第26話

 衝撃的な目覚めではあったが、ついでに顔でも洗ってすっきりするか……。


 ザバザバッと豪快に顔を洗い気持ちを入れ替える。なにも態度を変えなくてはいけないわけじゃない……美央の事が大切なのは間違いがないのだから。


 そう、ちょっと余所よそよりも仲が良いだけの兄妹きょうだいなんだ。




 部屋に戻り、ちらりとベッドの上を確認するとどうやら美央は無事に回収を済ませたようだ……それにしてもあんなの持っていたんだな……。



 パジャマからラフな部屋着に着替え、そう言えば今日は何も予定を立てていなかったよな、美央でも誘ってどこか出掛けようか……そんな事を考えているとコンッコンコンッとノックの音が響く。


 スッと立ち上がりドアまで向かうと「にぃに、開けてー」と美央の声。


 ドアを開けたそこには、白のパーカーに黒のニットスカートを履いた美央が立っていた……部屋着ではないな、どこか出掛けるのかな?


「おう、どうしたんだ?」


「朝ご飯できたよって呼びに来たの。早く食べて用意してね?」


「用意……どこか出掛ける約束をしていたっけ?」


「覚えてないの? 昨日寝る前に渡來先輩たちとモールに行こうねって約束したじゃない」


 寝る前にそんな話していたかな……たぶん半分寝ていたんだろうし、今朝の事でそんな話は記憶のどこにも残っていなかった。


「あー、眠かったのか覚えてない。じゃあ急いで用意しないとな」


「もぅっ! それじゃあ、ご飯が冷めちゃうからはやくいこっ?」


 俺の手を掴んでぐいぐいと引っ張る美央はいつもと変わらないようだ……俺だけ意識してるのか? そう思うとなんだか少し悔しいので、今度仕返しをしてやろうと思う……。 

 食卓に並べられた朝ご飯の味噌汁と卵焼きは美央のお手製だった……お代わりもしたが正直に言ってまだ食べ足りないのでまた作ってもらう事にしよう。



 

 部屋に戻り外出用の服に着替える……皆瀬達も一緒だったか、初めて出掛けるわけだが着飾りすぎては目立ちそうだ……まぁ普段通りでいいか……。


 薄手のハイネックに黒のスキニーを履いた俺は、コートを持って一階に降りる。まだ美央は降りてきていないらしく、母さんだけがキッチンで洗い物をしていた。


「母さん、美央と出かけてくるよ。昼は外で食べると思うから要らないかな」


「はーい、なつ君気を付けてね? 遅くなるようなら連絡ちょうだいよ」


「あぁ、わかってるよ」


「あっ、なつ君……」


 洗い物をしていた母さんが手を止めて振り返る、何か言い淀んでいるようにも見えるが……どうしたんだろう?


「それと……美央ちゃんの事もよろしくね」


「ん? あぁ、大丈夫だよ」


 いつも一緒に出掛けているのに、今更よろしくだなんて変な事を言う母さんだな。




 少しの間母さんと話して待っているとブルゾンを羽織った美央が降りてきた、リップを塗っているであろう唇にどうしても目が行ってしまう……。


「にぃにお待たせ、それじゃあ行こっか? お母さん「行ってきまーす」」


 2人連れ立っての外出、俺が出掛ける時はほぼ一緒だ。こうして一緒に出掛けるようになったのはいつからだっけ……小学生の頃はもう一緒に居たっけなぁ。

 そう思うと、俺の思い出にはやっぱりいつも美央がいるんだな……。

 

 


 待ち合わせの公園に付いたが、今日も俺達の方が早かったらしい。まぁまだ時間まで20分はあるから仕方が無いだろう。


 これから行くショッピングモールは二駅先にある、最近改装されたとかでそれなりに人気が出ているそうだ。


「美央は何か見たいものでもあるのか?」


「そうだね、これから暖かくなっていくんだし新しい服とか見たいかも……にぃにが選んでくれるんでしょ?」


「俺が選んだので良いのならな? 最近の流行とかよくわからないし……初めて行くところだから、見て回るだけでも楽しいかもしれないな」


「にぃにが選んでくれるのがいいんだよ。ふふっ、デートは久しぶりだね」


「デート……なのか? 皆瀬さん達も居るんだが……」


「じゃあ、4人でデートかな? 楽しみだなぁ」


 そんな話をしていると公園から見える道の先に皆瀬と渡來の姿が見えた。2人も俺達に気が付いたのだろう、こちらにかけてくるようだ……そんなに急がなくてもいいのに。


「相馬君、美央ちゃんおはよう、待たせちゃったかな?」


「いや、俺達も今来たところだよ。2人とも早かったね、まだ時間前なのに」


「2人ともおっはよー。なんか明莉が楽しみだって待ちきれなかったみたいでさー」


「く、孔美っ、なにもバラさなくたって……」


「ははっ、俺達も今楽しみだなって話していたところだよ」


「皆瀬先輩、渡來先輩おはようございます、今日は誘っていただいてありがとうございます。私もすっごく楽しみにしてたんですよ」


「美央は服とか見たいらしくて俺も一緒に回るんだけど……2人ともよく似合っていて可愛いよね、良かったら服を選ぶとき色々と教わってもいいか?」


 2人の私服は当然初めて見るわけだがポイントを押さえているのだろうか、とてもよく似合っていて可愛い、そんな彼女たちの意見も聞きながら選ぶのも悪くは無いだろう。


「そ、そうですか……? その、相馬君さえ良ければ私も一緒に見て回りたいです」


「いいねー、皆で色々と見て回ろー! 相馬君、覚悟しておいてねー?」


 にししっと渡來が何か企んでいるような笑みを見せる……まぁ女の子の買い物なんて時間がかかるものだろう……それが3人ともなればお察しだ。


「あ、それじゃあ……皆の分をにぃにに選んでもらいましょうか。男性の意見も欲しいですよね」


「おー! 美央ちゃんナイスアイデア! それでいこー! 良いよね、明莉」


「えっ!? 相馬君が選んでくれるの? やった……」




 俺が何か言う暇もなく3人の中では既に決まったらしい……今日は忙しい一日になりそうだ、皆が喜んでくれるものが見つかれば良いんだが……。

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