第21話

  美央にメッセージを送るとすぐに返信が来た。


――――『はーい、それじゃ正門前で待ってるから早く来てね』


 やはり待たせていたようだ、早速正門に向かうか……皆瀬達にも声をかけると、春翔以外は一緒に帰るらしい。春翔は他の待ってくれていた女子生徒たちと帰るんだと言う……これがリア充だというのだろうか、まぁ俺達とは帰る方向が違うんだが。

 さて、入学式と始業式が終わって明日は土曜だ、週明けから授業が始まるので一息つきたいところだが何をしようか……そんな事を考えつつも俺達は正門へと急いだ。




 正門前に向かうと、数人の男子生徒が足を止めて何かを見ているようだ……訂正しよう、正門前にいるであろう美央を見ているのは間違いない。

 案の定、彼らの視線の先には鞄を身体の前でプラプラとさせている美央が居た。そんな視線を多少気にしつつも、そのまま足を止めることなく美央の所まで俺達3人は進んでいく。


「悪いな、待たせたか? 寒かっただろ」


 少し離れた位置から声をかけた俺に気が付いた美央は、いつもの笑顔を見せて駆け寄ってくる。


「お疲れ様! ほんと寒かったよ……暖めてくれる?」


 そう言い、そのまま俺の右腕にぎゅっと抱きついてくる美央……なんかいつもと違うな? 何かあったのか……と周りを見回していると、周りにいた男子生徒が露骨にこちらを睨んでくる。

 

「それじゃー、寒いし帰ろうか。美央ちゃんお待たせしちゃってごめんねー」


 渡來も気が付いているのか早くこの場を離れるようにと暗に伝えてくる。


「渡來先輩も、皆瀬先輩もお疲れ様でした。それじゃあ帰りながら今日の事教えてもらってもいいですか? 学校案内でしたよね、高校の校舎ってどんななんだろ」


 そして、皆瀬は俺の左側に渡來は美央の右側に付いて歩き出す……もちろん、美央は俺と腕を組んだままだ。 


 


「で、いったい何だったんだ? 理由くらい教えてくれるんだろ?」


 正門からだいぶ離れて、周りに生徒の姿が見えないことを確認した俺はそう切り出した。美央が俺に抱きついてくるのはいつもの事だが、今日はどこか違った……どこがだなんて聞かれても答えることは出来ないんだが……違うと思っただけなんだから。


「やっぱりにぃににはバレちゃうか。えーっと、話すと長くなるんだけど……」


「美央ちゃん、なんだかすっごく見られてたよねー。可愛いから仕方ないんだろうけど」


「そうですね……私たちが来た時も、じっと見てきましたし……」


 女の子は視線に敏感だ……それとも、普段から注目を浴びるであろうこの二人だから、なんだろうか。


「ごめんなさい……私は今日が初登校になるんだけど、自己紹介があったのね」


「あー、転校生でものすごく可愛いから皆押し掛けてきたってわけかー」


 渡來が、なるほどーっと大きく頷く。確かに美央のような可愛い子が同じクラスなら男子のテンションも上がるだろう……。


「えっと……それが面倒だから最初に言ったの。『私には年上の素敵な彼氏が居て、その人が大好きだからその他には興味がない』って」


 あぁ……それで俺がその彼氏だと勘違いされたのか、兄妹きょうだいなんだがなぁ……。


「でも仕方がないでしょ? 男子なんて胸ばっかり見てくるんだから……皆瀬先輩もわかりますよねっ」


「えっ、私!? ……ぅん……」


 話を振られた皆瀬は顔を真っ赤にしてはいたが、か細い声で同意を告げる……美央の向こう側では渡來が『ガーン』と効果音が付いていそうな顔をしているが……大丈夫だ渡來、成長はあまり見込めないかもしれないが……無いことはないんだ、そのままでも需要はあるぞ。


「その点、にぃには紳士……と言うよりは大きくても小さくてもいける人なので」


「美央!? なんで知って……いや、今言う必要があるのか!?」


「にぃにが街中でどんな人を目で追ってるのかなんて、バレバレだからね? 男の子なんだし仕方ないんだろうけどさ、それでもやっぱり気になるんだよ?」


 なんで俺は妹に怒られてるんだろう……普通、可愛い服とか見かけたら目が行くだろ……。

 隣で皆瀬が「そっか……相馬君だって……」なんて言っているのが気にはなるが、このままでは俺は街中でおっぱいチェックしているなんて思われてしまいかねない!


「言っておくが、見ていたとしてもその人の服装とかだからな? 美央に似合うかなって思ったらチェックするのは仕方ないだろ」


「えっ?」


「そりゃ、一緒に出掛けてて他の人の服なんて見てたら気を悪くするのもわかるが……俺にだって理由があってだな」


「待って? え? 服を見てるのっていうのは良いんだけど……」


「ん? いいのか? わかってくれたのならいいんだが……この間買いに行った服だって、街中で見て気に入ったやつを参考にしたんだからな?」


 良かった、何とか誤解されずに済んだようだ。それにしてもちらっと見たくらいだと思うんだがなぁ……これからは控えたほうが良さそうだ。

 ん? 美央のやつ急に静かになったな……腕をにぎにぎするのは止めて欲しいんだが……。



――――




 なんだか微妙な空気になった気もしたが、電車に乗るころにはそれも無く。俺達は今日の学校案内に付いて話しながら帰った。


 図書室はやはり美央も気になるようで俺が委員に入ったら行くと言っていたが、相手は出来ないかもしれないので委員じゃない日に一緒に行こうという話になった。

 俺が遅くなる時は皆瀬と一緒に帰って欲しいしな。


 


 公園まで着いたところで解散となる……かと思いきや、3人は何やら話したいことがあるようだ。

 俺は邪魔らしく、美央にコンビニで飲み物を買ってきて欲しい頼まれた……今日は少し肌寒いし、外で話しているなら身体も冷える事だろう。


(んー、暖かいお茶でいいか……美央も時々飲んでいるやつだしな。お、肉まんがあるなぁ……昼飯前だから1人1つは多いか? 2つ買って半分こすればいいか)


 店内をぐるりと回り目星をつけつつ、少し時間をかけてから会計を済ませて皆の所へ戻る。


「待たせたか? 肉まんが美味しそうだったから買ってきた、半分ずつにしよう」


 1つを取って袋ごと皆瀬へ渡す。自分の分を半分に割り、美央にどっちがいいか目で問いかけて小さめに見える方を渡した。


 「おいしー! まだ寒いから凄くおいしいねぇ」


 渡來はパクパクとあっという間に肉まんを食べきってしまった。そして物足りないのか皆瀬のまだ残っている肉まんを見つめる目は、まるで置いて行かれそうな小動物のようだ……意外と食いしん坊なんだな。


 あげるのかな? と思っていると、渡來と肉まんを交互に見た皆瀬は……そのまま肉まんにかぶりついた、あげないのかよ!?


……どうやら譲れない何かがあったらしく、両手で肉まんを持ってモグモグと食べている皆瀬はどこかご満悦なようだ。

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