第16話 相馬 夏希

―――― side 相馬 夏希





 翌日、少し早めに出た俺と美央は公園で皆瀬達を待っていた。


 美央は栗色の髪をサイドで一つに纏め、高校とは色違いの制服に身を包んでいる。デザインはほぼ一緒みたいだが、胸の校章やリボンのデザインなどが少し違うみたいだ。

 スカートから覗く脚には黒のタイツ……たぶん、膝丈のやつだろう。

 俺達の通う学校は入るのは大変だが、校則は比較的緩めらしい。制服を多少着崩しても問題は無い……俺はきっちりネクタイも締めているけど。


「にぃに、一緒に行く人ってどんな人たちなの?」


「んー、そうだな……とは言ってもまだあまり話したことは無いんだが、皆瀬さんはどちらかと言うと大人しいかな、渡來さんは逆に明るい」


「そっか、にぃにが一緒に登校するくらいだからきっといい人たちなんだろうね、楽しみだなぁ」


 そういう判断の仕方もあるのか……まぁ美央にも紹介して良いと思うくらいなんだからあながち間違いでもないんだが。


 公園に着いてから5分も待たないうちに入口に渡來の姿が見えた……ん? なんで立ち止まってるんだ……あ、皆瀬も来たな、ってお前も立ち止まるのか!?


「あれ? にぃにあの人たちがそう? こっちに来ないけれど」


「あぁ、あの二人なんだが……まぁどうせ駅はあっちだし合流するか」


 美央と二人で近づいていくと、二人がぽかんとした顔をしているのがわかった……どうしたってんだ?


「……二人ともおはよう、どうしたの?」


 声をかけたことでようやく渡來が動き出す、がどこかぎこちない? ギギギッとでも聞こえそうに俺の顔を見てくる。


「えっ、あっ相馬君おはよー。えっと……彼女さん、かな?」


 渡來の声を聴いたのか、途端に皆瀬がビクッとした。あれ? もしかして昨日の話が伝わっていないのか?


「ん? 皆瀬さんから聞いていないのかな? 妹の美央、一つ下だけど今日は一緒させてもらうね」


「あぁー! はぁ!? えっ? 妹さん? えぇ!?」


 面白いくらいにわたわたとする渡來……妹だけど、そんなに変か?


「そうだけど……どうしたの? 美央、こちらが渡來さんで……隣が皆瀬さんな」


「渡來先輩と皆瀬先輩ですね。初めまして相馬 美央です、兄がお世話になっています」


 それに対してぺこりと二人にお辞儀をして挨拶をする美央……これじゃどっちが先輩かわからないな。というか美央、俺は世話になんてなっていないぞ?


「あー、いやぁびっくりしたー。ごめんね、私は渡來 孔美、相馬君のクラスメートだよ、宜しくね美央ちゃん!」


「ほんと驚きました……同じく皆瀬 明莉です、宜しくね美央ちゃん」


 皆瀬もようやく落ち着いたみたいだ……妹に見えないか? まぁ二人で出かけたら彼女と言われる事の方が多い、と言うか中学の頃からはそうとしか言われたことは無いが。

 でも、昨日妹と一緒って連絡してたんだからわかる……よな?


「二人とも何にそんなに驚いていたの……。ま、揃ったし遅くならないように行こうか」

 

「うぅ、美央ちゃんが可愛すぎる……凄く大人っぽいし私負けてるよ……」


 じーっと美央を見て呟きながら落ち込む渡來、まぁ彼女はどちらかというと幼く見えてしまう方だから仕方ないか……、どこが負けているのかは触れないほうが良いんだろう。


 そんな渡來を励ますかのように皆瀬が連れ立って歩き始めたので、俺も美央と一緒に付いて行く。

 少し時間を取られたが充分に余裕を見て集まったし、急がなくても間に合うだろう。


 少し進んだ所でようやく渡來が本来の元気さを取り戻し、後ろを歩いていた美央に話しかけてくる、そうすると皆瀬が一人になってしまうのでちらりと美央に目をやってから俺は少し足を速めて隣に並んだ。


 少し俯いていた顔を上げてこちらを見た皆瀬は少し驚いた顔を見せるが、ふわっとした笑顔を浮かべる……ん、今日はリップを縫っているんだな、昨日とは違う赤みを帯びた唇がどこか艶めかしい。


「孔美がうるさくしちゃってごめんね? 嬉しい時はいつもあんな感じで……」


「あぁ、まだよく知らないけど渡來さんらしいって言うのかな。美央の事を気に入ってくれたのなら良かった」

 

 後ろでは美央が時折「にぃには」とか言っているので俺の事を話しているのかもしれない……少し小声になっているので全てを聴き取れはしないけど。

 

「うん、私も仲良くしたいな。相馬君、美央ちゃんと凄く仲が良いのね」


「そうだね、でも妹って兄貴にとったら一番可愛いものなんじゃないかな?」

 

 と言ったところで、急に「にぃにー」と呼びながら美央が俺の右腕に抱きついてきた。


「ねぇにぃに、私って可愛いの?」


 ニヤニヤとしながら、少し頬を染めた美央が問いかけてくる……聞こえてたのか、全くこんな所で甘えてくるなんて困ったやつだ。


「おぅ、可愛いぞ。美央は世界一の妹だな」 


 えへへーっと照れくさそうに微笑む美央、でも抱きついた腕をにぎにぎとして照れ隠しをするのは止めてくれ……お前が聞いてきたんだろう?


「相馬君って美央ちゃんには甘々だねー、なんか雰囲気も違うし」


 追いついてきた渡來が皆瀬の隣に並んで茶々を入れてくる……甘い、かな? まぁそれも仕方ないだろう、だって美央なんだから。


「そうかな? まぁこんな妹だけれど仲良くしてくれると嬉しいよ」


「む! にぃに、こんな妹は無いでしょー? 罰として私に優しくしなきゃいけないんだから」


 美央はそう言いながら抱きついている俺の右腕にぎゅーっと力を込めてくる。それを見たのか皆瀬さんが「あわわ……」と呟いているのが聞こえた。

 柔らかな双丘に俺の腕が埋まるのが伝わってくるが、これははたから見てもよろしくない光景かも知れない……まぁ離れたりはしないんだが。おい、そこのサラリーマンこっち見るな。


「それは帰ってからな、そろそろ駅につくから放してくれ。手が使えない」


 渋々……と言った雰囲気をこれでもかっ!と漂わせて美央は腕から離れてくれた……ので空いた手でそっと美央の頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めながら頭を押し付けてくる。


「相馬君……往来では少し自重したほうが良いよ……」


 じとーっとした目で渡來に注意されてしまった……学校じゃないんだしいいだろ、別に……。

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