第9話
それから部屋に戻った俺は、ベッドへごろんと寝転がる。朝からの出来事でそれなりに疲れていたようだ……精神的に。
新しい学校は個性的なクラスメートと過ごすことになったが悪い事ばかりでもない。芹澤、皆瀬、渡來……この3人はクラスのトップカースト組であろうし普段は一身に注目を集めるのだろう。
おかげで俺は程よい「ただのクラスメート」として過ごせそうだ……まぁ、皆瀬とは少しばかり仲良くなりすぎた気がしないでもないが……。それでも中学の時と比べれば雲泥の差だ、あの頃は学校で一人の時間すら確保するのが難しかったんだから。
それなりの手応えと一抹の不安を感じながら目を閉じていた俺はいつの間にか眠ってしまった……。
――――
ふっと目を覚ました俺はぼんやりとした頭で(あぁ、寝てたのか……今何時だ……)と、枕元にあるであろうスマホを手に取ろうと身体を動かそう……とするが、ここでようやく隣にいる存在に気が付く。
ちらりと目をやるとそこには俺と一つの毛布で包まって寝ている美央の顔があった。おそらく、部屋に遊びに来たところで寝ている俺をみつけ毛布を掛けて潜り込んできた……といったところだろう。
美央がこうして布団に潜り込んでくることも特に珍しい事でもないし、その為に俺のベッドはセミダブルサイズの物を新たに使っているくらいだ……難点は若干部屋が狭くなってしまうことくらいだろうか。
とはいえ、クローゼットもあるし他には本棚と机くらいしか置いていないので今の所不便を感じてはいないのだが。
ジッと美央の寝顔を見ていると、俺が起きた気配を感じたのか美央の目がゆっくりと開いていく。ぽわっとした表情で俺と目が合うとにこーっと口元を緩め「にぃにだぁ……」と呟きながら横になっている俺に上半身を覆い被せるようにしてすり寄ってきた。起きた時よりさらに強まった甘い香りに思わず頬が緩むがとりあえず起きなくては……美央の頭にそっと手を添え、優しく撫でながら甘やかすように声をかける。
「ほら、目を覚ませ。寝ちゃってたみたいだな、悪かった」
「んー……もうちょっとだけぇ……」
普段はしっかりした美央だが寝起きは別で幼い頃のように甘えたがりの性格が全開になっている。壁にかかっている時計を見ると既に18時を回っているようだ……結構寝てしまったらしい。
そのまま美央のさらさらと柔らかい髪を堪能していると、ようやく目が覚めたのか身体を起こした美央が「んんーっ」と肩を逸らすように伸びをする。着替えたのだろう、ダボついたパーカーを着て黒のオーバーニーソックス、座っていると見えないがおそらくホットパンツでも履いているのだろう……履いていないようにも見えるがそんなことは無いはずだ。
「さって、それじゃあお母さんのお手伝いをしてくるね。二度寝しちゃだめだよ?」
ベッドから降りた美央は廊下に向かう途中でくるりと振り返ると念を押してくる。
「あぁ、おかげでだいぶすっきりしたよ、ありがとうな」
ふふっと微笑む美央の顔はどこか照れくさそうにも見えた。添い寝なんてよくやるだろうにどうしたんだと首を傾げるが、まぁ深い意味は無いのかもしれない。
美央が部屋を出た後、制服のままだったことを思い出したので着替えることにした。出かけるような用事もないのでパーカーにジーンズと極めてラフな服装だが……。
ちなみに美央が着ていたパーカーは俺のお下がりだったりもする、部屋着として楽だから気に入っているのかよく着ているのを見かけるな。
着替えてふとスマホを見ると寝ている間にメッセージが届いていたようだ……タップして開くと思った通り皆瀬からだった、まぁ他の心当たりは無いんだから当然なんだけど。
――――『明日も同じ時間に乗るんだけど、一緒に行きませんか? 孔美も一緒なんだけど』
ふむ、美央も紹介したいし丁度いいか……返信をタップしてメッセージを作る。
――――『寝てた、ごめんね。妹も一緒だと思うけどそれでも良ければ』
……送信っと。メッセージにはすぐ既読マークがついた、丁度手元にあったんだろうか……そしてすぐに返信が来る。
――――『お疲れだったのかな、大丈夫? じゃあ今日の公園で待ち合わせましょうか、楽しみです』
美央に会うのが楽しみなんだろうか? 一個下だけど同じ敷地内の中学校に通うんだから仲良くしてほしいものだ。
――――『寝たらすっきりしたし大丈夫だよ、明日は宜しくね』
メッセージを返すとすぐに両手を上げて『やったー!』と喜んでいるデフォルメされたキャラのスタンプが返ってきた。
皆瀬はそうしたものを使わないイメージがなんとなくあったので、小さくとも意外な一面が知れた事を少し嬉しく思っていると下からご飯が出来たと呼ぶ声が聞こえたきた。
――――『ご飯食べてくる、また明日ね』
返信を済ませてスマホをベッドへ放り投げる。さて、美央にも明日の事を伝えておくとしようか。
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