第28話

 渡來の買い物を済ませた俺達はその後数件のショップを見て回った。お洒落な服なんかも多かったが、誰も購入するまでは至らなかったみたいだ……まぁ学生には少々お高いからな。


 それにしても皆瀬とお揃いの何かか……美央のやつ、変な事を言うな……。渡來は実用を兼ねたものが俺も欲しかったものだったので結果としてお揃いになった、美央はそもそもが俺のお下がりの服を好んで着たりしているんだが……。


 肝心の皆瀬にはそう言ったものがない……これでお揃いの物ってなるとハードルが高すぎやしないか?


 何か良いものはないかな、と皆瀬の様子をうかがうと一つのショップに視線を向けているのに気が付いた……ん? 文房具か?

 


「あ、俺ちょっと文房具を見たいんだけど……寄っても良いか?」


 もしかしたら言い出しにくいのかもしれないし、ここは俺が寄りたいってことで良いだろ。


「いいよー。私も見よっかな、可愛いシャープとかあるといいなー」


「あ、私も……妹にお土産が欲しくって……気になっていたんです」


 気にしていたのは間違いなかったか、良かった。文房具……お揃いの手帳とか? でももう持っているかも知れないし、使っているのかすらわからないからなぁ……。


「じゃあ、私と渡來先輩は店内を見て回ってるので、皆瀬先輩はゆっくり選んでくださいね」


「明莉、ゆっくりでいいからねー? ひまりちゃんが喜びそうなの選んであげて!」


「2人ともありがとう、出来るだけ早く選ぶね」


 美央と渡來が連れ立って店の奥に行ってしまったので、俺と皆瀬は少しだけ距離を空けつつ一緒に店内を見始める。


 皆瀬が女の子が好きそうな可愛らしいペンなどを手に取って選んでいるのを横目で見ていると、ショーケースで飾ってある物が目に留まる……贈答用のボールペンかな?


 その中を見てみると一対のシャープがあった。桜色と空色で……ペアで持つ為の物なんだろう、値段も手頃だし意匠も凝っていて良いかもしれない。

 丁度傍にいた店員さんにそれをお願いすると、紙に贈る側と受け取る相手の名前を書かされた……仕上がりは30分ほど後らしいが、店員さんの微笑ましいものを見たかのような顔が気になるな……。

  

 手続きを終えた俺が店内を見渡すと皆瀬が手帳コーナーにいるのが見えた。丁度いいな、そう思い彼女の傍へと向かい声をかける。


「皆瀬さんは手帳を付けてるの?」


「あ、相馬君。うん、まだ新しいのを買っていないから見ていたんだけれど……今日は妹の物も買いたいからどうしようかなって……」


「そうなんだ、俺はつけたことが無いな……でも、高校に入ったし始めて見るのも良いのかもしれないか?」


「予定を書くのも当然本来の使い方だしいいと思いますけど、毎日一行でも日記のように書いておくのも良いですよ、私の使い方はそちらが多いですね」


「あ、なるほどそれは面白そうだ……どんなのが良いんだろ……」


 そう言いながら陳列されている手帳を見やるが……サイズ違いや種類が多くてどれが良いのかよくわからないな……。


「じゃあ、これはどうですか? 私も買うならこれかなって迷っていたんですけれど……」


 皆瀬はそう言いながら、丁度手に取っていたそれを俺に手渡してくる。バイブルサイズ、って言うんだったか? お洒落なカバーが付いたそれを開いてみると……なるほど、なんだか見やすくて使いやすそうだ。

 並んでいる物に同じデザインの色違いもあるし、これなら良さそうかな?


「これ見やすいし使い勝手も良さそうだからいいな、皆瀬さんが買うなら俺もこれにするかな……」


「そ、そう? 相馬君とお揃い……なら、私も買っちゃおうかな……」


 皆瀬はそのまま手にしていた桜色にしたようだ……ピンクが好きなのかな? 買うかどうしようかを迷っていたのであってどれにするのかはもう決まっていたのか。


「俺は何色にしようかな……そうだ、折角だし皆瀬さんが選んでくれない?」


「えっ!? 私が……選んでいいの?」


「あぁ、皆瀬さんおすすめの手帳だしな。それに自分で選んで買うと書かなくなりそうだし」


 苦笑いをしながら伝えると皆瀬は「じゃあ……うーん……」と言いながら手帳を選び始める……そして手に取ったのは空色のカバーの手帳だった。奇しくも、俺が選んだシャープと同系色と言う結果だ。


 皆瀬に選んでくれたお礼を言い二人でレジに向かうとそこには先ほどシャープをお願いした店員さんがいた……心なしか目がキラキラとしているようにも見えるんだが……?

 会計を済ませ出口に向かう途中、美央と渡來を見つけたのでそのまま合流をする。渡來は何本かのペンを買ったらしい。



 ショップを出て時間を確認すると、お昼より少し早いくらいか……混む前に済ませてしまうのも良いかもしれないな。


「まだ少し早いけれど、お昼はどうしようか? 俺は早めに済ませても良いとは思うけど」


「そうね……混んでから並ぶのも大変だし、空いている内に好きな物を食べたいかも……」


 皆瀬の意見に渡來や美央も同意する。問題は何を食べるかだが……俺は和食が好きなんだよなぁ……ちらりと美央を見ると、何かを訴えるような目で俺を見ていた……ん? なんだ?


 ふっと逸らされた視線の先を追っていくと……オムライス専門店……か、そう言えば美央が好きで小さい頃はよく母さんに作ってもらっていたっけ。

 あのお店、なんか聞いたことがある名前だ……雑誌にも紹介されている有名店だっけ? ここにも入ってたんだなぁ。


 見たところまだ並んではいないようだし、オムライス専門店なんてあるんだな……なんて声をかけようかと視線を戻してみると……俺の視線を追ったのか、全員の目がその店にくぎ付けになっていた……渡來、涎が出てるぞ?


「……オムライスで、いいか?」


 俺がそう声をかけると、3人揃ってぱぁっと笑顔になり『コクコクコクッ』と勢いよく頷く……君たち揃いすぎだろ……。



  

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