第22話 相馬 美央

―――― side 相馬 美央





 渡來先輩達と公園で分かれた後、私とにぃには自宅で寛いでいる。

 お母さんは当然お仕事だし、今家には私たちしかいない。お昼は用意しておいてくれていたので、それを温めなおして二人で食べる……いつも通り、変わらない風景だ。

 

 (私も料理の練習しなきゃ……にぃににいっぱい食べて欲しいな)


 お母さんのお手伝いはいつもしているしそれなりに出来るつもりだけれど、いつもお母さんにアドバイスをもらっている。

 たまには一人で最初からやってみたい、自分だけで作ったものを「美味しい」って食べて貰いたいと思うのは何もおかしなことではないはず。

 


 今度お母さんに相談してみよう、そう思っているとにぃにから声をかけられた。


「美央、今日はこれから何するんだ?」


「んー、にぃにと一緒?」


「何で疑問形なんだよ……まぁいいや、この前借りた映画まだ観ていないのが残っていただろ? 一緒に観ないか?」


「うん! じゃあおやつも準備しようか、映画鑑賞会だねっ」


 ふふっ、楽しみだなぁ……って、あれ? 残っていた映画って確か恋愛ものじゃなかったっけ……?

 公開当時には結構話題になってたはずだけど、見る機会が無かったんだよね。どんな話だったかなぁ……。



――――



 いつもの様ににぃにの左隣にピタリと寄り添って座り、一緒に映画を見始めた私たち……でも一時間もしないうちに私は後悔していた……非常に気まずいのだ……なんか聞いたことのある映画だ、人気があったんだろうなんて安易に借りるんじゃなかった……。


 今、テレビには濃厚なラブシーンが流れている……思い出した、当時人気が出始めた若手女優が初めてのラブシーンに挑戦すると話題だったんだ……。


(えぇ!? そんなところまで映しちゃうの……!? これ、R18とかじゃなかったよね、普通に借りれたし……わわっ、そんなことまで!?)


 それなりの知識があるとはいえ、私だって年頃の女の子……そんなシーンを大好きな人の横で見る羽目になってもう内容なんてわからなくなってた……あー、顔が熱いよ……。




……その後ラブシーンが終わり、少し落ち着いた私は映画を食い入るように見ていた。


 若い二人の恋のお話、でも周りはとても残酷で……二人には別れが訪れてしまう。そんな悲恋のお話だったんだけど、この二人と言うのが幼い頃に生き別れた姉と弟だというのだ。

 そうとは知らずに恋に落ち、愛し合うことが出来たのに現実はそれを許さない。二人は引き離され、それでもお互いを強く求め、想い続けるが時はそれすらも許してはくれない……そんなお話だった。

 映画としてはあり得る設定……でも私は自分とにぃにを重ねることしかできない。



 兄と妹、二人の恋愛なんて許されない……いつか、この映画の様に離れる日が来るの? 離れるのなんてきっと耐えられない……じゃあ、好きな気持ちを忘れる? 忘れてしまえば傍に居られる……ううん、そんなことは在りえない。

 

 いつか、にぃには誰かを好きになって私から離れていくのだから……。


 あぁ……妹じゃ……ずっと傍には居られないんだ……。



「あー……内容を知らなかったんだがかなり際どいシーンがあったな、知っていたら一緒に観なかったんだが……悪かったな」


 そっと私の頭ににぃにの暖かい手が乗せられる……ぐるぐる、ぐるぐると回り続けていた私の思考はその瞬間、にぃにの事だけを考えるようになる。


 この優しい兄が幸せでありますように……笑顔で過ごせますように……。


「ううん、ちょっとびっくりしたけどね。私も内容は知らなかったし……話題になってたはずだけどすっかり忘れちゃってたよ」


「んー、まだ時間はあるな。返す前に他のやつまた見直すか?」


「あ、それじゃあ……」


 折角だし、なにか二人で笑える物を観よう。たしかにぃにが好きなシリーズ物があったはずだよね。



――――



 2人で映画を見て笑いあった後、お母さんが返ってきたので一緒にご飯の用意をする、今日は私の大好きなシチューだ。

 

「美央ちゃん、シチューを煮込むコツはね……沢山の愛情を込める事なのよ?」

 

 そんな誰もが言い、使い古された事を教えてくれるお母さん。でも誰もがそう思いそして実感しているからこその、聞き慣れた隠し味なんだろう……おいしくなぁーれっ。



 その日のシチューは大好評でにぃには3杯もお代わりをしてくれた、私が煮込んだのを知ると「美央が煮込むといつもよりもおいしい気がするな……今度煮込みハンバーグ作ってくれないか?」だって! またお母さんに教えてもらわなきゃ!



 私とお母さんがご飯を作っている間に、にぃにがお風呂の用意を済ませてくれていた。


 先ずはお母さんが入って次が私。この家のお風呂は結構広く作られており湯船は2人でも十分入れそう……足を伸ばしてゆっくりと温まりながら今日の出来事を思い返す……。


 渡來先輩、にぃにが紹介してくれるだけあってとても明るくて可愛らしい人だったな。いつの間にかペースに巻き込まれて笑顔になっていそう、仲良くなるのに時間もかからなかったし一緒の登下校はきっと楽しいだろう、そんな印象だ。

 部活が始まると朝練がある為にそんな機会も減ってしまうのが少し寂しい、一緒に遊ぶ機会が作れたらいいなぁ。

 

 そして、皆瀬先輩……初めて見たときは驚いた……目元や雰囲気がそっくりなんだもん。

 きっとにぃには気が付いていないはず……私がを知っていると言う事を。


 にぃにが泣いたあの夜、あの日に何かがあったんだろう。時々見かけていた2人が一緒にいるところを全くと言っていいほど見なくなった。

 2人一緒にいるときのにぃには、私に見せる笑顔の何倍も優しい顔をしていた……

そんな2人が一緒に過ごさなくなったんだ、イヤでもわかる。


 そんなあの子に似ている皆瀬先輩……出会いもドラマティックだし、もしまたにぃにが誰かに恋をするのなら彼女だろう……と私の心が警鐘を鳴り響かせた。


 公園で話した時、彼女もまたにぃにに恋をしているのは間違いがないし。


 にぃにを取られてしまう……? でももしも彼女が私の事も認めてくれたのなら?そうすれば私もずっとにぃにと一緒に居られるかもしれない。

 

 そうだ……たとえ妹を一緒に愛していたとしても、それが目立たなければいいんだ……複数の女性を同時に愛するように。



……にぃにハーレム計画、良いかもしれない。

  

 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る