第27話

 電車を降り、改札を抜けた俺達はショッピングモールの前にいた……なんだこれ、かなり広そうだな……。


 通路なども綺麗に整えられ、改装をされたそのモールは県下でも最大規模らしく土曜の朝だというのに既に多くの人たちで賑わっている。


「俺、ここに来るの初めてなんだよね。はぐれたら合流が大変そうだし気を付けて」


 念の為に皆瀬達2人にそう伝えておく、美央は……俺から離れることはしないだろう……。


「最初は何か目的があったほうが良いかな? 何か見たいのもはある?」


「あ、それじゃーたぶん私だけ見たいってものがあるから、そこから済ませちゃっていいかなー? 新しいスポーツウェアが見たいんだよねー」


「俺は構わないけれど、皆瀬さんは良いか? …………じゃあ、そこから見に行こうか」


 皆瀬が頷くのを確認しながらそう答える。渡來は店の場所を知っているのだろう「出発ー!」と言いながら皆瀬の手を引き歩き出したので、そんな2人を苦笑しながら追いかける……ほんと仲が良いなぁ。




 スポーツウェアのショップは少し奥まった所にあるらしく、向かいながら脇に並ぶショップをチェックしていく……が、とても一日では見て回りきれそうにもないな……。


 美央が好きそうな服があったり、2人で一緒に着れそうなユニセックスを取り扱っている店舗もあるようだ、今度また美央と一緒に来ても良いかもしれないな。


 ショーウィンドウを見ながら進んだために少し時間がかかってしまったが、ようやく目当てのショップにたどり着いた。かなり本格的で品揃えも良さそうだな……俺も何か買おうかな?


「到着ー! それじゃあ……折角だから相馬君に選んでもらおっかな?」


「ん? あぁいいぞ、俺も来てみたら何だか欲しくなってきたしな。渡來さんはどんなのが欲しいんだ?」


「うーん、着心地が良くって可愛いのが良いかなー」


 そんなことを話しながら4人でショップの奥へと入って行く、美央は気を利かせたのか俺から離れて皆瀬と何か話しているようだ。


 レディースのウェアが売っているエリアに行き、渡來と色々と見て回る……着心地が良いのとなると、このメーカーとかかな? 可愛いのは……どれかよくわからんが。 


「これとかどうだ? デザインも良いと思うんだが」


 手に取ったそれは、白地にピンクのラインが入ったショートパンツなどもセットになっているものだ。


「どれどれー? お、肌触りがかなり良いねぇ……値段も手が出しやすいし、これは良いかも……ちょっと試着してみるよー」


 渡來が試着室へと向かうと皆瀬と美央もついて行った。流石に俺が見るわけにもいかないだろう……と、自分のウェアを見に行っていると美央には伝えておく。


 最近運動していないからなぁ、少しトレーニングをしておきたい……何着か手に取った内から黒地にオレンジのラインが入ったやつに決めた、丁度そのタイミングで渡來たちが戻ってきたので一緒にレジへと並ぶ。


「相馬君ありがとうねー! いやぁ、良い買い物したわー!」


「気に入ってもらえたようで良かった。この店は中々の当たりだしまた来ようかな」


 それぞれ会計を済ませた後、ショップの前で先に出て待っていた美央たちと合流した。


「にぃにも買ったんだね、またトレーニング始めるの?」


「んー、そうだな最近はサボってたしそろそろ身体が動かしたくなった」


「そっか、でも渡來先輩と同じのにしたの、気が付いてる?」


……え? 同じって……特に気にしていなかったんだが……そう言われるとなんとなくデザインが似ていたような……。


「同じって……メーカーがだろ? 俺も気に入って使ってたメーカーのだからなぁ」


「ううん、同じメーカーのウェアが何種類かあったけれど、同じデザインのやつ選んでいたよ?」


「あー、まじか? そう言われると俺の好みで選んだからかもなぁ……」


「ふふっ、これでにぃにとペアルックだね」


「気が付いていたのなら会計する前に教えてくれよ……渡來さん、ごめんな。まぁ揃って着る機会なんてまず無いとは思うんだが……」


 言いながら渡來の方を見ると……え? 顔が真っ赤なんだが!? 「相馬君とペアルック……」とか言っちゃってるんだけど!?


 俺の言葉が続かなかったからか、それとも皆の視線を感じたのか……ハッとした顔を見せた渡來は明らかに動揺をしたまま、取り繕うように口を開いた。


「も、もぅやだなー! スポーツウェアなんだしそんなこと言ってたら部活の皆ペアルックだよー、あはは」


「確かに、カップルでお揃いのウェア着て帰っているの見かけるわよね」


 皆瀬ぇ!? 余計なことを……あぁ、渡來が俯いちゃったじゃないか……。


「まぁ、俺と渡來さんじゃ良くてチームメイトって感じだろ。ほら、俺達って友達だし……な?」


 く、苦しいか……? だが他に良い言い訳もないだろう……。


「そうね、お友達だし。孔美を揶揄からかうのはこれくらいにして、次を見に行きましょうか」


 クスクスと笑う皆瀬はそのまま渡來の隣に並んで歩きだした、やれやれ……何とかやり過ごせそうだな……それにしても美央のやつ……何で教えてくれなかったんだ?

 俺の隣に並んで歩きだした美央を横目で見ながら、気になった俺は聞いてみることにした。


「美央、なんでお揃いだって教えてくれなかったんだ? 知ってたら違うのにしたのに」


「だからだよ? にぃにが好きな物を選んだんだから、それを買って欲しいもん」


「じゃあ、何でわざわざお揃いだなんて言ったんだ?」


「だって、もしも後でお揃いだって気が付いたら気まずくなっちゃわない? それなら早めに知っておいた方が良いでしょ……それにお揃いだから余計に気に入るって言う事もあるんだから」


「そんなもんか……?」


「そんなもん、なのよ。女の子はね」


 よくわからないが……まぁ渡來が気に入って使ってくれるならそれでいいか?


「それよりもにぃに、次は皆瀬先輩だからね?」


「ん? なにがだ?」


「もぅ……にぃにとお揃いの物、だよ。私も渡來先輩も持ってるのに皆瀬先輩だけないんだから」


「え……いるのか?」


「にぃに? 私と渡來先輩と皆瀬先輩の3人は平等に、だよ? それとも……皆瀬先輩の事は嫌い?」


 皆瀬の事……? 嫌い、ではないな……一緒に居た時の雰囲気とかどちらかと聞かれれば好きだと言える。 


「好感は持てるよな。今日の事もそうだが美央とも仲良くしてくれているし、良い子だと思うよ……で、3人を平等にってなんでだ?」


「私たち3人に仲良くなって欲しいんでしょ? 私ももっと仲良くなりたいし。そうすると私たちとにぃにはいつも一緒なんだから、にぃには誰かを贔屓しちゃダメなんだよ」


「え……何だよそれ……」


「それが仲良くするなの、そのうちにわかるよ」 



 これが女心ってやつなんだろうか……? 俺にはよくわからんな……。

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