第7話

 そのまま2人と連れ立って駅まで行き丁度来た電車へと乗り込んだが、その間皆瀬が何かを言ってくることは無かった。


 平日の昼と言う事もあって電車内は空いており腰掛けることも出来たが、俺は2人を座らせてその前に立っていることにする……隣り合って座るなんて話もしにくいしな。


 ようやく落ち着いたのか俺とも目をあわせてくれるようになった皆瀬だが、まだお礼の言葉は言われていない。仕方ないので俺は渡來と話を続ける。





「皆瀬さんはわかるけど、渡來さんも同じ電車で良かったの? 今朝は一緒じゃなかったみたいだけど」


「うん、私と明莉は家も隣で幼馴染だからねー。今朝は部活のミーティングがあったから別々だったんだよ」


「そうなんだ、部活は何を? 勝手なイメージだけど運動部かな?」


「あったりー! サッカーだよ。相馬君は……運動出来なさそうね」


 そう言いながらあははっと笑う渡來、まぁ地味に見せてるからそのイメージは正解だろう。隣の皆瀬がやけに静かなのでちらりと見てみると……いかにも「不機嫌なんです」と言った顔で頬を膨らませている。

 

「皆瀬さんは……何か部活しているのかな?」


 さりげなーく話題を振ってみると、するとぱぁっと笑顔に変わりこちらを見てくる。何この子……可愛い……。


「私は運動が得意じゃなくて……それに妹の世話もあるから帰宅部なんです」


「妹さんがいるんだ? いくつなの?」


「今、小学4年生です。親の帰りが遅い時もあって、晩御飯は私が作るんですよ」


「明莉は料理がすっごく上手なんだよー! 私もよく御馳走になってるの!」


「そっ、そんなことないわ。普通よ普通」


「でも料理できない子も多いからね、俺にも妹が居るんだけど最近になって母さんに習い始めたみたいなんだよね」


「相馬君、妹が居るんだー? なんか落ち着いてるしお兄ちゃんって感じかも……ね、明莉!」


「そうね、すっごく頼りがいがあって、逞しくって……って、なななな、何を言わせるのよ!?」



……うん、2人がいるときは皆瀬へ話題を振ったほうが良いみたいだ……。




――――



 改札を抜けたところで周りを見渡してみるが、どうやら近くに他の生徒の姿はないようだ。ここまでは世間話をしてきたが本題は皆瀬のお礼、このまま歩きながらだと切っ掛けがないまま家についてしまうかも知れないな。


「二人はどの方角なの? 折角だし近くまで送っていくよ……途中にどこか寄れるところがあればいいんだけど」


「私と明莉はこのまま真っ直ぐ行って、途中で右に曲がってーって感じだよ。10分くらいかな? あ、家のすぐそばに公園があるからそこにしよっか!」


「そうね……公園からはすぐ家だし……でも相馬君は大丈夫? 遠回りじゃない?」


「あぁ、俺も同じ方角だよ……公園というとあそこかな、じゃあそこまで行こうか」


「えぇ!? もしかして意外と近くだったり?」


「公園の脇にコンビニがあるよね? そこを曲がって入ったところだよ」


「私たちはそこを真っ直ぐ行ったところだよー、そっかぁご近所さんなんだぁ……」


 まさか2人ともすぐ傍に住んでいるとは……近くまでと言ったがほぼ目の前まで送っていく事になりそうだ……。




 そのまま3人で帰っていくが、いつの間にか俺は両側を挟まれる形になっていた……渡來、電車に乗るまでは皆瀬の向こうに居たじゃないか……なんでこっちに来るんだよ……。


 目的の公園まで辿り着くと渡來はぽんっと俺の腕を叩いて「それじゃあまた学校でね!」と走り去ってしまった。


 残った俺と皆瀬はとりあえず公園の中のベンチへ腰掛けることにする。二人きりになったのだが皆瀬は口を噤んだままだ……。


 とはいえ、こちらから促すことも出来ずに並んで座ったまま少しの時間が過ぎていく。でもそれはどこか落ち着く、少し懐かしい感じ。


(そういえば、こうやって何も話さないままでいたっけなぁ……)


 思い出すのはあの子と過ごした時間。こうして2人で並んでぼーっとしていたっけ……。そんなことを考えていると隣から「ふふっ」っと微かな笑い声が聞こえた。


「……どうしたの?」


「ごめんなさい、どうやって伝えようかなって色々と考えちゃっていたんだけれど……なんだかこのまま過ごすのも良いなって思ってしまって……」


「あぁ、俺もそう思っていたよ。でも、時間は大丈夫?」


「……そうよね、あまり引き留めているのも悪いし。」


 そう言ってベンチから立ち上がった皆瀬は俺の前に来てゆっくり、大きく深呼吸をする。


「ふぅ……、相馬君、今朝は本当にありがとう。階段から落ちかけた時すごく怖くてもうダメなんだって思った……それに電車乗れなかった時も助けてもらっちゃって……すごく、嬉しかったの……」


「偶然居合わせただけだよ、なにも特別なことをしたわけじゃない」


「相馬君にとってはそうだったとしても、私にとっては違うのよ? 言葉じゃ伝えきれないくらい感謝してるの」


「……気持ちは受け取っておくよ、でも恩人として接しては欲しくないかな……俺も役得だったし、ね」


 意味ありげにニヤリと笑って見せる……が、怪しいやつに見えていないだろうか……知らない相手だとヤバかったかもしれない……。


 それを受けて、皆瀬も今朝の出来事を思い出したのか一気に顔を紅く染める。


「も、もぅ……からかわないでよ……。と、とにかく、本当にありがとう……出来れば、これからもよろしく……ね?」


「あぁ、クラスで騒がれるのは困るけどね。こちらこそよろしく」


「あ、ありがとう……っ! あの、良かったら、連絡先……交換しない?」




―――こうして、俺のスマホに妹と母さん以外で初めての友達が追加された。  

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