第15話

 奇跡の再会、それだけであればなんて素敵なことだろう。


 でも現実は目をまん丸にして動くことも出来ない惨めなものだった……もし孔美が居なかったら暫く動くことが出来なかっただろう。彼と同じクラス……それだけでこれからの高校生活にパァッと光が差したかのようだった。


 でも、先ずはお礼と自己紹介をして……あわよくばお友達に……もしも連絡先の交換なんてできたら嬉しいな……!



――――



 入学式も終わって、各クラスでのSHR……ようやく彼の名前がわかった、相馬 夏希君……かぁ。


 芹澤君の後ろの席らしく二人で何か話をしていたみたい、良いなぁ……でも芹澤君なら中学から知ってるし同じクラスになったこともある、他の男子と一緒に居る時よりも話しかけやすいかも? ちらちらと相馬君の様子を窺っていたら、周りが全く見えていなかったみたい……。


「……あーかーりぃ、なーに見てんの!「きゃぁ!?」」


いきなり背後からがしっと抱きつかれて悲鳴をあげてしまう。もぅ、孔美ったらいっつも人の事を驚かせて楽しむんだから……。


「孔美ぃ……いきなり抱きつかないでっていつも言ってるでしょ?」


「あははっ、ついねー……ふぅん、相馬君……ねぇ」


 にやにやとしながら私を横目で見つめてくる……って、なんで彼の名前を!? もしかしてまた顔に出ていたのかな、恥ずかしい……。


「なるほどなるほどー。明莉ったら見つめすぎだよ、皆にバレても知らないからね?」


 クスクスと笑いながら言われた……嘘……そ、そんなに見ていたかな……。そっと周りの様子を見てみるけどどうやら私の事に気が付いている人は居ないみた……あれ、芹澤君と今目が合った気がしたんだけど……まさか、ね。


「意外だなぁ、あんな地味な感じの人がねぇ……まぁ背は高いけれど」


「見た目は大人しそうでも、すごく頼りになるんだから」


 確かに長い前髪と言いぱっと見は地味に見えるかもしれないけど、孔美にはそんな事を言って欲しくないなぁ……。


「あー……ごめんってぇ。そんな顔しないでよ」


 どんな顔してたのかはわからないけれど、私は昔から孔美に隠し事が出来た試しがない。家族以上に私の事をわかってくれるんだから……。


「もぅ……いいわよ。それよりもどうしたの?」


 孔美が考えもなく私を揶揄からかってくることはまずない……きっと何か話があるはずなんだけど……タイミング的にはやっぱり相馬君の事なのかな?


「んー、作戦会議? 帰り誘っちゃえって言いに来たんだけど……もう帰っちゃったみたいだね」


……んん!? ガタッと椅子が倒れそうな勢いで立ち上がり相馬君の席を見るともうそこには彼の姿が無かった……いつの間に!?


「ほらほらっ、さっきまでは居たんだからすぐに追いかければ大丈夫だって! 早く帰る準備して!」


 そうだ! こうしちゃいられない……何としても今日のお礼を伝えて……お、お友達になってもらうんだからっ!






――――





 急いで追いかけた私たちは何とか相馬君に追いついて一緒に帰ることが出来た……帰り道、驚くことに相馬君がご近所さんと言う事がわかったり、妹さんが居るって教えてもらったり……それになんと! 連絡先の交換までもしてくれたのだ!

 もう、なんて良い一日だったんだろう、そんな風に一人はしゃいで帰ったその日の夜……私は自分の部屋でパジャマ姿の孔美と一緒に居た。


 今日の孔美は白いウサギの耳が付いたフリースのロング丈パーカーワンピース……赤みが強い髪に可愛らしい容姿の孔美には驚くほどに似合っている。

 そして私は黒色で犬の耳が付いたお揃いのワンピース……隣りあわせに住んでいる同い年の女の子同士だからか孔美とはまるで姉妹のように育ってきたし、こんなパジャマパーティは二人で頻繁にしている。



「……それで、まさか今日も泊っていくつもりなの?」


「そうだよー? 言ったじゃん作戦会議だって。連絡先も交換して、明日一緒に登校する約束も出来たんでしょ?」


「うん……孔美のおかげでね」

 

 そう、連絡先を登録したスマホを見ていたらいきなり孔美が部屋に入ってきて「明日一緒に登校しようって誘いなさいっ」と言われたのだ……迫力に負けてメッセージを送ったのは良いが、いつまで待っても既読にならないし……。


 孔美が言うには「呆れるくらいスマホをいじっていた」とか、ようやく返信が来た時なんかは「満面の笑みってこういうのを言うんだね」なんて言われてしまったけれど、もう今更よね。

 

「いーい? 明莉は今、相馬君と一番仲がいい女の子ってわけだけど、それは初日のアドバンテージがあるだけなんだからね? ぼやぼやしてるとさっと他の子にとられちゃうんだからー」


 そ、そんなぁ!? 相馬君が誰かに取られちゃうなんて……絶対にイヤ!


「だからー、明日から毎日一緒に登校して、相馬君と明莉がカップルだって周りに思わせちゃうんだよー」

 

 カ、カップル!? ここここ、恋人って事よね!? 私と相馬君が、恋人! 恋人かぁ……あんなことや……そんなことなんかも……。


「……なーに一人でによによしてるのさ。まぁ何考えてるのかなんてまるわかりだけどねぇ」

 

「べべべ、別に変なことなんて考えていないわよ!? う、腕を組んだり、抱きしめてもらったりとかそれくらいなんだから!」


「今の明莉なら相馬君の一人や二人落とせそうだけどねぇ」


「何よそれ……それよりも、相馬君は学校で騒がれるのは嫌みたいなの。でも、私が話しかけたりすれば……」


「間違いなく大騒ぎだね! うーん……春翔君に手伝ってもらおうか!」


「芹澤君? そうね……彼が一緒なら相馬君だけが変に目立つこともないだろうし」


「2対2の方が相馬君も話しやすいかもしれないしねぇ、明日の朝相談してみようよ!」


「うん、それじゃあそろそろ寝ましょうか。早めに起きて用意もしたいし……」


「だねー、私も一度帰って用意しなきゃだし」


「電気消すわね「おやすみなさーい」」


……明日は相馬君と一緒に登校、楽しみだなぁ。




――――




 翌朝一緒に朝ご飯を食べた後、孔美は学校の用意をしに先に出た。今日はお母さんが居るので後の事は任せてしまおう。


 さて、今日の私は……リボンよしっ、スカートよしっ、寝癖……なし、うん大丈夫! 後は少しでも可愛く見て欲しいから……リップも塗ってみようかな……。


 

 家の前で孔美と合流した私は逸る気持ちで公園へと足を進める……少しでもお話できたらいいなぁ。


 公園が見えたところで孔美がタタッと駆け出して行った。もう目の前なんだしそんなに急がなくても、と思ったが孔美は公園の入り口で立ち止まってしまう……どうしたんだろ?


 駆け寄ると孔美は目をまん丸に、ぽかーんと口が開いた状態で公園の中を見ている、ついっとその視線を追った所で……私も動くことが出来なくなった。


 そこにはもう相馬君が来ていて、その隣にはとても仲が良さそうな女の子……それも、私が見劣りするくらいのものすごく可愛い子が居たのだ……。

 

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