第24話 皆瀬 明莉

―――― side 皆瀬 明莉


「明莉、あれは強敵だよっ!」


 相馬君たちと公園で別れた後、私の家で一緒にお昼ご飯を食べた孔美は部屋に入るなりそう言いだした。


「強敵……って、美央ちゃん?」


 思い当たるのは相馬君の妹、美央ちゃん。今日初めて会ったけれどとても一つ年下だなんて思えないほどに大人っぽい容姿、可愛らしい笑顔と共に平然と行われるスキンシップとそれを当たり前のように受け取る相馬君……。

 2人の関係を知らない人が見ればラブラブのカップルにしか見えないんだろう、私たちも妹さんだって言うことを忘れてしまっていたくらいだし。


「そうそう! 容姿も良くて性格も良い、その上甘えん坊の妹キャラと小悪魔な後輩キャラの良いとこ取りじゃん! そしてお兄ちゃんラブ、これを強敵と言わずになんと言うのかっ!」


……妹キャラ? 美央ちゃんは妹さんなんだし当たり前でしょ……後輩でもあるんだし。


「でも、妹さんだし……そりゃちょっと近すぎじゃないかなーって思いはしたけれども……仲が良いのはいい事じゃない」


「わかってない! わかってないよー明莉さん!」


 明莉さんって……今の孔美はなんだか変なテンションになってるみたい……肉まんあげなかったのを根に持ってるのかな? でも、相馬君から初めて貰った物だしあげたくなかったんだもん、何だかいつもより美味しかった気がするし……。


 それとも、公園で美央ちゃんが言った台詞が気になっているのだろうか……。


――『私、にぃにが大好きなんです……1人の男性として』


 私の目を見て言ったその言葉、宣戦布告と言う事なの? それとも私を試した? なんにせよ、美央ちゃんが相馬君を好きだという気持ちに嘘偽りはないんだろう。


「いい? 例え兄妹きょうだいだからって切っ掛けがあればそんなのは何の障害にも……ならないとは言わないけれども! でもでも、乗り越えてしまう人だっているんだからね……映画でもそうだったし!」


 孔美が言っているのは一年くらい前に公開された映画の事だろう、確か生き別れの姉弟のラブストーリーだったかな。ラブシーンが過激だって評判があったので私は観ていない……けれど、孔美はレンタルされ始めたときに借りて一人で観たらしい。


「映画のお話でしょ……? それが相馬君たちにも当てはまるなんてこと、今はまだないんじゃないかなぁ」


「それは……そうかもしれないけどさぁ」


「でしょう? 確かに、もしも相馬君が他の誰かとお付き合いするなんて言われたら……うん、絶対にイヤ。でもあの2人が一緒に居るのって凄く自然だし、変かもしれないんだけどそんな2人も私は好きかなぁ」


「うーん……今日一日だけだけど、確かにそれはあるかも……」


 孔美が腕を組んで唸っている……それは良いんだけれど、制服のスカートのままベッドの上で胡坐をかくのは止めたほうが良いよ?


「それに……そうね、私はこんなに誰かを『好き』だなって思ったことは初めてだし……何が正解で何が間違いかなんてわからないけれども……」


 ゆっくり言葉を選びながら、自分の気持ちを捉えてみる……相馬君の事は大好き。そして美央ちゃん……好きだなぁ、もっといっぱいお話してみたい。

 それに孔美。私の幼馴染で一番の親友……彼女のいない日常なんて考えられない。あ、そっか……相馬君と美央ちゃんは、私と孔美と同じなんだ……。

 血の繋がりだとか同性だとか……そんなことは関係ない。只々その人の傍に、ずっと一緒に居たい……『恋』、じゃないよね……それよりももっと優しくて暖かい気持ち。


「……ねぇ孔美、もしも……もしもだよ? 私が孔美と同じ人を好きになっていたとしたら……孔美はどうする?」


 私の問いかけに孔美はパッと目を見開く。数瞬の後ふわっと笑顔を見せた孔美はいつもとは違うゆっくりとした口調で、それでもはっきりと答えてくれた。


「そんなの、一緒に好きでいればいいでしょ。明莉と同じ人を好きになってその人の事を一緒に話せる、私すごく幸せだと思うよ」


「そうね、私もそう思うわ。じゃあ、美央ちゃんともそうなれるって思わない?」


 美央ちゃんと私、同じ人を好きな者同士もしかしたら私と孔美のような関係になれるかもしれない……ううん、んだ。


「あー、なるほどぉ……うんうんっ、それいいね! なんかさ、今朝一緒に4人で登校した時『これ良いなぁ』って思ったんだよねー」 


 この世に『運命の赤い糸』なんて無いのかもしれない。でも、もしもそれを見ることが叶ったのなら……きっと私たち4人は一つに繋がっているんじゃないかな。


……孔美はまだ絶対に気が付いていない、相馬君に対する自分の態度に……のが当たり前だと思っている自分に。

 きっと他の誰が見てもその違いには気が付かないだろうそれは、わたしだけがわかる感覚。


 孔美が私の事を他の誰より、本人でさえも気が付いていないことを察するように。


 何か切っ掛けがあったら、孔美は相馬君と美央ちゃんの関係性にそう言ったけれどそれは孔美も同じなんだよ? もしも私と同じようなことにあったら……でもこれは私から言うことじゃない、だから一つだけ忠告しておいてあげる。


「……落ちたらほんとに凄いんだからね」


「んー? なぁにー?」


「ふふっ、なんでもないわ。それより、明日は土曜日だし孔美は部活まだでしょ? 美央ちゃんも誘って出かけてみない?」


「いいねぇ! 部活が本格的に始まるのは来週からだし、ゆっくりしたいかもー」


「一緒にモールでお買い物とかしたいわね、じゃあ誘ってみようかな?」


 メッセージを送るとすぐに返信が来た。


――――『お誘いありがとうございます、兄も一緒に良いですか?』


 もちろん、断る理由なんてないし快諾する。お休みの日も相馬君たちに会えるなんて……あれ? そう言えばまだ私服って見せたことない……出会ってからまだ2日なんだし、学校でしか一緒に居なかったんだから当然よね。


「孔美! 明日、相馬君も来るって……何着ていけば良いかなぁ!?」


「んー? 美央ちゃん誘ったらそりゃ相馬君も来るでしょ、何慌ててんのよー」

 

 そうだけど……そうだけどさぁ! ぅぅ……最近新しい服なんて買っていないしどうしよう……。



――――



 結局夜までかけてコーデを選んだ結果、最初に選んだ白いニットカーディガンにショートパンツ、黒タイツと言う服装に落ち着いた……。

 孔美は赤いチェックのミニスカートにライトグレーのフリースアノラックパーカー、らしい。よく着ているのも見るしお気に入りなんだろうな。




 これで準備も出来たしお風呂に入って寝ようかな、でもドキドキして眠れないかも……明日、楽しみだなぁ。


 そんな事を考えつつ、少し大人っぽいを選んだ私は、足早にお風呂へと向かった。

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