれないな」


「にぃに、孔美ちゃんを迎えに行くの?」


「ん? あぁ、孔美だけ1人で帰るなんて寂しいだろ? 朝も一緒に行けないんだしそれくらいはしてやらないとな」


 そう言うと、明莉も美央も笑顔を見せてくれた。もうすっかり姉妹のようだな……そう言えば昨日女子会をしたんだっけ?

 何を話したのか気にはなるが……兄とは言えそこは踏み入れない話題なんだろう……。

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