第29話
店に入ると待つこともなく席へと案内される。4人掛けの席に美央と隣り合って座った俺は、メニューを皆瀬たちの方から見やすいように広げて置いた。
種類が多いな……うーん……このサラダが付いたランチセットと言うのにしよう、値段も控えめで学生には嬉しい限りだ。
全員の料理が出揃ったところで「待っていましたっ」と言わんばかりに、3人揃ってスプーンを手に取る……何この一体感……!?
手を合わせて「「「いただきますっ」」」そしてすくったオムライスを頬張り……うっとりとした表情を魅せる3人……流れるようなその仕草が寸分の狂いもなく揃っていた……。
「うー、おいひぃよぉ……」
流石に食事中だと言う配慮があるのか、声量を控えめに渡來が呟く……頬は緩みっぱなしのようだ。
あまり食事しているところを見るのもいけないだろう、自分のオムライスに視線を落とすと……グリーンピース多くね? じろりと隣を見るとふいっと顔を逸らす美央……あぁ、そう言えば苦手だったな……家では出ることが滅多にないので忘れていた美央の苦手な食べ物の1つだった。
こっそりと俺の皿へと移したのだろう……仕方ないやつだ。そのまま何もなかったかのように食べ始める。
……これがオムライス!? うますぎる……っ! とろとろの卵とライス、そしてデミグラスソースの相性が抜群だ。これは人気が出るのも、3人が食べたがるのも納得だなっ!
食べ進めながら、美央の作ったオムライスも食べてみたいな……そんな事を考えて隣を見るとこちらを見ていた美央と目が合った……これは期待しても良さそうだ。
「あー、相馬君と美央ちゃんだけ目で会話するのずるいんだぁ。ねぇ相馬君、私が今何考えてるか当ててみてー?」
言われて渡來を見てみると……スプーンを右手に持ち、口元にはソースを付けて……空になった皿を前にしてニコニコとしていた……何処から突っ込めばいいんだ、これ……。
とりあえずは、とテーブルに備え付けられていたナプキンを取り渡來へと渡す。
「足りなかったのか? 少しくらいなら分けてやるからまずは口元を拭うんだな」
かぁぁっと顔を紅く染め上げた渡來は、俺からナプキンを受け取るとそっと口元を拭う。それを見届けてからついっと皿を押し出すように差し出すと、嬉しそうな申し訳なさそうな表情で二口分くらいの量を取り分けていた。
「当たったか? 美味しかったからもう少しだけ食べたいなんてわかりやすすぎる気もするが……」
「渡來先輩、にぃにはそう言うの得意だから……大抵は読まれちゃいますよ?」
「うぅー、美央ちゃんそういう情報は早くに欲しかったよぉー」
――――
食事を終えて一息ついた後「そろそろ行こうか」と声をかけてから伝票を持って席を立つ。レジに向かうと皆瀬達が財布を取り出そうとするが、ここで割り勘と言うのも、男として立場が無いだろう。
「あぁ、ここは俺の奢りだからいいよ。美央を誘ってくれたお礼もあるしな」
皆瀬たちと「でも」とか「だけど」などと二言三言やり取りをするが、どうにか折れてもらう。
さて、ここで一旦美央たちとは少しだけ別行動だ。「ちょっと手を洗ってくるよ」と声をかけ、少し離れた所のベンチで待ち合わせにして俺はトイレに向かう。
手を洗い、鏡でチェックした後は少し駆け足に文房具のショップへと急いだ。
作業予定の時間も過ぎていたし、綺麗にラッピングされた箱ともう一つを受け取る。ラッピングされたのがプレゼント用、もう一つが自分で使う方だ。
用意してくれたのも同じ店員さんだった……「サービスしておきましたから」って言っていたが何の事だろう、ラッピングのリボンの事か? 初めて利用するから違いが判らないな……。
急いで戻ると、まだ誰も戻ってきてはいないようだ。お昼時だし混んでいるのかもしれないな……オムライスの店も出るころには順番待ちの列が出来ていたし。
ベンチに腰掛けて待っていると数分もしないうちに3人が戻ってきた、ぎりぎりだったみたいだな……。
「にぃにお待たせ。ちょっと混んでいて……ごめんね」
「いや、いいさ。それじゃ服を見に行こうか、美央は気になる店はあったのか?」
「とりあえずはパーカーから見てみたいかなぁ。途中に良さそうなお店があったんだよ」
「じゃあそこから行ってみるか、皆瀬さん達もそれでいい?」
「いいよー、可愛いのがあったら買っちゃおうかな、部屋着としても使えるし美央ちゃんが着てるのを見てたら可愛くて良いなぁって思ってたんだー」
「美央ちゃんにパーカーってよく似合ってますよね、凄く可愛いです」
「あっ! それじゃー皆でパーカーのパジャマパーティしようよー! 私と明莉は持ってるし、同じ種類の美央ちゃん用も買っちゃおう!」
「パジャマパーティですか? わぁ、楽しみにしてますねっ」
そんな話をしながらも俺達は目当てのショップに着いた。店内にはパーカーをはじめ色々と男女兼用で着れそうな服が並んでいる。
「それじゃ、にぃに選んでくれる?」
「とりあえず見て回るか? 良いのがあるかなぁ」
4人である程度固まりながらも店内の服を見ていく……ストライプ柄のパーカーも美央には似合いそうだなぁ。今日は白だし……黒と青のストライプとか良いな……俺も欲しい……。
「にぃに、それ? ……うんうん、縫製もしっかりしてるしいいかも! サイズは……あ、大きいのもあるよ?」
「よくわかったな……美央も気に入ってくれたみたいだし、これにするか」
俺がそう言うなり、2つのサイズをカゴへと入れる美央……他のも見ようかとしたところ、渡來が何かを見つけたようだ。
「美央ちゃん、あっちにナイトウェアのコーナーがあるみたいだから行ってみようよー」
「あ、じゃあにぃにちょっと行ってくるね? カゴよろしくっ」
美央はそのまま渡來とぱたぱたっと奥へといってしまう。こうして俺以外の誰かと買い物にくるなんて初めてじゃなかったか? まるで昔から一緒に過ごしてきたかのような2人の仲を微笑ましく思っていると、隣に来た皆瀬に声をかけられた。
「置いて行かれちゃいましたね。孔美もすっかり馴染んだみたいで……」
「仲が良くなったよな、なんか妹が一人増えた気分だ……」
「ふふっ、じゃあ相馬君がお兄ちゃんで……私がお姉ちゃんですか?」
「それって、俺が一番上のパターンだよな? 妹が3人か、賑やかになりそうだ……」
「あはっ、よろしくお願いしますね……兄さん」
笑顔を見せる皆瀬はすっかり妹気分のようだ……そっちがその気なら俺もそれに応えるべきだろうな。
「あぁ、よろしくな明莉」
その瞬間、皆瀬は顔から湯気が出るんじゃないかと言うくらい真っ赤に染めて「不意打ちはずるいです……」と俯いてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます