第41話 相馬 夏希
―――― side 相馬 夏希
翌日……いつもの時間に目が覚めた俺は、当然のように隣で寝ている美央に目をやる。幸せそうな寝顔はいつまでも見ていた気分にさせるが、あいにくと今日から学校だ。
そっと美央の頭を撫でてやるとぼんやりとしながらも目を覚ました。
「朝だぞ、早く起きないと遅刻するからな?」
むくりと身体を起こした美央は「んーぅ」と声を出しながら身体を伸ばす、そしてそのまま俺に抱きついてくると……。
「おはよう、にぃに」
「おはよう、美央」
――――
今日から孔美は朝練がある為に先に登校してしまっている為、俺と美央、明莉の3人だ。
いつもは俺の左隣を歩く美央だが、今日はなぜか明莉に場所を譲っていた。
妹同士と言う事で何か話し合いでもされたんだろうか……そうなると普段は一緒に登校できない孔美が寂しがるかも、なんてことを考えて思わず3人がいることが普通だと思ってしまっている自分に苦笑する。
「夏希おはよう、週末はゆっくりできたかい?」
校門で美央と別れた後……明莉と一緒に教室に入り俺は自分の席へ、明莉は先に来ていた孔美と何かを話しているようだ。そんな2人を見ていると登校してきた春翔が声をかけてきた。
「おはよう春翔。週末か……ゆっくりできたようなできなかったような……」
「ははっ。なぁ夏希、明莉と孔美はなんだか雰囲気が変わったと思わないかい?」
ん? いきなり何を言い出すんだ? 俺が見ていた事に気が付いたのかもしれないな……。
「そうか……? そう言われても俺は今の2人しか知らないからな」
「あぁ、それもそうか。でも中学からの彼女たちを知っていると、変わったと思うよ」
まぁ、高校に入ってからガラリと変わる人だっているだろうし……俺もその1人だけれど。
「高校でいい刺激でも入ったんじゃないか? なんにせよ、今の2人が楽しそうならそれで構わないだろ」
「そうだね、ボクも同感だよ。いうなれば、意図しなかった高校デビューって言うところかもね」
「なるほど、物は言いようだな……」
そんな話をしているとチャイムが鳴り戸渡先生が教室に入ってくる。さて、今日も落ち着いた1日になると良いなぁ……。
――――
そんな俺の願いが通じたのか、滞りなく各授業を終えていく。まぁ初日だしたいした内容はやっていないんだが……。
昼になり其々が仲のいいグループで集まり始める中、俺の席に明莉と孔美がやってくる。2人とも手にはお弁当を持っているところを見ると、どうやら一緒に食べるつもりらしい。
「に、相馬君……一緒に食べませんか?」
「一緒に食べようよー、春翔君もどうー?」
「俺は構わないが、春翔はどうする?」
「勿論、ご一緒させてもらうよ。僕が邪魔じゃなければね」
そう言って笑う春翔……こいつ、絶対
隣の席の椅子を借り、俺と春翔の机を使って4人で弁当を広げる。明莉と孔美のは女の子らしく綺麗に盛り付けられていてとても美味しそうだ。
孔美の弁当箱は明莉のそれよりも一回り大きいが、やっぱり運動する分食べるのだろう。
俺と春翔のは……まぁ普通の男子高校生って感じだな。イケメンも弁当は普通だったか、と妙に安心した……。
これでハートマークがかかれていたり、海苔で「ダイスキ」とか書かれてでもいたらどこから突っ込めばいいのかわからんからな……。
「あ、相馬君のおべんと、卵焼きが美味しそうねー? 1個ちょうだい!」
そう言うとこちらの返事も聞かずに孔美は俺の弁当箱から卵焼きをさらって行く……おいっ! それは美央が作った卵焼きだぞ!?
「あのな……せめて、どうぞとでも言われてからにしろよ……」
あげる気はさらさらなかったが、美味しそうに頬張る孔美の顔を見てしまうと文句も言えなくなってしまう……また美央に作ってくれるようお願いするか……。
「んー、おいしー。じゃあ私のから揚げあげるよー」
そう言って俺の弁当にから揚げを乗せる孔美……せっかく貰ったのでいただくことにする。
「ん、すごく旨いなこれ……」
冷えているのに柔らかい唐揚げは弁当の主役といっても良いはずだ、思いがけないおかずを手に入れて顔がにやけてしまう。
ふと、周りが静かなのに気が付いて顔を上げると……顔を真っ赤にしている明莉、笑いをこらえている春翔……そして箸を止めてこちらを見ているクラスメートたち……。
「から揚げは明莉お手製だよー。美味しいってさ、よかったね明莉!」
顔を真っ赤にしたまま、明莉は口を小さく動かしながら箸を進めていた……。
俺、何か変な事言ったか……?
――――
午後の授業も進み休み時間にトイレに行った俺はその帰り、廊下の向こうから進んでくる……積み上げられた段ボール箱が目に入った……え? なんだあれ……。
よたよたと歩いているそれは明らかに前が見えていないのだろう、廊下にいる他の生徒たちもぶつかられないように廊下の隅に避けていた。
近づいてみてようやくそれが『段ボール箱を抱えて歩いている女生徒』だとわかった、きっと次の授業で使う教材か何かを運んでいるのだろう。
幸か不幸か、ここまでは真名が避けてくれたためぶつからずに済んだみたいだが……いつぶつかってしまったり転んでしまうかわからない。
(それにしても……誰も手伝おうとはしないのか?)
その女生徒の歩いている前へと進んだ俺はそこで足を止める……当然、そのまま段ボール箱を抱えた女生徒がぶつかってきた。
「きゃっ!?」
すぐさまバランスが崩れそうになった段ボール箱を支え、その女生徒に声をかける。
「あぁ、ごめん。少し考え事をしていて気が付かなかったよ、大丈夫かな?」
「いえ、こちらこそ前が見えていませんでした……すみません」
「それにしても前が見えないと危ないと思うし、ぶつかってしまったお詫びに運ぶのを手伝うよ」
「いえ……わたしの仕事ですから……」
「責任感が強いのはいい事だけれど、次は転ぶかもしれないし何かあってからじゃ遅いんじゃない? ぶつかった俺が悪いんだから気にしなくていいよ」
そう言い、支えていた段ボール箱をやや強引に引き受ける。
「ただ、これじゃ今度は俺の前が見えないんだ、悪いんだけれど上の小さいやつだけ持ってもらえないかな?」
彼女が取りやすいように少し屈むと、俺の視線を妨げていた箱が持ち上げられる。
「ありがとう、それじゃこれはどこに持っていけば……って、委員長?」
この段階でようやくその女生徒の顔が見え……セミロングの髪に赤縁の眼鏡、赤色のヘアピン……俺のクラスの委員長、中条 結花里だと気が付いた。
「え……あ、相馬君……だっけ? あなただったのね」
「あぁ。じゃあこれはうちのクラスで使うやつなのかな?」
「えぇ、先生に頼まれて運んでいたの」
「そっか、でもこの量なら2回に分けるとか誰かに手伝ってもらった方が良かったんじゃない?」
そんなに重くはないとはいえ段ボール箱3つだ、女の子では運ぶのも大変だし1人でやらなきゃいけない理由もないだろう。
「分けると間に合わなくなっちゃうかもしれなかったし、わたしの仕事を皆の休み時間に手伝ってもらうわけにはいかないわよ」
「でも、これを使って俺達は授業を受けるわけだし、手伝うくらい当然じゃないか?」
「中学の時からこうだから……もう慣れたかな、それより急がないと休み時間が終っちゃうかも」
「あ、そうだね急ごうか」
「相馬君、ありがとうね」
2人で分けて持ったので当然それまでよりも早く歩き教室へと運んだ。
箱の中身は……生物の先生が自作したというバラバラに詰められた変な人体模型だった……教室について箱を開けた委員長が悲鳴をあげたのは言うまでもない……。
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